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2024年10月18日19:41

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『親密さ』濱口竜介〜演じる身振りをドキュメンタリーのように〜

225分という長い映画である。濱口竜介の映画には『ハッピーアワー』という317分の長大な映画があるのだから、その前に撮られた255分の映画というのも驚くにあたらない。彼の映画は長いのである。濱口竜介の名前を一躍世界的なものにした作品『ドライブ・マイ・カー』だって179分もあり、前半の東京を舞台にした1部とタイトルが出てきた以降の広島を舞台にした2部構成であった。さらにジャン・ルノアールが実践していたという感情を込めずに棒読みをする「イタリア式本読み」のシーンが長く使われていた。『ハッピーアワー』では、「重心」を感じる身体的なワークショップがあり、朗読会も長々と映し出されるので、映画全体が長くなっていた。そして、本作は演劇の公演自体がまるまる2時間ほど映画内に収められている。第一部は、演劇公演を迎えるための稽古、準備、そして出演者をめぐってのやり取り、中でも台本を書いた佐藤亮と舞台演出をした平野鈴の男女の関係が中心だ。そして第2部の演劇公演があり、最後にエピローグ的に第3部として、公演2年後の佐藤亮と平野鈴の意外な再会で幕を閉じる。

濱口竜介という監督は、最近出版した『他なる映画と 1・2』で克明に映画論を展開しているが、カメラの「記録性」と「断片性」、つまり「ドキュメンタリー性」と「虚構性」、「ともすれば互いに弱め合ってしまう二つの力をどうやって同時に最大化させるか」を考え続ける人である。それは濱口が敬愛する映画監督ジョン・カサヴェテスであり、ロベール・ブレッソンであり、エリック・ロメールなど様々な偉大なる映画人たちが実践してきた優れた作品たちに現れている。この映画もまた、演劇を作るという虚構世界を作り上げようとする若者たちのドキュメンタリーであり、あからさまなフィクションではないが、彼らが演劇を作る2011年、南北の朝鮮の間で戦争が起きているという設定にしてある。そのことによって、当初主演をするはずであった男性が、朝鮮人女性と結婚して韓国にいる兄と連絡が取れなくなり、志願兵となって韓国に行く決断をする。そのことで、出演者が変わるアクシデントが起きる。映画は徹底してドキュメンタリーのように演劇する彼らを撮り続ける。フィクションでありながら、妙に生々しい。台本を書いて主演することになった佐藤亮と演出をする平野鈴の男女の会話も妙にリアルなのだ。演劇の舞台演出は平野鈴と佐藤亮が共同でやっており、その演出には濱口竜介は入っていないそうだ。濱口竜介は、脚本を書き、全体をドキュメンタリー風なフィクションとして仕上げた。有名な役者が出ていないということもあるが、セリフの発声そのものがモゴモゴしていて聞き取りづらく、日常的な温度感のやり取りを徹底させている。演劇そのものでも、決して声を張るような大げさな芝居をさせていない。虚構らしさはまるでないのに、描かれるのは虚構の世界。その狭間に見えてくる演じる役と演じる人そのもののリアルな姿。

そしてこの映画では、「電車」が最初から最後までとことん使われている。平野鈴と佐藤亮が電車に乗ってる目線と思われる車窓風景がしばらく映し出されて映画が始まる。執拗に映される列車の窓から見える景色。そして映画の前半部でも、夜の橋の上で平野鈴がやって来る電車に向かって大きく手を振って、投げキッスをすると、それを電車に乗っている佐藤亮が見ていて、「見えたか」というメールが彼女から送られてくる。橋の上と列車の中の車窓からの橋の場面が切り返しで描かれる。言葉では二人はうまくいかないのだが、このような照れてしまうような愛の身振りは出来るのだ。それは電車越しという距離感がそうさせているのだ。それがラストシーンで繰り返される。今度は平行して走る二つの電車の車窓から、車両を移動しながらお互いにふざけ合って視線を交わす二人。またしても投げキッス。そして二人が乗った電車は次第に離れていくというラストシーンだ。山手線と京浜東北線の並行して走る車両に私もいつも魅せられていた。私は、この平行に走る電車のシーンを見ると、ヴィム・ヴェンダースの『まわり道』や『さすらい』の列車とワゴン車のラストの平行移動を思い出す。それぞれがお互いに視線を交わしながらも、それぞれの道が隔たっていく関係。その距離感が愛おしくせつない。

この映画は、平野鈴と佐藤亮の二人の男女の話が主軸にはあるのだが、第2部の演劇の世界も含めて、様々な人物たちが関係が複雑に絡み合い、変化しながら描かれる。質問しあいながら、別れ話をしながら、喧嘩したり、反目したり、思いを伝えようと手紙を書いてたりしながらも、その思いは伝わらず、すれ違っていく。固定的で円満な収まりのいい関係は描かれない。愛の成就なんて幻に過ぎないとでも言うように、それぞれがそれぞれの自己を抱えつつ、開いたり閉じたりを繰り返す。第一部の最後で、すれ違っていた平野鈴と佐藤亮が夜明けの街を歩く二人がシルエットで映し出される美しいシーンがある(写真)。顔は一度も映されず、二人の会話のみがロングのシルエットで朝焼けの美しい空を映し続ける。同じように、ラストシーンの電車の再会も、二人は現在の恋人同士であるかのように、明るくはしゃいでいて心がなごむ。関係はすれ違い、うまくいかなくても、心が通じ合う美しい瞬間は訪れるのだ。そんな「親密さ」があれば、それぞれが別々であろうともそれでいいのではないか。


2012年製作/255分/日本
劇場公開日:2013年5月25日

監督・脚本:濱口竜介
撮影:北川喜雄
編集:鈴木宏
整音:黄永昌
助監督:佐々木亮介
劇中歌:岡本英之
舞台演出:平野鈴
キャスト:平野鈴、佐藤亮、伊藤綾子、田山幹雄、新井徹、手塚加奈子、菅井義久、香取あき、土谷林福、渡辺拓真、永井孝憲、藤村早苗、今川健吾
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