なかなかの問題作だ。二人の男を同時に愛した女。弁護士の男は、女を囲って誰にも会わせないようにした。もう一人の医学生の若者は、女に会えなくなって嫉妬のあまり女を殺した。女が自分にプレゼントを持ってわざわざ会いに来たのに、「帰る」と言うので、「帰したくなかった」と言って女を殺した。二人の男を愛した女が悪いのか。嫉妬のあまり女を殺した男が悪いのか。女を金で独占しようとした男が悪いのか。愛は自分だけが相手を独占したいという欲望と嫉妬から逃れられない。ブリジット・バルドーが二人の男を翻弄する性的魅力に満ちた悪魔的な女性を演じている。ジョルジュ・シムノンの同名小説。
貧しい娼婦のイヴェット(ブリジット・バルドー)が友人とともに時計屋に強盗に入る場面から始まる。娼婦仲間の友人と腕を組んで、強盗する店を物色して歩く二人。ブリジット・バルドーは蓮っ葉な感じだ。パリの街はイギリスの女王エリザベス2世の訪問で沸き立ち、警察もその警備で追われている。その間隙に閉店間際の老人がやっている時計屋に女二人が玩具のピストルを持って押し入り、金を要求。店に戻ってきた老婆が抵抗しようとするので、イヴェットは殴り倒してしまう。そして二人はバラバラに逃げたが、友人が警察に捕まる。イヴェットは、ベテランの老弁護士アンドレ・ゴビヨ(ジャン・ギャバン)に色仕掛けで弁護を頼む。ブリジット・バルドーがスカートをまくり上げ脚を見せるも、ジャン・ギャバンは表情一つ変えずに見ている。「興味ないの?」とガッカリするイヴェットだったが、警察に捕まったら私の名前を言えと、ゴビヨは弁護を引き受ける。ブリジット・バルドーが椅子に座って、じっとしていられなくて脚をブラブラと動かすのが面白い。
犯行時のイヴェットのアリバイを証明するバーテンダーの偽証言や時計屋の主人の女道楽もあって、裁判は無罪を勝ち取る。ゴビヨもまた、正しさばかりが世の中ではないことを知っているしたたかな男のようだ。裁判後にゴビヨの妻ヴィヴィアヌ(エドウィジュ・フィエール)がパーティーの帰りに、ゴビヨをイヴェットがいるホテルに彼を送り届けるのも面白い。妻は夫が女目当ての下心があったことを見抜いていた。そしてそれを黙認するのだ。富裕層の夫婦の欺瞞的な関係。
ゴビヨとイヴェットの関係が深まっていく一方で、イヴェットの男遊びは変わらず続く。しかし、次第にゴビヨの我慢も限界に達し、イヴェットがいるホテルを引き払い、彼が持っている部屋に匿う。それでもイヴェットは、働きながら勉強する医学生の真面目な男マゼッティ(フランコ・インテルレンギ)に伝言を残し、彼を部屋に招き入れて交際を続ける。どちらかの男を騙しているようではなく、イヴェットは二人の男に愛を語り、抱き合い、キスをする。真面目なマゼッティは、ゴビヨと別れて自分と一緒に住もうと迫るが、イヴエットは承諾しない。鍵を奪い一人で部屋に侵入したマゼッティは、彼女の洋服を持っていた医療用メスで引き裂き、部屋の中を引き裂いた服でカーニヴァルのように飾り立てる。嫉妬男の狂気の世界。それを見て笑い転げるゴビヨだったが、イヴェットは恐怖を感じ、もう会わないとゴビヨに告げる。
マゼッティが鍵を持っている部屋を出て、ゴビヨはイヴェットのために屋敷を用意する。庭もある豪華な貴族の邸宅だ。そこに女中のジャニーヌ(ニコル・ベルジェ)を雇う。一方、ゴビヨは金を払って偽証言をさせたイヴェットの裁判が問題視され、弁護士資格を剥奪されかねない危機に陥っていく。さらに妻のヴィヴィアヌの嫉妬もあり、夫婦関係は冷めきっていく。イヴェットの屋敷に入り浸りになるゴビヨ。秘書を屋敷に呼びつけて仕事をする。この女性秘書もゴビヨに非難の視線を浴びせつつ、しっかり仕事をこなす脇役として面白い存在。女王陛下のパレードを嬉々として眺めるはしゃぎぶりも可笑しい。イヴェットの居所を突き止めようと、ゴビヨをバイクで尾行するマゼッティ。イヴェットはゴビヨと一緒に過ごして「幸せ」を感じ、お腹に赤ちゃんが出来たことを知ると喜ぶゴビヨ。二人は一緒にスキーに行く計画を立て、スキーのセーターとスノーブーツを買いに町に行く。そこでバイクを見てマゼッティのことを思い出したイヴェットは、ゴビヨが先に帰ったあとで、もう一度店に戻り自分が買ったセーターとお揃いのセーターをマゼッティのために買う。そして彼の部屋を久しぶりに訪れるのだ。久しぶりのイヴェットとの再会に驚き、喜んだマゼッティだったが・・・。部屋に戻ってこないイヴェットを心配して、警察にも相談したゴビヨが、女性がホテルで殺された事件を知る。それが、イヴェットだったのだ。マゼッティが、イヴェットを「帰したくない」と犯行に及んだのだった。そばには彼女と同じペアのセーターがあった。一人、ホテル前で佇むゴビヨの後ろ姿のロングショットで映画は終わる。
イヴェットとはどういう女性なのか、どちらの男を本当に愛していたのか?観客も分からない。謎の魔性の女である。ゴビヨと幸せな時間を過ごし、赤ちゃんも出来て、自分だけが幸せになっていいのかと、別れたはずのマゼッティのことを思い出したのか・・・。わざわざペアのセーターまで買ってプレゼントするのだから、マゼッティが自分のことを愛していると考えるのも仕方がない。それなのにゴビヨの元へと帰ろうとするイヴェットを許せない気持ちになるのは理解できる。イヴェットという女が男の嫉妬を甘く見た罪な女ということか。ゴビヨと妻のヴィヴィアヌの欺瞞的な関係の夫婦、あるいは金で女を囲うブルジョワ階級への皮肉も感じるが、ジャン・ギャバンは女に浮かれて楽しそう。仕事が業務停止になっても、気にしておらず、どこか憎めない老弁護士を演じている。魔性の女イヴェットは、ブリジット・バルドーにしか出来ない役かもしれない。奇妙な面白さのある映画だった。
1958年製作/117分/G/フランス
原題または英題:En cas de malheur
配給:キングレコード
監督:クロード・オータン=ララ
製作:ラウール・J・レビ、レイ・ベンチュラ
原作:ジョルジュ・シムノン
脚本:ジャン・オーランシュ、ピエール・ボスト
撮影:ジャック・ナトー
編集:マドレーヌ・ギュ
音楽:ルネ・クロエレック
キャスト:トブリジット・バルドー、ジャン・ギャバン、エドウィジュ・フィエール、フランコ・インテルレンギ、ニコール・ベルジェ、マドレーヌ・バルビュレ
☆☆☆☆4
写真引用(C)1958 Production Raoul Levy / Les Films Marceau Concordia
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