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2026年08月23日23:04

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「熱い夜の疼き/クラッシュ・バイ・ナイト」フリッツ・ラング〜岩に砕ける波しぶきの欲望に抗えるか〜

フリッツ・ラングの『仕組まれた罠』(1954)がレールを疾走する機関車に人生の運命や欲望を象徴させていたように、本作は船や港が舞台であり、冒頭から岩に砕け散る波しぶきが映し出され、それは度々描写される。その波しぶきそのものが人間の欲望であり、運命なのだろう。人生の荒波、運命に人は抗うことが出きるのか?そして主人公のメイ・ドイル(バーバラ・スタンウィック)は、運命に抗い世間の荒波に立ち向かえるような、そんな強い男を求めていた。

『仕組まれた罠』(1954)は機関士グレン・フォードたちが機関車を車庫に入れるまでを丁寧に描いて始まっていたが、本作も港で船が魚を水揚げする様子が丁寧に描かれて始まる。魚の缶詰工場の作業風景が映し出された後に、一人の女、メイ・ドリル(バーバラ・スタンウィック)が故郷の街に帰ってくる。店で酔ってアコーディオンを弾く父を家に連れて帰る漁師のジェリー・ダマード(ポール・ダグラス)が、メイを見つけるが、彼女の態度は冷たく素っ気ない。カリフォルニア州の漁師町モントレーに戻ってきたメイは、東海岸ピッツバーグで既婚者の政治家の男と関係を持っていたが、彼の死後に正妻に裁判を起こされ、はした金しかもらえず、行く宛てもなく帰って来たのだ。弟ジョー(キース・アンデス)は、渋々ながら彼女を家に住まわせる。ジョーの恋人ペギーをマリリン・モンローが演じており、はち切れんばかりの若さがあふれている。ペギーは垢抜けた都会の女メイを気に入る。

ジョーが乗っている漁船の船長ジェリーは、純朴でお人好しの善人。思い切ってメイを映画に誘い、デートにこぎつける。そして親友の映写技師のアール(ロバート・ライアン)を紹介する。アールは、自信たっぷりの遊び人。妻は芸能人で、旅行に出たきり帰ってこない。アールは、田舎に納まるタイプではない派手なメイを誘おうとするが、メイはアールに惹かれつつ反発する。ダンスをしながらメイの香水のことを聞き、「香水は俺が詰め替えるよ」と言うアール。「俺も昔は一目置かれた存在だった」と自らを自慢気に語る。図体が大きいのに臆病なジェリーに腹を立てつつ、アールがくれたタバコを投げ捨て、自分のタバコを出して吸うメイ。そんな強引な男アールに反発して、メイは「いい妻」になろうとジェリーの求婚を受け入れる。自らを変えるために、「幸せで穏やかな暮らし」を求めてジェリーと結婚し、赤ちゃんまで生まれる。しかし、メイの心の中は単調な毎日に満たされぬ思いが膨らんでいく。

そんな時、アールが妻と離婚し、珍しく落ち込んでいるから元気づけようと、ジェリーはアールを家に呼んだ。蒸し暑い夜だった。「Clash by Night」とは、「夜の衝突」という意味か?まさにこの夜、アールを家に泊めたことから、運命の歯車が動き出す。「こんな夜に人を招くなんてどうかしてるわ」と下着姿で呆れるメイだったが、アールに「生活に疲れていないか?」と真実を言われて動揺する。夜、眠れずに窓の外を見てタバコを吸うメイ。岩に砕け散る波しぶきの映像が再び挿入される。翌朝、呑気なジェリーは何も気にせず仕事で家を出ようとすると、メイが出かける前のキスを求める。「いつも嫌がっているくせに」と驚くジェリー。二人の日常の関係が垣間見えつつ、メイが今朝は不安でいっぱいなことを描いている。そのあと、コーヒーに入れて一人泣く場面は、変われなかった自分自身への哀しみ、自らの満たされぬ思い、平凡な家庭に納まることなどできない自分の性(さが)を感じてのことだろう。酔い潰れたアールは目が覚め、同居していた父も出て行って二人きりになると、「オレを助けてくれ」とアールはメイに抱きついてくる。赤ちゃんを言い訳にして一度は逃げたメイだったが、再び二人きりになると、ジェリーは強引に皿を洗うメイを後ろから抱きすくめてキスをする。最初は抵抗するメイが次第にアールを受け入れていくのは、逃れられないメイの運命だったのか・・・。

メイはアールとデートを重ね、なかなか二人が帰ってこないと不審に思ったジェリーがメイのタンスの引き出しを開けると、そこには香水の瓶とシルクのネグリジェの箱があった。以前にアールが「香水は俺が詰め替えるよ」とメイに言っていたセリフが実現されていたのだ。また、街を出ようと浜辺で相談しているアールとメイ。ここでは、メイが二本のタバコに火をつけ、アールに1本を差し出す場面がある。以前にアールがくれたタバコを投げ捨て、自分だけのタバコを吸っていたかつてのメイとの違い。動作の反復と差異が描かれている。

鳴りやまない目覚まし時計を叩き付け、無理やりヨリを戻そうとするジェリー。「なんて悪い女だ。性根が腐っている」とジェリーが言うと、「わかってるわ。そんなこと」と言って、「明日、発つわ」と別れを告げるメイ。ジェリーはアールを殺そうと映写室でもみ合っているところにメイが現れ、ジェリーによるアール殺しは中断される。家を出て、赤ちゃんを連れて船に行ったジェリー。ここでメイはアールと街を出ていくことを思い留まる。不倫の果ての逃避行を決行する二人の前に、ハリウッドの「ヘイズ・コード」が立ちはだかる。メイは改心し、アールと別れて夫と子供のところへ戻るのだ。二人の男たちの間で揺れ動く複雑な女心。欲望、愛、荒波のような人生と穏やかな家族の生活・・・。「夫を騙して他の男を愛した女の罪」は許されるのか。夫のジェリーは、「そうするしかないんだ。人は互いに信じるしかない」という諦めともとれる言葉を口にして、映画は終わる。

中途半端な愛の物語にも思えるが、不倫の逃避行を描けない当時のハリウッドの「ヘイズ・コード」のもとではこれが限界だったのだろう。アンソニー・マンの傑作『真昼の欲情』(1958)を思い出した。あの映画でも欲望に満ちた暑い夏の夜が描かれていた。『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(1946)も年上の冴えない夫と不釣り合いな美人妻が、やってきた若い男と恋愛関係になり、男と共謀して夫を殺す愛と欲望のサスペンスであった。「ヘイズ・コード」の限界の中で、それぞれが愛と欲望に翻弄される人間たちを描いている。フリッツ・ラングは、そんなどうにもならない人間の欲望、暴力を描き続けた映画監督である。


製作1952年/アメリカ/105分
原題:CLASH BY NIGHT
クラッシュ・バイ・ナイト (ソフト題)
ウォルド=クラスナ製作 RKO配給

監督::フリッツ・ラング
脚色:アルフレッド・ヘイズ
原作戯曲:クリフォード・オデッツ
製作:ジェリー・ウォルド、ノーマン・クラスナ、ハリエット・パーソンズ
撮影:ニコラス・ムスラカ
音楽:ロイ・ウェブ

キャスト:バーバラ・スタンウィック、ポール・ダグラス、ロバート・ライアン、マリリン・モンロー、キース・アンデス、シルヴィオ・ミンチオティ、J・キャロル・ナッシュ
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