mixiユーザー(id:3912568)

2026年10月01日15:33

66 view

「ナギダイアリー」深田晃司〜孤独と孤立、そして見つめ続ける関係〜

傑作『淵に立つ』(2016)がやっぱり忘れられない深田晃司監督。『よこがお』(2018)や『歓待』(2010)などの不穏な映画や、『さようなら』(2015)、『ほとりの朔子』(2013)、『LOVE LIFE』(2022)などいろいろと考えさせられる作品もあるし、『海を駆ける』(2018)のようなあまりパッとしない作品もあった。近作『恋愛裁判』は未見だが、新作『ナギダイアリ−』はどうなんだろうと思って観に行った。結論から言うと、微妙で曖昧な映画である。深田晃司作品は、曖昧な映画が多い。ハッキリ断定しないし、余白を好む。

深田晃司は平田オリザ率いる劇団「青年団」の演出部に所属していた過去を持つ。そんな関係からか、平田オリザの代表作『東京ノート』に着想を得て、深田監督自らオリジナル脚本を執筆した。岡山県奈義町をモデルにした「ナギ」を舞台に新たな物語を描き、企画の立ち上げから9年の歳月をかけて完成させた作品だという。

これまでの深田晃司作品は、閉鎖的な空間に異端者が侵入してくることによって、関係に変化が訪れることを描いた映画が多い。『淵に立つ』の浅野忠信、『よこがお』の市川実日子、『歓待』の古舘寛治など、どの異端者も不気味でこれまでの日常を脅かす不穏な存在だった。あるいは『LOVE LIFE』のように団地を舞台にした愛の距離と関係を描いた作品もあった。さて本作はどうか・・・。人と人との「関係」の映画であるのは間違いない。石橋静河がナギに来ることによって変化する「関係」、そして「孤独」と「孤立」についての映画だ。

冒頭、自衛隊のトラックが通り、その向こうにトランクを引きづりながら、石橋静河がこの街にやってくる。なぜ自衛隊の車をわざわざ用意して通過させたのか?と疑問に思っていると、演習の砲撃の音が聞こえてくる。私の家も近くに自衛隊の演習場があるので、あの「ドーン」という砲撃の音には馴染みがある。ナギ町の防災放送では、毎日の演習場の実弾砲撃訓練の予定が告げられる。テレビではロシアとウクライナの戦争のニュースが流れており、世界で起きている戦争とこの日本の田舎町が地続きであることを感じさせる。砲撃の訓練の音は、美術館の中でも聞こえ、何か漠然とした不安を感じさせる。

自然豊かな町・ナギで、ひとり創作に打ち込む彫刻家の寄子(松たか子)。ある日、東京と台湾で建築家として活躍する友梨(石橋静河)が数日間の休暇をとり、別れた夫の姉である寄子のもとを訪れる。寄子の彫刻のモデルになるために。若くして妻を亡くした寄子の幼なじみ・好浩(松山ケンイチ)は役場に勤め、防災放送を毎日伝えている。その息子の中学生の春樹(川口和空)は寄子に絵を教わっているアーティスト志望だ。親友の圭太(藤原聖)は自衛隊の息子で学校に馴染めず不登校。そんな人物たちが、友梨が来たことでいろんな変化が起き、それぞれが関わり合う日常の9日間を日記のように淡々と描く。

まず寄子と友梨の関係。友梨が夫と離婚したため、義理の姉妹関係でなくなった二人が今でも仲良くしていて、元夫の実家に元義姉に会いに来る友梨。「変かしら?」と友梨が寄子に問うと、「変でもいいんじゃない」と返す寄子。そして中学生の圭太が、「もしかして、友梨さんて寄子さんの、恋人ですか?」と友梨に問う。笑って、「友達だよ」と答える友梨。しかし、ここでいきなり、クィア的な関係が示唆される。それは後に、寄子自身の「愛していた人」のことが語られ、それは幼馴染の同性の早苗であり、その早苗と好浩(松山ケンイチ)が結婚してしまった三角関係の過去が明らかになる。そしてその愛した早苗が死んでしまったことで、ナギに帰ってくることにしたという寄子の過去。彼女の抱えている喪失感と孤独。さらに物語は、圭太自身のクィア的な問題へと展開し、圭太と春樹との恋問題とも重なっていく。しかし、性的マイノリティであるクィア的な関係の生きづらさをこの映画が主要なテーマにしているかといえば、そうでもない。あくまでも、関係の一要素に過ぎない。

