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2026年05月02日13:09

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「オールド・オーク」ケン・ローチ〜世界の縮図が描かれているパブ〜

『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016)、『家族を想うとき』(2019)に続く「イギリス北東部3部作」の最終章と言われる本作。徹底して労働者階級の厳しい現実を描き続けてきたケン・ローチ(89歳)の最後の作品とも言われている。

「オールド・オーク」はEU離脱を検討始めた10年前のイギリスが舞台。取り残された貧しい田舎町で、シリア難民の受け入れで人々が分断していく。町の住民たちにとって最後の拠り所、止まり木とも言えるパブの店名が「オールド・オーク」だ。「古い樫の木」。樫の木は、イギリスの「国樹」であり、強靭さ、歴史、不屈の精神を象徴する存在だそうだ。店名の看板の「K」の文字が傾いているのを、店主のTJ・バランタイン(デイブ・ターナー)が直す場面から始まる。何度も直して、やっと直ったと思ってTJが店に入ると、また「K」の文字が傾く。イギリスという国、町の荒廃、店の老朽化は、誤魔化しようもなく修正しようもない厳しい現実だ。

ここで描かれていることは、現在も世界各地で起きている縮図だ。炭鉱の歴史ともにあったかつての繁栄、パブが賑やかなりし頃への郷愁、そして現代の荒廃。人々は失業し、町からいなくなり、取り残され寂れた町。組合活動で団結していた熱気のあったかつてのコミュニティは壊れ、そこへ見知らぬ移民たちがやって来ると、さらなる不満が高まっていく。映画の中の台詞にあるように、「ひとは苦しい時に身代わりを探す。それも上ではなく下に。弱い者の顔を踏みつける方が楽だ」と、戦争で住む場所もなくなったシリアの移民たちへ、「自分の国に帰れ」と心ない言葉を投げつける。移民排斥、自国優先の流れは、世界的な傾向だ。パブに集まってビールを飲みながら愚痴をこぼす彼らこそが、多くの先進国の一般的な市民の姿なのかも知れない。ケン・ローチは、そんなパブを舞台に、シリア難民のヤラ(エブラ・マリ)と店主TJ・バランタインの交流、そして「子ども食堂」として難民も白人も関係なく、貧しく飢える子どもたちにパブを開放しようとする努力と葛藤を描く。

店の奥にある部屋は鍵がかけられていた。かつての炭鉱の組合の集会場所でもあった部屋は、ガラクタが放置されている物置場所になっていた。かつての活発だった組合活動を撮った写真だけが飾られている。「When you eat together, you stick together」。パブに飾られているTJの母の言葉。「共に食べて団結を」。鍵がかけられた部屋は、TJそのものの心の鍵でもあった。過去にボランティア活動にのめり込みすぎ、妻と息子に去られた傷を抱えているTJ。一度は自殺も考え、父が死んだ海底炭鉱があった場所の海へ入ろうとしていた。その傷を癒やしてくれた存在が、犬のマラであった。「マラ(Marra)」とは、仲間とか友を意味する名前であるらしい。しかし、そんなマラもまた大型犬に殺されてしまう。そんなTJの孤立から救ってくれたのが、シリア難民のヤラであり、その家族であった。マラを失って悲しみに沈むTJの家に、食べ物を差し入れにやって来るのだ。「食」が人をつなぐ。TJは、閉ざされた扉を開き、パブの奥の部屋を食堂として開放する決意をするのだった。パブの奥の部屋が象徴的に描かれていると同時に、最初に犬のマラをボールで遊ばせていた海岸も、死と近接する象徴的な場所として何度も登場していた。

多くの子どもたちに無償提供された食事で賑わったパブの「こども食堂」だったが、その後、水道の配管の老朽化から水漏れが起き、電気もショートして使えなくなってしまう。現実はそうはうまくいかない。希望は簡単に打ち砕かれる。自分たちの最後の居場所だと思っていたパブを、難民たちから奪われたと思った者たちの悪意をしっかりと描いている。ただ、最後のヤラの父の死の知らせで弔問に集まってくる町の人々の過剰な多さで、ケン・ローチは最後にもう一度「希望」を描く。そこはやり過ぎに思えた。冒頭のカメラを奪われ壊されるエピソードにしても、自殺しようとしたときに海辺に現われる子犬のマラのエピソードにしても、ラストの弔問客の多さにしても、ケン・ローチの演出は作為的であり、寓意的である。厳しい社会的現実を描いてきたという意味では、ダルデンヌ兄弟やアキ・カウリスマキとも共通するケン・ローチだが、映像の力よりも社会的な意図や政治的メッセージ性に重きを置いているようなところがある。そこが物足りなさでもある。


2023年製作/113分/G/イギリス・フランス・ベルギー合作
原題または英題:The Old Oak
配給:ファインフィルムズ

監督:ケン・ローチ
製作:レベッカ・オブライエン
製作総指揮:パスカル・コーシュトゥー、グレゴワール・ソルワ、バンサン・マラバル
脚本:ポール・ラバーティ
撮影:ロビー・ライアン
美術:ファーガス・クレッグ
衣装:ジョアンヌ・スレイター
編集:ジョナサン・モリス
音楽:ジョージ・フェントン
キャスト:デイブ・ターナー、エブラ・マリ、クレア・ロッジャーソン、トレバー・フォックス、クリス・マクグレイド、アムナ・アル・アリ
☆☆☆3
写真引用(C)Sixteen Oak Limited, Why Not Productions, Goodfellas, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2023

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