マルグリット・デュラス原作「モデラート・カンタービレ」の映画化。学生時代にマルグリット・デュラスは好きで原作は読んでいた。マルグリット・デュラスが監督した作品で『インディア・ソング India Song 』(1975)という傑作がある。ただ英語字幕で見たきりなので、なんとかもう一度見たいと思っているのだが、いまだ叶わず。映像と音の使い方が斬新で、音楽と台詞がとにかく美しい映画だった。『二十四時間の情事』(1959)の原作と脚本、『かくも長き不在』(1960)の脚本、『愛人/ラマン』(1962)の原作などでもM・デュラスは有名だ。監督は演劇界の世界的な演出家ピーラー・ブルック。映画監督作品も数多くある。
「モデラート・カンタービレ」とは音楽用語で「普通の速さで歌うように」という意味で、ピアノ教師が少年にピアノのレッスンで注意するのだ。そのレッスン中に、近くの酒場で殺人事件が起きる。女性の叫び声が突然聞こえる。事件のあった店に集まってくる人々の俯瞰ショット。ある男が恋人を殺害したのだ。息子のピアノレッスンを送迎していた母アンナ(ジャンヌ・モロー)は、殺人現場を覗く。美しい女性が倒れており、その女性に抱きつく男の強い情熱。首を絞めて殺害したようだが、二人の間に何があったのかは分からない。その店の常連客で、アンナに関心を寄せ、これまでに何度も彼女を見つめていた男ショーバン(ジャン・ポール・ベルモンド)は、翌日も店にやって来たアンナに声をかける。そして事件のことを推理して二人は会話を重ねる。アンナは製鉄工場の所長の妻であり、豪華な屋敷で暮らしているブルジョワ階級である。フランス西海岸の海辺のひっそりした田舎町では、マダムは目立つ存在である。ショーバンとアンナが毎日のように逢っていると、町の噂になる。息子と散歩すると言いながら、ショーバンに逢いに行くアンナ。時には船に乗って、目立たないところへ行く。ショーバンは、アンナと息子の後を追いながら、アンナと話す機会をうかがっている。空き家でやっと会話をする二人。次第に二人の関係は密接なものになっていく。
アンナはブルジョワ社会での退屈な日常から脱出したいと思っていた。息子のピアノレッスンに付き添って町を歩くことが唯一の息抜きだった。それが殺人事件を目撃し、ショーバンと出会うことによって、アンナは次第に事件の被害者である女性の心情を想像し、自分の状況を重ねることで、次第に抑圧された欲望を開放していく。ショーバンもまた、自らの状況を事件の男女の物語にしてアンナに語る。「女が男に殺してくれと頼んだのかも」と推測する。その言葉を受けたアンナの顔のアップが長めに映し出される。
海辺の並木林、屋敷が建ち並ぶ住宅街を横移動でカメラが撮影していくと、家々の明かりが次々と点いていく。そんな夜になっても林のベンチで会話する二人。「真実でなくてもいいから、話を聞かせて」とショーンバンに物語をねだるアンナ。海沿いの家で逢瀬を繰り返す男女。女に死んで欲しいと思うまでに愛した二人の話をする。そして二人は事件を起こした男女に自らを重ねていく。男はアンナの首を絞めかねない自分を抑え、「帰ってください」とアンナに別れを告げる。
自宅の屋敷での豪華で空疎なパーティーを抜け出し、もう一度ショーバンに逢いに閉店後の酒場に行くアンナ。「7夜限りの許されない愛」。アンナはいつも注目され、噂になる二人。ショーバンはこの町を離れるとアンナに告げ、「死ぬべきだ」と言って去って行く。あの事件で殺された女のように酒場で叫ぶアンナ。夫が車で向かいに来て、その車で帰って行くアンナで映画は終わる。
木にもたれる二人。ジャン・ポール・ベルモンドがジャンヌ・モローの髪に両手で触れ、目を閉じながら官能的な表情をするジャンヌ・モロー。多くの言葉を語るわけではないが、退屈な日常から抜け出したい女が、自らの欲望と死を想像しながら幻の愛に溺れていく。愛のために殺されたいと思うほどの熱情。ジャンヌ・モローの官能的な表情には、殺されることを欲望しているようでもある。寂れた海辺の船や海岸、林などが効果的。詩的な味わいのある不思議な作品だ。ジャンヌ・モローでしか成立しいない作品とも言える。
1961年製作/フランス
原題または英題:Moderato Cantabile
配給:東和
監督:ピーター・ブルック
脚本:マルグリット・デュラス、ジェラール・ジャルロ
原作:マルグリット・デュラス
撮影:アルマン・ティラール
キャスト:ジャンヌ・モロー、ジャン=ポール・ベルモンド、ディディエ・オードパン、パスカル・ド・ボワッソン、ジャン・デシャン、 コレット・レジス
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写真引用

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