ミッキー・スピレイン原作の探偵小説マイク・ハマーシリーズの『燃える接吻を』(1952年発表)を映画化した作品。1955年ロバート・アルドリッチによるフィルム・ノワール。ゴダールやトリュフォーなどヌーヴェルヴァーグの映画監督たちに多くの影響を与えたと言われるカルト的作品。ずっと見たかった作品だが、アマゾン・プライムにて鑑賞できた。
普通のフィルム・ノワールの犯罪モノだと思って見ていたら、最後にとんでもないものが出てきてビックリした。ロバート・アルドリッチには、『合衆国最後の日』(1977)のような国家を相手に戦うポリティカル・サスペンス娯楽映画も確かにあった。核ミサイル発射の一触即発の危機が描かれていた。本作はアルドリッチの初期のデビュー5作目の作品ながら、単なる犯罪モノの枠を超えた「光るパンドラの箱」を登場させ、近未来のSF的な人類の恐怖までを描いている。
オープニングがまず素晴らしい。夜の道路を走る裸足の女の足元。センターラインの白い線。女は裸足にコート姿で、走る荒い息づかいが聞こえる。車のライトが彼女を照らし、車を止めようとする彼女のそばを走り去っていく。そして1台の車の前に彼女が立ちはだかり、車は砂煙を上げて急ブレーキで止まる。私立探偵マイク・ハマー(ラルフ・ミーカー)は、飛び出して来た女(クロリス・リーチマン)を危うく轢き殺すところだった。ラジオからナット・キング・コールのブルースが聞こえてくる。画面の上から降りてくるタイトル、キャストの字幕。女の荒い息づかいが続く。ロサンジェルスの深夜の道路。精神病院から逃走した女性を探す検問が行なわれている。オープンカーで風が女の髪やコートの襟をなびかせる。この女を車で拾ったばかりに、マイク・ハマーは女と一緒に殺されそうになる。「バス停に着いたら私を忘れて。着けなかったら・・・、私を覚えておいて」と言い残して、女は殺される。急に出てきた車、そして女の叫び声。拷問されていると思われる揺れる女の足が映し出される。意識を失って倒れているマイク。男の靴の足元。意識を失ったまま、マイクと女を乗せた車は崖から転落させられる。車で去って行く男の足元だけが映し出される。そして病院で目覚めるマイク。マイクは一命を取り留め、女は死んだ。暴力は直接的に描かれることなく、女の裸足の足と荒い息づかい、そして悲鳴だけが印象に残って映画は始まる。
私立探偵マイク・ハマーは、殺された女クリスティーナの裏側にある闇を暴こうと奔走する。それは正義感と言うよりも、大きな獲物(金)にありつけそうだという下心があったからだ。そして命を狙われ、友人も殺されて、恋人のヴェルダ(マキシン・クーパー)も何者かに拉致されてしまう。正義のヒーローではない。暴力的なチンピラ探偵だ。離婚案件を主な仕事にしているマイクは、助手であり恋人でもあるヴェルダを男へ接近させ、浮気の証拠をつかんで利益を得る。そして女とキスしながら真実に近づいていく。恋人のヴェルダにキスするだけでなく、クリスチーナの同居人にもキスするし、ギャングのアジトであるプールのある邸宅に乗り込んだとき、近づいてきた女にもキスして利用する。男を殴り、秘密を暴こうとマイクが動く度に、まわりで人間が殺されていく。友人の自動車整備工のニック(ニック・デニス)が殺された時はマイクも意気消沈。ニックのエンジン音を真似た陽気な口癖、「ババボーン!」がなんとも良かった。
クリスチーナの同居人が隠れていたホテルの階段の煽りと俯瞰ショットがなんとも迷宮的。海辺の殴り合い、クリスチーナがマイクに手紙まで書いて残した「リメンバー・ミー」という言葉に隠されていた詩の内容、そしてクリスチーナが死の間際に飲込んだロッカーの鍵、そして隠されていた「光るパンドラの箱」。ちょっとゴタゴタしながらも辿り着いた秘密の隠しもの。マイクはクリスチーナの死の真相を探っていくうちに、とんでもないモノを手にすることになる。それは人類を破滅させる可能性のある核物質が入っている箱であった。プルトニウムのような核物質が、そんな箱に保管できるとは思えないが、誰もがどう扱っていいのか分からないものとして描かれている。そもそもこの犯罪が、この箱をどう利用しようとしたのかは何も描かれない。ソブリン医師はどこに運ぼうとしていたのか、よく分からない。しかし「開けてはならない」というパンドラの箱を、欲望に目がくらんだ女、クリスチーナの偽者の同居人ガブリエル(ギャビー・ロジャース)は箱を開けてしまい、光が溢れ、燃えだし、家が爆発する。最後にガブリエルは、マイクに「キスして。嘘つきの「愛している」のキスは、他に意味がある。そんなキスが上手よね。」と言う。そしてリリーに撃たれたマイクだったが、拉致されていたヴェルダを救い出し、海辺に逃げてその爆発を見守る。波間で光の爆発を見ながら抱き合う二人。
原作の探偵小説では、隠された物質が「麻薬」となっていたものを、「核物質」へ大胆な改変を行なったのは、ロバート・アルドリッチだったという。冷戦期の核の恐怖をフィルム・ノワールのジャンル映画の形を借りて描いた作品であり、その核の扱いそのものを何も分かっていないところがまた恐ろしい。
1955年製作/104分/アメリカ
原題または英題:Kiss Me Deadly
監督・製作:ロバート・アルドリッチ
原作:ミッキー・スピレーン(「燃える接吻を」より)
脚本 A・I・ベゼリデス
原作 ミッキー・スピレイン
音楽 フランク・デ・ヴォール
撮影 アーネスト・ラズロ
編集 マイケル・ルチアーノ
製作会社 パークライン・ピクチャー
キャスト:ラルフ・ミーカー、ギャビー・ロジャース、マキシーン・クーパー、ポール・スチュアート、アルバート・デッカー、クロリス・リーチマン
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