話題の衝撃映画『シラート』を観た後だっただけに、ホッとした気持ちになり癒やされた。死者をいつまでも慈しみ、細やかな生きている日常を大切に過ごしている人々を描いたこの映画は、愛すべき作品だ。
映画全体として、カメラやスクリーンのフレーム枠が強調されている。冒頭からフェリーの窓の海を見ながら、食事する人、仕事する人、ボーッと見ている人などが次々と映し出される。さらに車から見える車窓の映像。あるいは部屋の窓から見える季節ごとの風景。窓はスクリーンであり、見える景色は映画であり、人生である。それはカメラで撮るフレームもまた同じである。
東京で妻子と暮らす雄太(柄本佑)は、足を骨折した義父・誠(イッセー尾形)が回復するまで身の回りの世話をするため、九州の田舎町に行くことにする。フェリー乗り場まで見送りに来た娘との別れのシーンが微笑ましい。60日間の長さを娘に説明する父。手を振りながら夫も妻(穂志もえか)も、お互いをスマホのカメラで撮影している。この夫婦はお互い、写真や動画を撮って送りながら、手紙のように会話をしているようだ。日常のちょっとしたことをスマホで撮影する習慣が身についている世代だ。九州の田舎町で犬を連れて散歩しながら雄太は、洗濯物のタオルに「おはよう」や「ごきげんよう」と文字を見つけては撮影し、駐車場で止っているトラックの窓に「愛してるぜ」を文字を写真に撮る。トンネルや森の入り口のような穴はフレームそのものだ。いつも植木の手入れをしているオジサンや、差し入れをくれる農家の夫婦、自転車で追い越して畑の道を行く女性の後ろ姿。ギターの音が聞こえてくる路地。繰り返し繰り返し、同じポジションで同じ画角の映像が出てくる。そんな日常が丁寧に描かれ、人と人が深く関わらなくても日常を過ごす人々の姿が愛おしく感じられる。
雄太はいつも馬が見える牧場近くのベンチでサンドウィッチを食べる。何度もそこで食べているうちに、馬の世話をする人と挨拶を交わすようになる。言葉を交わすのではなく、遠くから離れて仕草で挨拶を交わすだけ。そんな仕草の挨拶の関係が微笑ましい。それがある日、その馬を世話をしているいつもの人がいない。「どうしたんだろう」「具合でも悪いのだろうか」。いつもの日常がちょっと違うと、不安になる。散歩中の路地で聞こえていたギターの音は、義父が誕生日の夜に連れ出してくれた豪華な夜景の見えるレストランで、生演奏しているミュージシャンのものだった。そんな偶然も微笑ましく、雄太は再び通りがかった路地で、その音をかけてみたりする。義父と食べる味気ない弁当の食事も、皿に移し替えて食べるだけでも気分が変わる。繰り返される日常の愛おしさと、変化を感じたときの不安。あるいは変化や偶然を楽しみ、繰り返される退屈さを紛らわせる工夫。
妻の穂志もえかは、東京で子育てしながら日本に来た中国人向けのツアーガイドをしており、雄太がサンドウィッチを食べているように、妻も同じようにサンドウッチを食べている。離れてても、お互いがお互いを感じながら過ごす日常。それが映像の往復書簡のように描かれている場面もいい。娘からの動画メッセージもあるし、彼ら世代にとって写真や映像は、日常とともにある。妻もまた、旅行に来た中国人のために記念写真を撮ってあげる日常を過ごしている。そして義父の仕事がまた街の写真館の経営であり、学校での子どもたちの撮影や結婚式などの記念写真を撮るカメラマンなのだ。にこやかな表情を撮るためのプロのテクニックを披露したり、葬式にはかつて撮った故人の写真を遺影にするために持って行く。雄太もまた、訪ねて来た観光客を不在の義父の代わりに、真似事をして撮影してみる。カメラで記録すること、忘れられない瞬間をフィルムに写し取ること。そしてその瞬間をいつまでも大切に胸に刻み続けること。九州の畑での野焼きが鮮烈な家族の記憶として描かれている。怖いような美しい風景。忘れられない家族の記憶。
映画では、義父が身の回りの世話をしてくれた雄太に、昔の家族写真を部屋を暗くしてスライドショーで見せる場面があり、人生の愛おしさが溢れてくる。それは妻がまだ小さく少女で、イッセー尾形の妻が生きていた頃の写真の数々だ。渓流に家族で旅行に行ったときの写真。カメラは妻と娘の後ろ姿の写真を何枚も撮っている。それはまさしく後ろから妻と娘を見守る父の視線であり、愛が感じられる写真である。妻と娘の姿を見る義父の視線は、今の雄太の視線とも重なる。夕景の山を背景に、少しボケた感じで映っている妻の写真が、写真館の居間に飾られている。映画も写真も、フレームには人生が映り、撮る人間の愛や思いが映る。
京都造形芸術大学在学中から短編作品で注目を集め、卒業後は石井裕也監督作の助監督や土井裕泰監督作のメイキングカメラマンなどを務めてきた坂西未郁監督の長編初作品だ。愛すべき佳作であり、今後に期待したい。
2026年製作/97分/G/日本
配給:リトルモア
監督・脚本:坂西未郁
企画:孫家邦
プロデューサー:伊達真人、福岡芳穂、土井智生
撮影:鎌苅洋一
照明:永田ひでのり、菰田大輔
写真:江森康之
美術:渡辺大智、松��宙人
音響:黄永昌
編集:普嶋信一
音楽:小島央大
キャスト:柄本佑、穂志もえか、イッセー尾形、梅沢昌代、伊佐山ひろ子、成田裕介、占部房子、香椎由宇
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写真引用

2026LittleMore
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