安部公房×勅使河原宏のコンビによる不条理劇の映画化作品は『砂の女』、『他人の顔』があり、学生の頃に名画座で観た記憶がある。その独特の映像世界は強く印象に残っている。本作は『砂の女』、『他人の顔』と共に、安部公房の「失踪三部作」の一つと言われており、未見だったため見た。勝プロダクションが製作。
探偵に勝新太郎。市原悦子が失踪した夫を捜して欲しいと探偵に依頼した。市原悦子はまだ若く髪が長く色気を感じさせる役柄。都会の孤独と喧噪と彷徨。安部公房らしいシュールさで、探偵の勝新太郎は男を捜しているうちに、都市の迷宮に入り込んでいくような映画。面白かった。勝新太郎の台詞まわしはボソボソ言って聞きづらいが、小さなスバル360の愛車に乗って男を捜す探偵役は、なかなかいい。物語と直接関係ない描写がいろいろあり、観客を混乱させていく。原作は未読だが、そもそも安部公房の小説自体が迷宮みたいなものだろうから、そんな余計で意味不明な描写も楽しい。映像もガラスの反射やガラス越しの映像、鏡を多様。望遠レンズも多く使われ、迷宮感を演出。安部公房の原作を読みたくなった。U-NEXTにて観賞。タイトルは英語表記でサイケデリックなデザイン。「The Man without a Map」とタイトルが表記される海外版と思われる。原版は紛失したらしい。
冒頭は喫茶店「椿」に調査にやって来たサングラスの探偵・勝新太郎。ウェイトレスの吉田日出子の組んだ脚が映し出される。吉田日出子が若い!駐車場に現われる依頼人の弟はヤクザ(大川修)で、「姉のこと、女としてどう思う?」なんて聞く。愛車で坂道を運転していると、向こうから自転車がぶつかってくる。「危ないじゃないか」と探偵は言うが、それっきり。特に物語とつながっていかない。ただ、自転車は最後の方にも坂道で出てきて、今度は歩いている探偵に自転車の方からぶつかってきて、「気をつけろ」と怒鳴って行く。立場が逆転する。その他、赤い自転車が車を追い抜いていく意味不明の描写もあるし、図書館で若い女が本から絵を切り抜こうとしている場面を見て探偵が声をかける場面もあるが、それも物語につながらず、意味不明のまま。公園で探偵の後ろから玩具のマシンガンを撃ちまくる少年。黄色いカーテンの部屋で、昼間からいつもビールを振る舞う依頼人の市原悦子。夫捜しを依頼しているのに、詳しい情報を教えず非協力的な妻は、本気で夫を捜そうとしているのか?弟が渡すと言っていた夫の日記は最後まで手に入らない。夫が勤めていた会社の部下に渥美清。渥美清は、失踪した男がヌード写真の趣味があったことを教え、後に探偵にそのヌード写真を見せて、二人で一緒にヌードスタジオに行く場面もある。ヌードモデルに長山藍子。
さらにヤクザの弟と探偵は、日雇い労働者が集まる河原で乱闘騒ぎに巻き込まれ、弟は殺されてしまう。殺人事件に巻き込まれたことで、探偵も興信所をクビになる。河原の暴動場面で男たちに女が襲われる場面があり、探偵が夜の団地で歩く若い女を見ながら、女を押し倒し落葉を被せる妄想シーンもある。落葉が風で吹き飛ばされると、女の足が出てきて浮かび上がる加工映像。欲望もまた都市の暴力とともに渦巻く。失踪者の男を見かけたと言って探偵につきまとう渥美清を無視すると、渥美清は孤独のうちに探偵に電話しながら自殺してしまう。そして喫茶店「椿」に深夜に探偵がやってくると、そこは日雇い運転手の斡旋所になっており、人でごった返していた。しつこく失踪男のことを探る探偵は、その喫茶店に集まっている男たちにボコボコに殴られる。都会で暮らす日雇い運転手たちは、身元も過去も問わない失業者たちの群れでもあった。都会の底で失踪者たちと似たような迷える失業者たち。都市の根無し草的ものたちの孤立と集団の暴力。傷だらけで依頼者のところに転がり込んだ勝新太郎を、市原悦子は優しくキスしながら介抱し、関係を持つ二人。探偵には妻(中村玉緒)がいるも、妻の元から探偵は居場所を失い逃げ出していた。誰もいない街、車も人もいない空っぽの都市。街が遠くに見える砂漠を歩く孤独な探偵のイメージ(写真)。自己を見失い、空虚さを抱えたまま、ベッドで目覚めた探偵は再び街へ。喫茶「椿」は違う内装の店になっており、店主も女性店員もいなくなっている。迷子のように彷徨う男。都会の喧噪。公衆電話から「助けてくれよ」と市原悦子に電話する。探偵を探しにやって来た市原悦子を物陰に隠れて盗み見る探偵。失踪した男を捜していているうちに、探偵自身が失踪者になったようだ。店のガラスに映る探偵の影。道路に轢き殺された犬の死骸を見ながら、「名前なんてない。・・・ そのうち 何か考えてやるさ、二度と忘れないようないい名前をな 」と死んだ犬に告げて探偵は立ち去る。
都会で生きるということは、名前を失い、空虚さを抱えつつ、砂漠のような都会を彷徨うしかないと言うことか。急ぎ足で都会を歩いている一人一人にみんな本当に目的などあるのだろうか。心臓が悪いのか、虚ろに座り込んでいる男もいる。渥美清と探偵は、ともに都会の迷路に入り込んでいく。公衆電話ボックスが都会を彷徨うものたちの最後の居場所のように象徴的に描かれる。
1968年製作/89分/日本
原題または英題:The Man without a Map
配給:東宝
(大映という表記もあるが、東宝だと思われる)
監督:勅使河原宏
原作・脚色:安部公房
企画:市川喜一
製作:永田雅一
撮影:上原明
美術:間野重雄
音楽:武満徹
録音:奥村幸雄
照明:久保江平八
編集:中静達治
キャスト:勝新太郎、市原悦子、大川修、渥美清、信欣三、吉田日出子、中村玉緒、小松方正、小笠原章二郎、長山藍子
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写真引用

︎1968 TOHO CO., LTD.
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