本作はケイリー・グラント主演のスクリューボール・コメディの名作の一つと言えるだろう。ケイリー・グラント主演と言えば『赤ちゃん教育』(1937)、『フィラデルフィア物語』(1940)などの傑作コメディもあるし、アルフレッド・ヒッチコック映画の数々の名作もある。憎まれない語り口の軽妙さと身軽な身のこなしが多くの作品で彼が使われた理由だろう。本作は、すれ違いからケンカして亀裂が入った夫婦の離婚がなかなか成立しないというロマンチック・コメディだ。『めぐり逢い』『我が道を往く』などを手がけたレオ・マッケリー監督、1938年・第10回アカデミー賞で監督賞を受賞。
夫の妻への噓、言い訳、アリバイ工作から映画は始まる。ジェリー(ケイリー・グラント)は妻ルーシー(アイリーン・ダン)にフロリダへ行くと嘘をついて友人たちとポーカーを楽しみ、一晩家をあける。フロリダに行った割には日に焼けていないと日焼けサロンで肌を焼いているのだ。しかし家に帰ると、ルーシーが他の男と外泊していたことが発覚。ジェリーの嘘もルーシーに暴かれ、2人は大喧嘩の末、離婚を前提に別居することを決める。言い訳は嘘か本当か・・・。「夫婦の間で相手を疑い出したらおしまいだ」なんて言うセリフが交わされ、愛するがゆえに、疑いが募り、嫉妬と嘘と誤解が交錯する。愛する男女が関係を維持するのはなかなか難しい。婚約していたカップルに障害が次々と起きて、なかなか結婚にたどり着かないロマンチック・コメディは多いが、本作は、離婚にもなかなかたどり着かないという物語である。
原題は「THEAWFUL TRUTH」。「ひどい真実」「恐ろしい(直視したくない)本当のこと」といった意味か。妻ルーシーが男と外泊した理由は、「ドライブ中に車が故障し、やむを得ず声楽教師の男のアルマン(アレクサンダー・ダルシー)とホテルに一泊することになった」ということらしいが、ジェリーはなかなか信じられない。アイリーン・ダンが最初に登場する白いドレスの華々しさは、妻の浮気を疑いたくなる美しさだ。ジェリーのフロリダ土産に買ってきたフルーツには、「カリフォルニア産」と印字してあり、彼の嘘は妻にすぐバレる。自分が嘘をついたからこそ、なおさら妻のことが信じられない。
離婚調停の裁判があり、「90日後に離婚が正式成立する」ことが決まる。二人が知り合ったキッカケになった愛犬「ミスター・スミス」の養育権をめぐって、裁判所でも争われるのが可笑しい。ワイヤー・フォックステリアの愛犬「ミスター・スミス君」は大活躍。助演賞ものだ!離婚が成立する90日間の間も、ジェリーはスミス君との面会日を裁判官に主張し、その度にルーシーのところにやってくる。ルーシーが隣に住む男ダン(ラルフ・ベラミー)に言い寄られていた時もジェリーはスミス君に会いに登場し、ピアノを弾いてスミス君とセッション。二人の邪魔をする。その後でも、誤解を解きたいとルーシーがアルマンに相談しているときに突然ジェリーがやってきて、咄嗟にルーシーがアルマンを寝室に隠し、彼の帽子を隠す。それをスミス君が見つけてしまう場面も楽しい。ジェリーとアルマンの二つの似たような帽子とさらに隣のダンと母親がやってきて、二人の男が寝室に隠れる羽目になっての大騒ぎ。男を二人も寝室に隠す女だと思われて、ルーシーとダンとの婚約は破綻する。事件の発端はスミス君の帽子の発見からともいえる。
前半は妻ルーシーとダンとの恋の進行が描かれ、都会好きのルーシーがオクラホマで暮らすと聞いて、そんな田舎で大丈夫なの?と皮肉を言いながらジェリーは邪魔をする。ケンカの発端となった音楽教師のアルマンのところに乗り込む場面では、ケイリー・グラントが柔術で投げ倒されたり、椅子でズッコケたり、コメディ・アクションが満載。楽しませてくれる。
後半は夫のジェリーと大富豪の令嬢バーバラ・ヴァンス(モリー・ラモント)が婚約しようとするのを、ルーシーが邪魔をするという展開。この映画の一番の見どころは、ルーシーが婚約しようとするバーバラの屋敷に妹と称して乗り込んでくるところだ。バーバラからの電話にジェリーの家で出てしまったルーシー。「どなた?」と女性が電話に出たことに訝るバーバラに、咄嗟に「パリから来ている妹だ」とジェリーが噓をついたことから、ルーシーは妹に成りすます。それもジェリーがクラブで一緒に踊っていたナイトクラブの歌手ディクシー・ベル・リー(ジョイス・コンプトン)の真似をするのだ。酒を飲んで酔っ払って、下品に歌まで歌ってバーバラの両親たちの顰蹙を買う。そのまま、車で大音量のラジオをかけてジェリーとドライブ。警察に止められている間に、車を崖に下に転落させる。さらに警官のバイクに二人乗りして、クラクションを鳴らして大騒ぎ。このアイリーン・ダンのハチャメチャな弾けた騒ぎぶりがとにかく楽しい。
ラストは叔母の別荘で別々の部屋で寝ることになった二人。離婚が法的に成立する午前0時(カウントダウン)が迫るなかで、部屋の扉の鍵が壊れていて、風で扉が開いて、二人はそれぞれの部屋のベッドからお互いを気にし合う。未練のある二人は、仲直りのキッカケをつかもうと、壊れた扉を利用しようとする。窓を開けて風を入れて、扉を偶然開けようとするジェリー。ところが別荘にいた黒猫が扉が開くのを邪魔するのだ。黒猫も名演技!最後までいろんな邪魔・障害がありつつも、やっと最後は同じベッドへ。鳩時計のからくり人形の男が女性の部屋に入っていくところを見せて、THE END。ベッド・インは見せられないというハリウッドの倫理規定「ヘイズ・コード」を守りながら、オシャレにからくり人形で終わらせている。この作品もまたスクリューボール・コメディの傑作である。
1937年製作/91分/アメリカ
原題または英題:The Awful Truth
監督・製作:レオ・マッケリー
原作:アーサー・リッチマン
脚本:ビナ・デルマー
撮影:ジョセフ・ウォーカー
編集:アル・クラーク
キャスト:ケイリー・グラント、アイリーン・ダン、ラルフ・ベラミー、アレクサンダー・ダルシー、セシル・カニンガム、ロバート・アレン、モリー・ラモント、ジョイス・コンプトン
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