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2026年04月05日18:07

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「女の歴史」成瀬巳喜男〜勝手なことをして死んでいく男と残された女の人生〜

成瀬巳喜男の映画はどれも面白い。ハズレがまず無い。本作は『女の歴史』という大仰なタイトルでどうかと思ったが、好き勝手なことをして女に子供を産ませて先に死んでしまう男たちのために、過酷な現実を苦労して生きなければいけなくなる戦前・戦中・戦後の女たちの人生を、三世代にわたって描いた作品だ。男たちが勝手で、その勝手さに翻弄されながら、女たちが苦労してたくましく生きていくことを描き続けた成瀬巳喜男らしい作品。ここには戦争中と敗戦後の混乱の中で男女の究極の情愛を描いた傑作『浮雲』(1955)と同じ時代ですれ違う別の男女の物語があるし、夫に先立たれた3人の女たち苦労の歴史がある。

オープニングは救急車のサイレンから始まる。「どこかで自動車事故でしょ?」と美容室での会話があり、不吉な未来を暗示させる。成瀬巳喜男にとって、『乱れ雲』(1967)や『ひき逃げ』(1966)にあったように、交通事故は度々使われる登場人物を死ヘと導く忌まわしきものなのだ。だから、高峰秀子の一人息子である山��努が、キャバレーのホステスの星由里子を車で送っていったシーンは、後の彼の交通事故死の前兆にもなっているのだ。さらに言えば、温泉宿というのも成瀬映画では不吉な場所であり、鬼門である。『乱れ雲』、『乱れる』(1964)、『浮雲』と、いずれも温泉宿で自殺や心中など死への接近が描かれている。温泉宿はこの世の愛のどん詰まりの場所なのだ。本作でも賀原夏子の夫であり、宝田明の父(清水元)が湯河原の温泉宿で芸者の女と心中している。宝田明は「父が自殺した」としか言わなかったが、賀原夏子と高峰秀子が湯河原の宿に行ってみると、夫の横には女の遺体があり、心中だったことが残酷に女たちに知らされるのだ。つまりこの映画は、義母の賀原夏子が夫を心中で亡くし、妻の高峰秀子は夫の宝田明を戦争で亡くし、息子の妻の星由里子は夫の山崎努を交通事故で亡くすのだ。いずれも夫に先立たれ、一人息子を女手で育て上げていくことになる。

改めて物語を整理すると、東京近郊で美容院を経営する清水信子(高峰秀子)は、自動車会社のセールスマンである一人息子功平(山崎努・・若すぎて最初分からなかった!)と、ささやかな家庭を営んでいた。しかし功平はキャバレーのホステスみどり(星由里子)と結婚すると言いだし、許せない信子の反対を押し切って二人で暮らし始める。

信子は昭和十二年春に町内の材木問屋の長男・清水幸一(宝田明)と結婚した。信子と同居している幸一の母・君子(賀原夏子)は、夫(清水元)が自殺したという知らせを聞いて、湯河原へと信子とともに行き、夫の心中を知る。男は何をするか分からないから、功平の結婚を無理に反対して心中したりしなければいいがと心配する。

信子は日中戦争で武漢三鎮が陥落して提灯行列で賑った晩に、息子の功平を産んだ。アメリカとの戦争が終わりが見えない中で、夫に女からの手紙があり、信子は嫉妬に悩む。そんな時、夫に召集令状が届いた。「女とはなんでもない」という夫の言葉を信じて、夫と愛を確かめ合う信子。夫の親友・秋本(仲代達矢)と一緒に夫を戦地に送り出し、東京空襲が激しくなる中で田舎へと疎開する。息子の功平も国民学校に通うようになる頃、夫の戦死の知らせが届く。敗戦後、闇米の担ぎ屋などで貧しい生活を凌ぎながら、復員した夫の親友の秋本(仲代達矢)と再会。彼は信子のために5千円の金を工面し、そんな彼の心づかいに信子は救われる。息子が肺炎になり、ペニシリンの薬を手に入れるため、信子はある女(草笛光子)と会う。それは夫のかつての愛人であり、夫に手紙を送った女だった。召集直前にも会っていたと、信じていた夫の裏切りを女から知らされる。混乱した信子は、秋本を探し抱きしめてもらう。秋本は信子に愛を告白しキスをする。しかし息子の病気が気がかりな信子は、後日の再会を約束して別れる。しかし、秋本は突然の仕事のトラブルで信子に手紙残して、東京を離れていった。一人残された信子は、幼い息子だけを生き甲斐に戦後を必死で生きたきたのだ。

ホステスのみどりと一緒に暮らし始めた功平(山崎努)は、みどりにつきまとうヤクザ者に金を払ったりしながら、生活のために必死で働くのだが、突然、交通事故死してしまう。雨が降りしきる中で、功平の遺影の前で途方に暮れる信子、そして義母の君子。そこへ功平と一緒に暮らしていたみどり(星由里子)がやって来る。お腹に子供がいると聞いて、功平を奪われて許せない信子は、みどりを罵倒し、「この金で堕ろしてしてしまいなさい」と言う。しかし、同じ女の苦しみを想像して思い直した信子は、雨の中でみどりを探し会いに行き、二人は和解する。男に先立たれた女たち、君子、信子、そしてみどり。そして母子家庭としての一人息子。みどりは信子と同じ美容院で働くことになり、女たち3人は、幼いみどりの一人息子、功の面倒をみるのだった。

成瀬巳喜男は音の使い方が上手い。本作でも街中の音や物売りの声、歌などで時代の空気を描いている。救急車のサイレン、賀原夏子の三味線と小唄、結婚式での木遣りの歌、仲代達矢の歌「人を恋ふる歌(妻を娶らば)」、金魚売り、ダンス教室、武漢陥落の提灯行列、軍歌の行進、出征祝いの宴の歌、空襲警報、リンゴの唄・・・などなど。またこの映画の山場である高峰秀子と仲代達矢が敗戦後の闇市のガード下で抱き合う場面。背後で子どもたちが追いかけられて逃げていく声が聞こえ、二人はその声キッカケで離れ、信子は病気の子供のとこを思い出すのだ。ここでも子どもたちの声が効果的に使われている。

映画の中で、高峰秀子は女からの夫への手紙を見つけた場面で、「今は日本が勝つか負けるか大戦争をしているときなんだ。くだらなこと言うな」と言う夫に対して、「私には戦争なんかより、ずっと大事な問題よ」と必死で言う場面がある。戦争で大きく時代が動いていく中でも、女たちは必死に身近な世界に目を向けて、その生活を大切に守りながら生きてきた。そんな女の人生を描き続けてきた成瀬巳喜男の三代にわたる女たちの歴史である。

1963年製作/126分/日本
原題または英題:Woman's Life
配給:東宝

監督:成瀬巳喜男
脚本:笠原良三
製作:藤本真澄、金子正且
撮影:安本淳
美術:中古智
音楽:斎藤一郎
録音:藤好昌生
照明:石井長四郎
編集:大井英史
キャスト:高峰秀子、宝田明、賀原夏子、山崎努、仲代達矢、星由里子、清水元、堀米広幸、秋本隆、宮本豊子、藤原釜足、菅井きん、鈴木治夫、中北千枝子、淡路恵子、草笛光子、三田照子、佐田豊、三浦敏男、加東大介、大川秀子、多々良純
☆☆☆☆4
写真引用コピーライト︎1963 TOHO CO., LTD.
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