ホン・サンス長編30作目。『水の中で』(2023)の次に製作された。2023年以降につくられた新作5本を5カ月連続で公開する「月刊ホン・サンス」シリーズにて劇場鑑賞。
それにしても総カット数はいくつだろう。映画としては異様に少ないはずだ。ほとんどがワンシーンワンカットの長回し。そして二つの家の二つの部屋での一日の会話が、延々とワンカットの長回しで撮影されている。なんなんだろう。この映画はあまり企みも感じられない。交わりそうで交わらない二つの部屋の会話が企みと言えば企みだが、淡々と進行するだけ。破綻は起きない。日常的な会話が続き、若者たちが人生に関する質問をいくつかする。ただそれだけだ。休業中の俳優と隠遁生活を送る老詩人の、交わりそうで交わらない一日。
靴デザイナーの先輩宅に居候している女優を辞めたサンウォン(キム・ミニ)は、先輩の猫を可愛がる。一方、心臓病を患い、禁酒・禁煙を厳守しながら隠居生活を送る老詩人のウイジュ(キ・ジュボン)を撮影しに来ている女子学生。卒業制作のドキュメンタリーを撮っている。そこへ女優を目指す従妹、そして詩人に教えを請いたい俳優志望の学生がそれぞれやってくる。交互に描かれる二つの部屋。二つの部屋で重なるのは、コチュジャン入りのラーメンとアコースティック・ギター。2人から3人へと訪問客が来て増えること。
サンウォンは従妹に俳優について語る。「率直であること」、「心の衣服を脱ぎ捨ててゆくこと」。彼女は「植物と話が出来る」と言い、そんな自然を受け入れることを「率直」と言うのだろうか。
老詩人のウィジュはなかなか俗っぽくて人間らしい。病気で禁酒・禁煙を医者から言い渡され、好きなのに必死に我慢して、買ってきてもらった初めて飲むノンアルコールのビールを「美味しい、美味しい」と飲む。それでもやっぱり酒が我慢できなくなって、結局は飲んでしまう。飲みながら、青年に諭す。人生に意味なんてない。生きるとは何か?君の質問は、正解を求めている。人生に意味や正解を求めてもしょうがない。
そんな折、サンウォンが居候する家の飼い猫「ウリ」が姿を消してしまう……。先輩は愛猫がいなくなって玄関で倒れ込んだまま泣き叫ぶ。人生の終わりかのように悲嘆に暮れる。しかし、あっさりパン屋に「ウリ」はいたと従妹が連れ帰り、事件は解決する。大切なものは、突然なくなってしまうのも人生だし、幸運にも見つかることだってある。老詩人のウィジュは、美味しそうにラーメンを食べ、コチュジャンの辛みを刺激として楽しみ、そして医者から止められても、美味しい酒を飲み、タバコを吸う。人生の肯定。若者たちは、そんな老詩人や女優から、何かを受け取ったのか、受け取れなかったのか。そんなことは誰にも分からない。ただそんな一日があったというだけだ。
2023年製作/84分/G/韓国
原題または英題:In Our Day
配給:ミモザフィルムズ
監督・製作・脚本・撮影・編集・音楽:ホン・サンス
キャスト:キム・ミニ、キ・ジュボン、ソン・ソンミ、パク・ミソ、ハ・ソングク、キム・スンユン
☆☆☆3
写真引用(C)2023 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.
ログインしてコメントを確認・投稿する