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2026年03月03日21:11

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「妻として女として」成瀬巳喜男〜妻と愛人の壮絶なバトル〜

成瀬巳喜男の映画が4本、U-NEXTのラインナップに加わったのでさっそく見た。相変わらず男と女の愛のもつれが描かれている。建築学の大学講師の森雅之とその愛人、銀座のバーのママに高峰秀子、妻が淡島千景。その正妻と愛人との壮絶なバトルと修羅場が描かれる。二人の間に挟まれた夫の森雅之がいつものように情けない男であり、妻や愛人から詰め寄られても何も言えない。のらりくらりと逃げるばかり。銀座のバーのママが高峰秀子で、男たちの間を彷徨いつつ身持ちが堅いというのは『女が階段を上る時』(1960)と少し似ている。仲代達矢が高峰秀子に思いを寄せているというのも同じ。『女が階段を上る時』では、高峰秀子が好きな森雅之に体を委ねるも、大阪転勤が決まり、駅のホームに菓子折りを持って見送りに行き、奥さんに挨拶する印象的なシーンがあったが、本作では奥さんとの正面対決となる。井手俊郎、松山善三の脚本。本作は、愛人が産んだ子供を正妻が引き取って育てているという事情も加わり、家族のあり方や女の生き方をめぐって、二人の女性が「自分の人生はなんだったのか」と問い直す場面もある。

綾子(淡島千景)は大学講師の河野圭次郎(森雅之)と結婚して二十四年、今度大学に入った弘子(星由里子)、中学生の進(大沢健三郎)と二人の子がある。だが、河野には十数年も続いている銀座のバーの雇われママの愛人・三保(高峰秀子)がいた。最初は一家団欒の平和な家庭が描かれる。風呂場で流行歌を歌い、母の帰りを待つ中学生の進。長女の弘子。結婚式の仲人を終えて帰ってきた河野と綾子。仲睦まじい家族。そして愛人の三保は母親(飯田蝶子)と二人暮らしなのだが、着物を着替えながら同じように小唄を唄っている。進と三保、二人の歌つながりで始まるのだが、あとでこの二人が本当の親子だったことを観客は知る。三保は河野につくし、売上げから名儀人の綾子に毎月十万円ずつ払っている。馴染みの客の南(仲代達矢)に言い寄られても、三保の身持ちは堅い。河野一筋で過ごしてきた愛人・三保だった。

ある時、秘かに伊豆山に旅行に行った河野と三保だったが、河野の教え子の学生に旅館で出くわし、狼狽える河野。それを見てガッカリする三保。河野との関係は「そんなに恥ずかしいものだったのか?」と疑問を持ち始め、三保の心は揺れる。「浮気しちゃおうかしら」と客の南(仲代達矢)のアパートに酔った勢いで立ち寄る三保だったが、部屋に入ることはせずに踏みとどまる。玄関から部屋に入ったら、全てが変わってしまうというように一歩も入らない高峰秀子。「ごめんなさい」とこれまでの酔った口調を変えて帰って行く高峰秀子の芝居が素晴らしい。

そして東京の三保の家に河野が訪れたときに、三保は河野に「今夜は泊まっていって」とせがむ。今まで一度も無断外泊などしたことのない生真面目な河野は「そんなことできるわけがない」と断わる。三保は河野と別れる決心をし、これまでずっと盛り立ててきた銀座の店を譲ってくれと言う。しかし妻の綾子は新宿の新しい店の資金のため抵当に入っていると断り、お金も50万しか渡さないという。十数年、愛人として尽くしてきた結果がたったの50万?と納得のいかない三保は、自分が産んだ長男の進を返してくれと言い出す。

三保は学校からの帰り道の進に声をかけ、喫茶店に誘い、友達と一緒に遊園地に連れ出して遊ぶ。ジェットコースターで息子の進に顔を寄せる三保。そして夕食をご馳走し、何も言えない三保の代わりに、友達の福子(淡路恵子)が「本当の母親は三保だ」と進に告げるのだった。ショックを受けて帰ってきた進は母親を問い詰め、部屋に閉じこもる。その夜、三保は河野の家にやって来て、三保と綾子、そして河野の3人が、それぞれの自分の抱えてきた思いをぶつけ合う。光の陰影のある暗い部屋で、3人のそれぞれの立ち位置のまま、これまで苦しめられてきた自らの思いを吐露する場面は、この映画の見せ場だ。他人が産んだ子を自分の子だと偽って育ててきた苦しみ。子供を奪われ、店も失い、男と別れて何一つ残らなかった自分の人生・・・。それぞれの女の後悔。もっと早く別れるべきだった。綾子は嫁に来る前から子供の産めない体だった。戦争中から付き合っていた河野と三保。三保は二人の子供を産んだが、戸籍も入れて両親も揃った河野家の子供として育ててもらう決断をしたのだった。3人の言い争いを聴いていた長女の弘子は、「みんな大嫌い」と言って家を出る。弘子と進が真実を知って家を飛び出し、踏切の赤い信号に照らされ、電車が走り去る通過音と進が最初と同じ流行歌を歌う場面が秀逸だ。成瀬巳喜男には、踏切を印象的に使った傑作『乱れ雲』(1967)があり、禁断の関係の二人が旅館へと向かう長い間合いの印象的な踏切の場面を思い出す。この作品でも踏切は、子供二人が列車に飛び込んでしまうのではないかという死の気配さえ感じられてドギマギしてしまう。人生が大きく変わっていく転換点を、踏切の音と赤い光で表現しているのだ。

成瀬巳喜男の映画は、やはりどの作品も面白い。女性の赤裸々な心情が浮かび上がる。女の意地と信念。そして心の迷いや揺れ。戦争中から妻が疎開している間も女と付き合い続けていた森雅之は、成瀬巳喜男の傑作『浮雲』(1955)を思い出させ、森雅之と高峰秀子はつながっている。


1961年製作/106分/日本
原題または英題:The Other Woman
配給:東宝

監督:成瀬巳喜男
脚本:井手俊郎、松山善三
製作:藤本真澄、菅英久
撮影:安本淳
美術:中古智
音楽:斎藤一郎
録音:藤好昌生
照明:石井長四郎
キャスト:高峰秀子、淡島千景、森雅之、星由里子、仲代達矢、飯田蝶子、中北千枝子、水野久美、大沢健三郎、坂下文夫、中村伸郎、芝木優子、十朱久雄、淡路恵子、関千恵子、藤間紫、丹阿弥谷津子、賀原夏子、大塚国夫
☆☆☆☆4
写真引用コピーライト︎1961 TOHO CO., LTD.
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