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2026年07月24日23:54

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「ラルジャン」ロベール・ブレッソン〜手から手へ受け渡されるモノ、そして扉の開閉で変転していく人生を描く恐るべき傑作〜

ロベール・ブレッソンの遺作となった本作はまぎれもない映画史に残る傑作であり、何度観ても戦慄を覚える。前にもレビュー(『ラルジャン』)を書いているので、重複する部分もあるが、今回映画館で再び観て、気づいたこともあるので記しておく。

資本主義社会を回している「金(ラルジャン)」をめぐる映画であり、「偽札」を手にしたことで運命の歯車が狂わされ、地獄へと転がり落ちていく青年の物語である。そして映画をよく見ると、手から手へと様々なものが受け渡されているのが分かる。父親から受け取った小遣いが足りない少年は、友達に腕時計を渡そうとして受け取ってもらえず、偽札を手にする。そしてその偽札をカメラ店で手渡し、買った額縁とお釣りを手にする。さらにその偽札は、灯油を給油配達した青年イヴォン(クリスチャン・パティ)に渡される。請求書の代わりに。そして青年はコーヒーを飲んだ代金としてその偽札を店員に渡し、偽札グループの犯人だと言われ、店員を突き飛ばしてしまうのだ。その突き飛ばした瞬間の青年の「手」がアップになる。様々なものを受け取り、手渡し、モノを持った「手」の映画とも言えるのではないか。

「手」は様々なモノを受け渡す。金や偽札ばかりではなく、額縁や請求書、偽証した成功報酬、過った値札、偽札を最初に使った少年の母親から店に支払われる謝罪金、犯罪に使われる地図、面会室の部屋番号の紙、ATMで盗まれるカード、刑務所内でチェックされる手紙、刑務所内で交換されるタバコやモノ、食堂で手にされる杓子、手渡される薬、そして最後に出会った老婆から、青年にはスープやコーヒーが渡され、青年から老婆に木の実が手渡される。さまざまなモノの受け渡しが映画では丁寧に描かれている。モノの交換。それがこの社会の現実だ。カメラ店と金庫の鍵は手渡されるのではなく盗まれ、落ちていた斧は殺人に使われる。他者からモノを受け取り、その受け取ったモノによって、人生が変わっていく。最初にカフェ店員を突き飛ばした「手」が、様々なものを受け取り、手にしたモノによって、犯罪に巻き込まれ、犯罪が行なわれる。妻からの愛娘の病死と別れの手紙は、青年を孤独の地獄に突き落とし、殺人に使われた斧は池に投げ捨てられる。ホテルで血に染まった青年の手は水道で洗われるが、その血塗られた手はいつまでも青年から消えなかった。最後に青年が老婆に渡した食べられる木の実は、どういう意味だったのだろうか。犯罪を犯した青年の手は、老婆の家で犬を優しく撫でていたし、洗濯物を干す働きづめの老婆に親愛の情とも言える木の実を渡した。それなのに、青年の手は再び犯罪を犯すことになる。そのことがせつなく哀しい。偽札を手にしただけの青年の不運は、二度と好転することはなかった。

この映画を今回観て、何よりも気になったのが、扉やドア、戸の開け閉めの動作だ。こんなに丁寧に扉が開け閉めされる映画があっただろうか。こづかいをもらう父親の部屋の扉から始まり、カメラ店の扉、現像室の奥の扉、カフェの扉、愛する家族が待つ青年の家の扉、裁判所の扉、高校の扉、護送車の扉、留置所の扉、面会室へ通じる扉、独房の扉、再びカメラ店の元店員が護送される車の扉と自殺未遂した青年の救急車の扉、刑務所から出所する扉、ホテルの扉、そして老婆の家の扉。扉を開けることによって、人生が変わっていく。運命が変わり、青年の人生は閉じられていく。老婆の家の扉を開くことで、奇跡は起きなかった。老婆は、「私が神ならみんなを許す」と言い、青年の殺人の告白も静かに受け入れた。酒の溺れる暴力的な父に仕え、障害者の息子を抱え、妹夫婦の食事も作る天使のような老婆。それでも青年は救われなかった。その人生の過酷さがロベール・ブレッソンの非情さだ。

殺人や暴力行為を直接的に描くのではなく、手渡される偽札や手にされるモノたち、血を洗い流す手や、振り上げられ、投げ捨てられる斧、そして扉の開け閉めを丁寧に描くことで、過酷な人生の変転を非情さを持って描いた映画だ。恐るべき傑作である。


1983年製作/85分/フランス・スイス合作
原題または英題:L'argent
配給:エタンチェ、ユーロスペース

監督・脚本:ロベール・ブレッソン
製作:ジャン=マルク・アンショ、ダニエル・トスカン・デュ・プランティエ
製作総指揮:アントワーヌ・ガナージュ
原作:L・N・トルストイ
撮影:パスカリーノ・デ・サンティス、エマニュエル・マシュエル
音楽:J・S・バッハ
キャスト:クリスチャン・パティ、カロリーヌ・ラング、マルク=エルネスト・フルノー、バンサン・リステルッチ、シルビー・バン・デン・エルセン、ミシェル・ブリゲ
☆☆☆☆☆☆6
写真引用(C)1983 Marion’s Films
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