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2026年05月08日21:33

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2026年春ドラマ〜『冬のなんかさ、春のなんかね』から『銀河の一票』へ 日常と人間を描くドラマに期待〜

1月クールに今泉力哉の『冬のなんかさ、春のなんかね』(日テレ)がテレビドラマとしては斬新で画期的だっただけに、この4月ドラマは何か物足りない。テレビドラマは脚本が大きな要素を占める。脚本が面白ければ、そこそこ楽しめるのは間違いない。あとはキャストがハマっていれば、ほぼ面白さは保証される。演出が見事なドラマもたまに見かけるが、ごく稀である。そういう意味では、『冬のなんかね、春のなんかさ』は、演出のドラマであり、ストーリのドラマではなかった。男と女が出会って、別れただけ。ほとんどストーリーらしい劇的な展開もなかったし、恋の成就にドキドキするわけでもない。女の過去のいくつもの恋愛が描かれ、今の恋にちゃんと向き合えない女の不誠実さも描かれただけに、主演の杉咲花にほとんど共感出来ないドラマでもあった。途中で離脱していった視聴者も多かったと聞く。恋の物語が展開していかないストーリーのドラマではなかったからだ。それでもこのドラマが驚くほど面白かったのは、曖昧でいい加減で迷いに満ちた人間が描かれていたからだ。男と女の二人の台詞の掛け合いの中で描かれる空気感、間合い、戸惑いや混乱、誤解、スレ違い。ストーリー展開という意味では、本来ならカットされるであろう些末な日常的な振る舞いや描写を徹底して描いていたのだ。別れ話をしてから、杉咲花はもう一度成田凌のところに戻ってきてみたり、杉咲花が風邪で寝こんでいた部屋に二人の男が鉢合わせしたのに、決定的な恋の破局にならない。二人とも相手こそが「本当の彼氏」であると勘違いするという間抜けな展開だった。恋愛というのは、いかにいい加減で、間抜けで、まだるっこしいものであるかを、日常的なディティールの描写で描いていたことが凄いのだ。

最近のドラマは、過激なストーリー展開で視聴者を引き込んでいくというパターンが多い。何が起きるか分からない予想外の展開こそが、視聴者に求められている。NETFLIXの話題の過激なドラマもそうだ。1月クールの『リブート』(TBS・黒岩勉脚本)は、まさに他人に成り代わるという掟破りの展開だった。死者が別の顔を持った人間として生きるという荒技をやって見せた。死んだはずの松山ケンイチは鈴木亮平として生き、死んだはずの妻の山口紗弥加もまた、戸田恵梨香として生き直していたのだ。それは誰もが驚く展開であったが、視聴者を驚かせることに主眼を置いているがために、人間ドラマとしてはどうだったのだろうか。私はこの「なんでもあり」の展開についていけなかった。

生き直しというSF的展開は、この春ドラマでもいくつかある。濱田岳の『刑事、ふりだしに戻る』(テレ東)がそうだし、『リボーン 〜最後のヒーロー〜』(テレビ朝日)もまた高橋一生がカリスマ社長から別人に転生し、自分を突き落とした真犯人を探す物語だ。単純な刑事ドラマや犯罪サスペンス、医者もの、弁護士などの裁判もの、学園もの、恋愛ものがテレビドラマの王道であり、毎回その繰り返しをキャストや設定を変えて描き続けているわけだが、さすがにパターンも出し尽くされてきて、「タイムリープ」「生き直し」「転生」というSF的展開が最近増えている。人生は一度きりという時間的・空間的限界を飛び越えて、SF的設定で違う時空間を体験することで、現在の一回性を逆照射するような物語は、これまでも映画やテレビで多く描かれてきた。どんな荒唐無稽な展開であろうとも、問題はそこに人間が描かれているかどうか、そして日常のリアリティがあるかどうかなんだろうと思う。テレビドラマの本質は、日常を描くことにあるのではないかと思うのだ。ささやかな日常の中にある幸せ、発見や変化、トキメキや失意にこそ、テレビドラマの世界がある。

前置きが長くなってしまったが、そういう意味でこの春いちばんのドラマは、『銀河の一票』(関西テレビ・蛭田直美脚本)だろう。黒木華と野呂佳代、松下洸平の役者陣も見事にハマっているし、プロデューサーの佐野亜裕美は『エルピス-希望、あるいは災い-』(渡辺あや脚本)から政治ドラマを続けているし、『カルテット』、『大豆田とわ子と三人の元夫』(坂元裕二脚本)という傑作ドラマを作っているプロデューサーでもある。期待しないわけにはいかない。知名度も何もないスナックのママが都知事選に出馬するという驚きのストーリーながらも、「暗い方ではなく、明るい方へ」なんとか踏み出そうとする女性二人の「ささやかな日常」が見事に描かれている。「人の気持ちは一つじゃない」とか「綺麗事じゃない。きれいなことだよ。」、「上じゃなくて、前です。同じ地面に足をつけて、同じ景色の中で、同じ気温を感じながら、同じ道を歩くんです、先頭を。明るい方向へ」などという名台詞が次々と出てきている。今後の展開と役者たちの演技、そして演出に期待しよう。

民放では、『時すでにおすし!?』(TBS・兵藤るり)は軽いコメディながらも永作博美とこのところ名演が続く松山ケンイチがいい感じ。キャストのコンビ感がいいのは『夫婦別姓刑事』(フジ・矢島弘一脚本)の佐藤二朗と橋本愛。特に橋本愛は初めてとも言えるコメディタッチがこれまでにない良さを発揮している。『田鎖ブラザーズ』(TBS・渡辺啓脚本)はキャストがいい(岡田将生・染谷奨太)だけに、もう少し面白くなっても良さそうな感じ。『GIFT』(TBS・金沢知樹脚本)もいろんな要素を入れ込みながらもスポーツものとしてそこそこ楽しめる。あとは、『サバ缶』、『刑事、ふりだしに戻る』をとりあえず見続けている。

ドラマの質という意味では、圧倒的にNHKドラマが素晴らしい。『お別れホスピタル2』は、前後編の2回だけだったが、安達奈緒子の脚本、岸井ゆきのや松山ケンイチを始め個性的な役者たち、そして柴田岳志の演出、どれもが素晴らしかった。さらに『魯山人のかまど』(中江裕司脚本・演出)も良かったし、『対決』(月村了衛原作・渡邊真子脚本)も見応えたっぷりの社会派ドラマだった。そしてなんといっても『まぐだら屋のマリア』(原田マハ原作・小寺和久脚本・長崎俊一演出)が、死と向き合いながらの寿都町の厳しい冬の海辺の風土とそれぞれの人物造型が素晴らしく、尾野真千子、藤原季節、坂東龍汰、岩下志麻の役者陣も見事だ。NHKのドラマはじっくりとちゃんと作っているだけあって、生と死の向き合い方、日常、人間がちゃんと描かれている。ドラマはやっぱりこうであって欲しい。
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