1948年から1949年にかけて新聞に連載された獅子文六の小説の映画化。渋谷実の松竹映画。たわいのない長閑なドタバタ人間模様。主役の佐野周二がハッキリしない主体性のないサラリーマン。宝塚歌劇団出身の淡島千景の映画デビュー作で、ハッキリした上昇志向のある都会的で勝ち気な女を演じている。なかなか華があってコミカルで楽しい。佐野周二演じる犬丸順吉のことを「ドッグさん」と呼び、「結婚しようよ」と思いを寄せるが、犬丸は好意は持つつつもハッキリしないで逃げるばかり。佐野周二らしいハマリ役。
東京の出版社が舞台で、給料で揉めているのか社員はストライキだと騒いでおり、ビラの貼り紙などで社内は荒れ放題。学生時代から社長に面倒をみてもらっている犬丸(佐野周二)が3ヶ月ぶりに病気明けで出社すると、「社長の腰巾着」と呼ばれている犬丸は「社長の鬼丸玄三(志村喬)の居所を教えろ」と囲まれて詰められる。屋上で水着のような派手な格好で日向ぼっこをしている社長秘書の「花兵」こと花輪兵子(淡島千景)も知らんぷり。しかし犬丸に好意を寄せる花兵は、社長が遊び呆けているキャバレーに犬丸をこっそり連れて行く。このキャバレーのセットが面白い。中央に踊り子が踊るガラスのステージがあり、客たちはそのステージを見上げる。志村喬は悪徳エロ社長といった感じ。東京の生活についていけなくなった犬丸は、社長に「会社を辞めて郷里の北海道に帰りたい」と言うと、「自分の悪事を手伝ってもらって警察に捕まるかもしれない。それよりオレの故郷の伊予に行け」と命じる。そして「大事な書類を預かってくれ」と犬丸に会社で渡す。また、会社の階段と奇妙な廊下のセットも面白い。背景に派手なネオンの看板。淡島千景が佐野周二に「一緒に組んで、社長を出し抜こうよ」と誘うが、佐野周二は相手にしない。扉を閉めて扉越しに、「ドックさんが好きよ。私と結婚して」と迫るが、誘いを振り切り佐野周二は伊予へと旅立つ。
自然がたっぷりの瀬戸内海の山あいの伊予の相生町に着いた犬丸は、社長に紹介された男・玉松勘左衛門(三島雅夫)の屋敷へ。そこでは饅頭大食い競争にチャレンジしている町会議員越智善助(藤原鎌足)がいる。そのほかウナギ捕りの名人の坊主・田鍋拙雲(薄田研二)、佐賀谷新ちゃん(三井弘次)というおかしな男たちがいて、三人は求心運動という奇妙な活動をしており、「四国独立」を目指して一緒に参加してくれないかと犬丸を誘う。地元の奇妙な風習、牛の突き合い、お祭り、そして選挙運動などを描きながら、楽しく長閑な村で、いろんな事件が起きる。山奥でやってきた旅人に若い娘が床に入ってもてなすという奇妙な風習を本気にした犬丸は、その娘あやめ(桂木洋子)に本気で惚れてしまう。東京から選挙応援でやって来た社長と花兵。松山の道後温泉に呼び出された犬丸は、再び花兵から迫られるのだが、犬丸はあやめのことで頭がいっぱい。勝ち気な花兵も犬丸にフラれ、涙を流して諦めるのだった。
祭りの日にあやめに会えると期待して松山から戻った犬丸は、あの晩のことは旅人をもてなす風習にすぎなかったこと知らされ、あやめには許嫁もいることを聞いてガッカリ。祭りの最中で喧嘩となり怪我をした犬丸。社長から預かっていた大事な書類というのも、ただのエロ写真だった。アタマにきた犬丸はどっちつかずだった自分を反省し、東京へ戻って出直す決意をするのだった。
牛の突き合いや地元の祭りなど実際の記録映像を挿入しながら地方の風習を描いており、地方の郷土文化が楽しめる。饅頭の大食いや、大うなぎの捕り合いの喧嘩、木を突然伐って漁師が恵比寿様を彫って豊漁を願う風習、河童が馬を川に引っ張り込む話や山奥の村で旅人を娘がもてなす風習など、奇妙で寓話的である。「戦争に日本は本当に負けたんですか」と山奥の村の親父が聞く場面もあるのだ。三島雅夫は、どんなことがあってもニコニコしている田舎の親父で、藤原鎌足、三井弘次、薄田研二の3人組も味があって笑える。なによりも淡島千景の明るいチャキチャキ娘ぶりが楽しい。ただ映画の出来としては、キレがなく、まったりしている。
1950年製作/96分/日本
配給:松竹
監督:渋谷実
脚本:斎藤良輔、荒田正男
製作:山本武
撮影:長岡博之
美術:浜田辰雄
音楽:伊福部昭
キャスト:佐野周二、淡島千景、志村喬、薄田研二、藤原釜足、三井弘次、桂木洋子
写真引用

1950 松竹株式会社
☆☆☆3
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