「ネリーに気をつけろ!」と題した特集上映「ネリー・カプラン レトロスペクティヴ」(2025年12月26日〜)が劇場で公開された。「アベル・ガンスに信頼され、ドン・シーゲルを勇気づけ、パブロ・ピカソを仰天させた不世出の映画作家ネリー・カプラン。ヌーヴェルヴァーグの周縁で見落とされた彼女の作品は、いまこそ驚くべき新鮮な輝きをまとっている。美術、文学、シュルレアリスムへの造詣に裏打ちされた傑作コメディの数々が、ようやく<(再)発見>される!」(公式HPより)。「オトコ社会のみなさん、笑っていられるのも今のうち――ネリー・カプラン」
<ネリー・カプラン>
1931年4月11日、ブエノスアイレスに生まれる。ブエノスアイレス大学で経済学を学ぶも、映画への関心からパリへ飛び立ち、フィルムアーキビストの国際会議でアルゼンチン代表を務める。新聞記者としても活動した。1954年、映画監督のアベル・ガンスと出会い、『マジラマ/戦争と平和』(57 ※2025年のカンヌ国際映画祭「カンヌ・クラシックス」で上映)を共同監督する他、『ナポレオン/アウステルリッツの戦い』(60)の脚本・助監督としての参加など協力関係を深めた。1969年に長編劇映画第1作となる『海賊のフィアンセ』が公開。以降、『パパ・プティ・バトー』(71)、『シビルの部屋』(76、日本公開は77年)、『シャルルとリュシー』(79)と発表。1991年に長編劇映画第5作であり、最後の監督作となった『愛の喜びは』が公開。ペンネーム「ベレン(Belen)」でのシュルレアリスム小説の執筆など、著作多数。2020年11月12日、新型コロナウイルスに罹患し、死去。
(公式HPより抜粋)
男性向けの映画など存在しない。女性向けの映画など存在しない。
ただ映画が存在するだけだ。
人が「女性向けの映画」と言うとき、それは既に軽蔑的なのだ
− ネリー・カプラン、1969
保守的な価値観に抵抗する女性たちを描き続けたアルゼンチン出身の映画作家ネリー・カプランが、「現代の魔女の物語」として撮りあげた1969年製作の長編劇映画第1作。
ジプシーであり移民である母とマリー(ベルナデット・ラフォン)は保守的な村社会から除け者として扱われてきた。泥のついた短いスカートで農場で働いているマリーが床を拭いていると、後ろから白いパンツが見える。それを見て興奮する使用人の男と介護老人。そしてマリーは農園の経営者の女性からもベッドに誘われる。男からも女からも性の標的にされるマリー。明らかに女性の性がテーマだと最初から示される。そしてマリーの母が車の轢き逃げで死んでしまう。掘っ立て小屋に住んでいるマリーは、神父や村人たちの埋葬を拒否して追い返す。魔女であり、異端者であると村八分にされてきた村人たちへの恨みと怒り。そしてワインやパンやソーセージやロウソクなどを買い込み、果実などで頬を紅く塗り、炭でアイラインや眉を描いて化粧をし、マリーは村の男たちを呼んで母の葬式パーティーを始める。酔った男たちに小屋の前に穴を掘らせ、母を埋葬させる。それからマリーの村人たちへの復讐が始まる。
自分を抱きたいのなら金を出せとばかりに、次々とマリー目当てにやって来る村の男たち相手に売春し、マリーは次第に金持ちになっていく。掘っ立て小屋の中にモノが増え、男たちから取り上げた時計がベッドの壁に飾られていく。マリーは服や赤いコート、下着を買い、化粧をし、どんどん美しくなっていく。仕事をさぼり、家の金をマリーを買うためにつぎ込む男たち。説得に来た副村長も誘惑してしまう。村の奥さんたちは問題視し、マリーは魔女のように呪いをかけたのだと言い出す。そして村から追い出そうと神父に相談する。マリーの魅力に抗えない男たちが滑稽に描かれる。マリーを監視し、追い出そうとする森の番人も、本当はマリーが好きでたまらない。求婚して断わられると、態度を一変させてマリーの追い出しに加担する。売春の値段を下げさせようと男たちが共闘するも、「奥さんに言うわよ」とマリーから脅され、自分だけはマリーを抱きたいと多額の金を払う。そして最後に、マリーの前で男たちが言った妻や家庭への不満や文句をテープレコーダーで録音し、マリーは教会で流す。そして小屋もモノたちもみんな燃やして、マリーが唯一心を寄せていた映写技師の男のもとへ向かうのだ。その男が面白いと勧めていた映画が「海賊のフィアンセ」というタイトルなのだった。
ピカソは本作を「ルイス・ブニュエルの最高傑作並みの作風だ」と称賛したと言う。ネリー・カプランが言うように「自分を火刑にするのではなく、異端審問官たちを火刑に処す現代の魔女の物語」であり、最後の小屋を燃やす火は、現代社会への魔女の怒りなのだろう。ジョルジュ・ムスタキの軽快な音楽が誰にも負けないマリーの明るい強さを強調している。ラストは金色のハイヒールを脱ぎ捨て、マリーは裸足で歩いて行くのだ。その潔さは、爽快でさえある。
1969年製作/107分/フランス
原題または英題:La fiancée du pirate
配給:グッチーズ・フリースクール
監督:ネリー・カプラン
製作:ネリー・カプラン、クロード・マコフスキー
脚本:ネリー・カプラン、クロード・マコフスキー、ミシェル・ファブル
撮影:ジャン・バダル
音楽:ジョルジュ・ムスタキ
主題歌:バルバラ
キャスト:ベルナデット・ラフォン、ジョルジュ・ジェレ、アンリ・ザルニアック、ルイ・マル、クレール・モーリエ、ジュリアン・ギオマール、パスカル・マゾッティ、ジャック・マラン、ミシェル・コンスタンタン
写真引用(C)1969 Cythère films – Paris
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