ロバート・アルドリッチの1954年製作の長編二作目。なんだか身も蓋もない日本語タイトルだ。日本未公開作品だったが、2025年「アメリカン・ギャング・ノワール映画祭」で上映されたようだ。シンガポールを舞台にしたフィィルム・ノワール。私立探偵が、水素爆弾を製造できる原子力科学者の誘拐事件に巻き込まれるストーリー。『キッスで殺せ!』(1955)でも、放射能を放つ核物質が入っているパンドラの箱を取り扱っていたアルドリッチ。『合衆国最後の日』(1977)でも核を積んだ大陸弾道ミサイルを発射させかねないサスペンスが描かれていた。ロバート・アルドリッチは、人類を破滅させかねない危険な「核問題」に強い関心を持っていたのだろう。「核」を利用とする権力や国家への不信、その利権に渦巻く欲望・・・。
シンガポールのチャイナ街の狭い路地やアジア人たちを登場させながら、フィルム・ノワール的なスモークと光と影を使った怪しげな雰囲気のセットで撮影されている。私立探偵キャラハン(ダン・デュリエ)は、友人のジュリアン(パトリック・ノウルズ)を探すよう依頼され、事件に巻き込まれていく。依頼主はジュリアンの妻フレネシー(マリオン・カー)で、キャラハンの元恋人だ。キャラハンは戦争に行って、戻ってきたら恋人は人妻だった。基本的には、この三角関係の友情と恋の物語だ。
幸運を呼ぶクジを売っているアジア系女性に声をかけられた後に、私立探偵のキャラハンが上と下で挟まれる狭い階段がまず印象的。部屋の天井にシーリングファンが回る影の描写もアジアっぽくていい。しかし、前半は説明的な会話シーンが多く、まったりとして面白くない。なによりも物語の陰の主役となる女フレネシー(マリオン・カー)があまり魅力的に描かれていない。キャラハンの友でもあるジュリアンは、「危ないことには手を出すな」とキャラハンが忠告するにもかかわらず、水素爆弾を製造できる原子力科学者オコナー博士(アーサー・シールズ)の誘拐事件に加担し、軍人に扮したジュリアンは博士と一緒に車にいるところを写真に撮られる。博士の身代金を釣り上げて金を儲けようとする首謀者ペタラス(ジーン・ロックハート)は、写真を撮ったカメラマンを部下に殺させ、ナイフの指紋からジュリアンとキャラハンに殺人の嫌疑がかかる。警察に追われつつジュリアンを探すキャラハンは、元恋人であるフレネシーとやり直すことを約束し、夫のジュリアンをまずは救おうとする。
後半は、オコナー博士を奪還するためのアクション映画となっていく。マンホールの蓋からの出入りや敵の隠れ家へ手りゅう弾を持って天井から侵入するなどのアクションは楽しめる。最後は、女との幸せを夢見たキャラハンだったが、女から「あなたは勝手に私を聖女扱いして」、あなたが愛したのは「愚かな18歳の小娘だった」、「汚れのない人形よ」と言われる。私が愛していたのはあなたではなく、汚れた今の私を知って愛してくれた死んだ夫のジュリアンだったと真実を告げられる。オコナー博士の奪還には成功したキャラハンだったが、愛する女は手に入れられなかった。
フィルム・ノワール的な街の描写、男同士のアクションを描くアルドリッチ節の片鱗は感じられるが、軸となる女性と友人の描かれ方が曖昧で物足りない。
1954年製作/82分/アメリカ
原題または英題:World for Ransom
監督:ロバート・アルドリッチ
脚本:リンゼイ・ハーディ、ヒューゴ・バトラー
キャスト:ダン・デュリエ、パトリック・ノウルズ、マリオン・カー、ジーン・ロックハート、レジナルド・デニー、ナイジェル・ブルース、アーサー・シールズ
☆☆☆3
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