好きな人への思いを伝えられないまま、死んでしまったこと、失ってしまったことの後悔と喪失感の方が大きな要素だ。だから寄子のそばに死んだ早苗はふらっと現れる。幽霊として。寄子の眠りのシーンで早苗は登場するのだが、友梨にも眠りのシーンがる。圭太と春樹に呼び出されて相談に来たのに、春樹の家で眠ってしまうシーン。そこで目覚まし時計で起こされた友梨は、好浩の寝室で春樹が描いた自分の顔のスケッチを見て驚く。眠りによって導かれる好浩の本音。友梨のスケッチを見て好きになったという好浩の告白。こうして友梨は、好浩の死んだ妻・早苗を重なっていく。

こんな風に大きな事件は何も起きないながら、友梨がナギに来たことによって、関係に変化が生まれ、あるいは陰に潜んでいたこと、心の内に留めていたことが明らかになっていく。友梨もまた元夫との関係、仕事と自分のアイデンティティについてのモヤモヤを明らかにしていく。

ナギの田舎町で彫刻に没頭する寄子は、「孤独かもしれないけど、孤立はしていない」と友梨に言う。木があって、モデルとの関係があって、彫刻がある。誰もが寂しさを抱えながら、それぞれが孤独である。だけど孤立してはいけない。そして「私は友梨さんを孤立させないから」とキッパリと寄子は言う。東京で友梨は自分を見失い、「孤立」し、居場所を失っていた。それがナギに来て、彫刻のモデルとなって、寄子に見つめられることによって、世界とのつながりを感じた。居場所を持った。タクシーの中から自転車で走っていく圭太と春樹を見ながら、友梨は「行け〜!行け〜!」と声を上げて応援する。それは若い世代の未来への応援であり、自分自身への励ましの応援でもあった。

悪くはない映画だが、すごくいい映画とも思えなかった。それぞれが抱えているモヤモヤを、若い子たちのある行動をきっかけに、前へと一歩進むような映画なのだが、強く迫ってくるものがなかった。カメラの原型である「カメラ・オブスクラ」を作るワークショップがあって、逆さまの映像を覗くシーンがある。そこで圭太は春樹に告白する。それを「カメラ・オブスクラ」で友梨が映像で見つめる。本音や本当のところなど、他者には何も分からないが、見つめ続けることで関係は生まれる。映画もまた、何かを明らかにするのではなく、カメラで撮って映し続けることしかできない。その「関係」のつながりを描いた映画でもあるのだろう。


2026年製作/110分/G/日本・フランス・シンガポール・フィリピン合作
配給:スターサンズ

監督・脚本:深田晃司
製作:四宮隆史
エグゼクティブプロデューサー:大野二郎、ギョーム・モレル、ジョセット・アタイデ、マリア・ソフィア・アタイデ=マルード
プロデューサー:大野敦子、長井龍、角田道明
コ・プロデューサー:小山内照太郎、カリーヌ・チチコフスキー、陳思恩、佐藤央
撮影:四宮秀俊
照明:加藤大輝
録音:益子宏明
美術:大月由香里
彫刻:吉田愛美
編集:シルビー・ラジェ
音楽:李沛芩
エンディングテーマ:イーノ・チェン
VFXプロデューサー:平野宏治
カラリスト:ソラウィッチ・クンピニジ
キャスト:松たか子、石橋静河、川口和空、藤原聖、藤間爽子、水間ロン、申瑞季、松山ケンイチ
☆☆☆☆4
写真引用コピーライト 2026 ナギダイアリー・パートナーズ (スターサンズ/八朔ラボ/ワンダーストラック) / Survivance / Momo Film Co.

4 6

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2026年10月
日 月 火 水 木 金 土
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031