Netflixにて視聴。ジョージ・クルーニー演じる有名な映画俳優ジェイ・ケリーが、自らの俳優人生を振り返りながら、娘たちとの関係、献身的なマネージャーのロン(アダム・サンドラー)との確執などを描いた作品。老女優が自らの映画人生の妄執に囚われる映画といえば、ビリー・ワイルダーの傑作『サンセット大通り』(1950)という作品がある。これまでもスターが自ら作り上げてきた虚像に囚われ悩む映画は数々あった。監督はノア・バームバック。初期の『フランシス・ハ』(2012)のグレタ・ガーウィグ主演の青春映画の佳作が印象に残っている。『イカとクジラ』(2005)、『マーゴット・ウェディング』(2007)を見たほか、ウェス・アンダーソンの『ライフ・アクアティック』(2004)、『ファンタスティック Mr.FOX』(2009)の脚本をアンダーソンと共同で担当している。最近の作品は見ていなかった。2011年よりグレタ・ガーウィグと交際し、2019年男の子が二人の間に生まれたそうだ。
オープニングは映画スタジオ内をクレーショットで移動し長回ししつつ、さまざまなスタッフ、メイクや音声、マネージャー、役者たちなどのスタジオ内での会話が聞こえ、ジェイ・ケリー(ジョージ・クルーニー)の撮影映画内のラストショットを撮り直している。「死ぬ時にやっと分かるんだ。思ってた自分は虚像だと」という台詞をジェイ・ケリーは死の間際で言う。そして、「もういい?もうワンテイクやる?」とか言いながら撮影終了のアップを迎える。このファーストシーンは、そのままラストシーンとつながる。自ら虚像として築き上げてきた映画人生、家族を顧みず、マネージャーのロンと作り上げてきた映画スター、ジェイ・ケリーは、数々の人々を映画というフィクションの中で幸せにしてきた。一方で家族からも見放され、孤独に苦しんでいる。「やり直せるかな?もうワンテイク」と映画祭の功労賞の授賞式会場で呟くのだ。人生は映画と違ってやり直せない。映画スターは虚像であり、自分自身ではない。では自分自身とは?自分の人生とは?
「自分でいることは重圧。他人か、名無しでいる方が楽だ」というアメリカの詩人、シルヴィア・プラスの言葉が冒頭に引用されている。ジェイ・ケリーは常にジェイ・ケリーという映画俳優を演じてきた。列車で移動中に薬物中毒の男が婦人のバッグをひったくって列車を止めて逃げるのを、映画のワンシーンのようにジェイ・ケリーが追いかける場面がある。現実とフィクションが彼の人生の中で重なりあう。彼はネットで現実でも犯人を捕まえたヒーローとしてもてはやされる。一方で、デビューのキッカケとなったオーディションで、自分の人生を奪われた恨みを持ち続けている俳優仲間の友人ティモシー(ビリー・クラダップ)が最初の方に登場する。懐かしい旧友との再会シーンから、彼の積年の恨みが溢れ出てくる。そして殴り合いになり、トラブルになる。映画祭の功労賞の授賞式も、最初は受けないと言っておきながら、ヨーロッパに旅行する娘と会えると思って、急遽授賞式に出ると言い出す。そんなスターの勝手な我が儘もトラブルも、陰で解決してきたのがマネージャーの盟友・ロン(アダム・サンドラー)だった。二人でジェイ・ケリーという映画スターを作り上げてきたのだ。授賞式前にロンがジェイ・ケリーのメイクをするのに二人が向き合う場面はいい。ロンもまた妻で広報担当のリズ(ローラ・ダーン)と、仕事と家族の問題で揉める。家庭を犠牲にしながら必死で夢を作り上げてきた二人。虚像としての映画スター、ジェイ・ケリーを。それはそのまま、映画づくりそのものの夢でもある。ファンタジーや夢物語、ヒーローの活躍によって、人々に幸せをもたらしてきた映画そのものの虚像。
そしてその虚像を支えるのは、列車の中で人々の仕草や会話をジェイ・ケリーが見つめていたように、名も無き人々の日常のディティールの積み重ねにある。この映画のラストを飾る感動場面は、ジェイ・ケリーの二人の娘たちのパパへの愛のステージ・ショーだ。今はすれ違ってしまったとしても、そんなに日常は間違いなくあった。誰もが何かを演じている。現実の中に虚構はあり、虚構の中に現実もある。そして映画という壮大な虚構を作り上げる無数のスタッフや役者たちの努力の積み重ねを愛を込めて描いているのが本作だ。
飛行機、列車など移動中にジェイ・ケリーの回想を入れ込むタイムトラベルのような演出、暗い森の中を白いスーツ姿で彷徨う姿やいないはずの娘と森を歩くシーン、列車の鏡の前でスターを演じようと自ら暗示にかける場面、ロンが帰ろうとする車を必死で追いかける姿など、巧みな演出で、重くならずに人生のさまざまな瞬間を見せてくれる娯楽作だ。いかにもスター的な振る舞いをするジョージ・クルーニーがはまり役だ。
2025年製作/131分/G/アメリカ
原題または英題:Jay Kelly
配信開始日:2025年12月5日
監督:ノア・バームバック
製作:デビッド・ハイマン、エイミー・パスカル、ノア・バームバック
製作総指揮:ドナルド・サブーラン、エミリー・モーティマー
脚本:ノア・バームバック、エミリー・モーティマー
撮影:リヌス・サンドグレン
美術:マーク・ティルデスリー
衣装:ジャクリーン・デュラン
編集:バレリオ・ボネッリ、レイチェル・デュランス
音楽:ニコラス・ブリテル
音楽監修:ジョージ・ドレイコリアス
キャスト:ジョージ・クルーニー、アダム・サンドラー、ローラ・ダーン、ビリー・クラダップ、ライリー・キーオ、グレイス・エドワーズ、ステイシー・キーチ、ジム・ブロードベント、パトリック・ウィルソン、イブ・ヒューソン、グレタ・ガーウィグ、アルバ・ロルバケル、ジョシュ・ハミルトン、レニー・ヘンリー、エミリー・モーティマー、ニコール・レッキー、ザディア・グラハム、アイラ・フィッシャー、ルイス・パートリッジ、チャーリー・ロウ
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写真引用@Netflix映画『ジェイ・ケリー』
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