mixiユーザー(id:3912568)

2026年08月31日22:42

56 view

「上海から来た女」オーソン・ウェルズ〜幻惑する鏡の中での騙し合い〜

ずっと見たかったオーソン・ウェルズ作品。アマプラにて鑑賞。リタ・ヘイワースの美しき悪女ぶり。ラスト、オーソン・ウェルズ演じるマイクが気を失って目覚めた休園中のチャイナ遊園地のクレイジーハウスの中の異様な世界。まさに迷宮に迷い込んだような奇妙な構築物と影、闇の中の長い滑り台と龍の口、マジックミラーの歪んだ鏡の部屋。そして闇の中で懐中電灯を持って現われるエルザ(リタ・ヘイワース)、鏡に映る何人ものマイクとエルザ。エルザのアップ。さらに杖とともに足を引きづりながら現われる弁護士で資産家の夫のアーサー・バニスター(エヴェレット・スローン)。バニスターとエルザがミラーハウスの中で銃を撃ち合う。その幻惑的な映像処理。砕け散る鏡。幻影に惑わされ騙し合った男と女が鏡の中で砕け散る。割れた鏡といくつもの顔。見事なシーンだ。このラストの数分間を見るだけでも価値のある映画だ。映像にこだわり続けたオーソン・ウェルズの真骨頂とも言える名シーンだろう。

ニューヨークはセントラルパーク。散歩中のマイク(オーソン・ウェルズ)は、馬車に乗る美しい女エルザ(リタ・ヘイワース)に声をかける。「僕という人間はつくづく愚かだと思う」という彼自身のモノローグとともに、陳腐な男女の出会いが描かれて始まる。エルザにタバコを渡すマイクだったが、「吸わない」と言ったエルザは、タバコをハンカチに包んでバッグにしまう。しかし、後にヨット航海中にタバコは吸っている。ヒーローのようにチンピラからエルザを助けたマイクは、駐車場まで彼女を送り、エルザにはご主人がいることを聞かされる。そして、船員として高い給料でヨットで雇うと誘われる。そしてバッグの中の銃。「撃ち方は知らないんですの」と自らの言葉を裏切る前フリを言うのだ。車で去って行くエルザを見送るマイク。すると、マイクの後ろの柱の陰から男が現われ、マイクの動きとともにカメラがドーリーバックすると、もう一人、柱でタバコを吸っていた男がいて、マイクの前を交差して横切っていく。のちに登場するジョージ・グリズビー(グレン・アンダース)やシドニー・ブルーム(テッド・デ・コルシア)をさり気なく登場させている。面白いカメラと人の動きの演出だ。

バニスターとエルザ夫婦のヨットに船員として雇われたマイクは、次第にエルザと親密になっていく。しかし、グリズビーという男が「5000ドルを渡すから自分を殺してくれ」とマイクに奇妙な依頼をしてくる。メキシコのアカプルコの海が見える高台で、汗いっぱいの顔に浮かべる笑顔が不気味なグリスビーのアップが印象的だ。偽装殺人で保険金を手に入れて別人として生きるのだと言う。エルザとマイクの行動を常にバニスターの命令を受けたブルームが見張っており、そんなブルームをマイクが殴り倒す。メキシコの打楽器の音楽とともにエルザが柱のある路地を走る横移動のショットに続いて、踊る二人のラブシーン。「スパイがいない場所へ逃げよう」と言うマイクに、「逃げられないわ。逃げられないのなら、それを利用するの」と言うエルザ。

さらにサンフランシスコに着いて、夜の水族館の水槽の前でのマイクとエルザのシルエットの顔のアップとキスシーン。シルエットが映画内の随所で効果的に使われている。エルザと逃げる資金にしようとグリスビーの策略に乗ったマイクは、「グリズビーを殺したのは私です」という書類にサインして、偽装殺人を実行する。「射撃の訓練をしてた」と言って人々がいる前で見せかけの銃弾を放つ。グリズビーのアリバイのためにマイクは利用されたのだ。ところが、グリズビーは本当に殺されてしまった。サインをした書類を証拠にマイクは逮捕され、裁判にかけられる。何者かがマイクを罠に嵌めたのだ。

バニスターがマイクを弁護する奇妙で滑稽な裁判が行なわれ、その裁判の途中でマイクが薬を飲んで騒ぎになる。マイクが暴れ、その騒ぎの最中に裁判所から逃げ出すのだ。中国人の剣劇の芝居小屋に逃げ込んだマイクをエルザが謎の中国人を呼んで助け出そうとする。しかし、朦朧とする意識の中で、自分の無実を証明するグリズビーを殺した拳銃を、エルザのバックの中で見つける。エルザがグリズビーを殺した犯人だったことを知るマイク。そもそもエルザがグリズビーと共謀して、財産目当てで夫のバニスターを殺そうとしていたのだ。ところが計画を嗅ぎつけたブルームをグリズビーが殺してしまい、真相が明らかになるのを怖れたエルザは、マイクを犯人に仕立ててグリズビーを殺した。そしてラストは、エルザの策略を知ったバニスターがエルザを殺しに来たのだった。

マイクに「一緒に朝日を見たい」と言っていたエルザだが、自分の心しか信じられなかった。マイクは旅の途中で、かつて見た「血に群がるサメ」の話をしていたが、まさにエルザもバニスターもグリズビーも「血に群がるサメ」だった。傷つけ合って殺し合う。「悪から逃げられないなら、悪を利用する」と言っていたエルザ。「だが結局は君が悪に利用されただけだ」とマイクは言い放つ。そして撃たれたエルザは「朝日によろしく」と言う。最後に「怖い。死にたくない」と泣き叫ぶエルザを残して、マイクは出ていく。「人はみんな、誰かの道化。賢くなるには、年を重ねるしかない」というモノローグが入って、誰もいない街の俯瞰ショットで映画は終わる。

ファム・ファタールを演じるリタ・ヘイワースとオーソン・ウェルズは1943年に結婚して1948年まで一緒にいた。この映画は夫婦として共演したことになる。誰もが不気味で、何を考えているか分からない。「誰かが私を殺そうとしている」と疑うバニスター。「私を殺してくれ」と依頼するグリズビー。それぞれが探り合い、騙し合い、何かを企んでいる。愛は偽装は本物か。虚像に惑わされる道化。やや物語は入り組んでいるが、フィルム・ノワールの傑作であるのは間違いない。何よりもオーソン・ウェルズの映像魔術。歪んだアップの多用とシルエット、鏡の中の男女の幻惑的な映像は映画史に残る名シーンだ。


1947年製作/アメリカ
原題または英題:The Lady from Shanghai
配給:インターナショナル・プロモーション

監督・脚本・製作:オーソン・ウェルズ
原作:シャーウッド・キング
撮影:チャールズ・ロートン・Jr.
音楽:ハインツ・ロームヘルド
特殊効果:ローレンス・バトラー
キャスト:リタ・ヘイワース、オーソン・ウェルズ、エベレット・スローン、グレン・アンダース、テッド・デ・コルシア
☆☆☆☆☆5
2 7

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2026年08月>
日 月 火 水 木 金 土
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031