久しぶりに『サンセット大通り』を見た。ウィリアム・ホールデンとナンシー・オルソンが夜毎にみんなが帰った静かな映画撮影所の事務所で映画の脚本を練り、明日に向けて準備するスタジオセットの中を散歩するシーンが好きだ。彼女の女優になれなかった話を聞いて、整形した鼻にキスをして、彼女の匂いを嗅ぎながら好きになる自分の思いを自制するように、「仕事が終わったら僕を近づけないことだ。まがい物の街を通って戻ろうか・・・」と自嘲するように彼女に言う。映画撮影所という夢の場所は、「まがい物の嘘」の世界だ。しかし、その「まがい物の嘘」の世界は多くの人を惹きつける。この映画は、「まがい物の嘘=夢の世界」に魅せられて、抜け出せなくなった老女優の哀しき物語である。
ロサンゼルス市サンセット大通りの無声映画時代の有名女優が住む古い屋敷で、1人の男が殺害され、プールに浮かんでいる。しがない脚本家のジョー・ギリス(ウィリアム・ホールデン)だ。その死んだ男のナレーションで、半年前まで時を遡って彼が殺されるに至った顛末が語られていく。ジョーは借金を払えず、持ち込んだ脚本も採用されない。彼の脚本は映画会社の閲読係のベティ(ナンシー・オルソン)からダメ出しを食らう。ジョーは未払いの自分の車を取り上げられそうになり、ある古い屋敷に逃げ込む。そこがサイレント映画時代のスター女優であったノーマ・デズモンド(グロリア・スワンソン)の屋敷だった。最初に死んだサルが庭に葬られる場面がある。サルの死骸が映りギョッとさせられる。ジョーはサルと入れ替わりにやってきたのだ。ノーマは映画界に復帰しようと自分の書いた「サロメ」の脚本をジョーに直させ、映画会社に持ち込もうと考える。しかし、その脚本はどうしようもないもので、ノーマは自分の出番を減らすことも承知しない。金がないジョーは、住み込みでノーマの従順な飼い犬のように仕事をする。次第にノーマはジョーに好意を示し、スーツや燕尾服、高価なシガレットケースなどを彼に買い与える。それに反発したジョーが屋敷を出ようとすると、ノーマは自殺未遂をする。屋敷の中は、かつての栄光の銀幕のスターだった写真ばかりが飾られており、自分が主演した無声映画を何度も見返す日々。50歳になって、トーキーの時代から取り残された老女優は、その現実を理解できずに病的であり、いつまでも夢の妄執に囚われ続ける。
映画監督セシル・B・デビルが本人役で出演し、ノーマ・デズモンドはかつての仕事仲間のデビル監督に脚本を持ち込むが、相手にされない。映画会社から何度も屋敷に連絡があったのは、彼女が所有しているクラシックカーを撮影で使いたいためだった。そんな真実も知らずに映画復帰に向けて美容術に励むノーマ。一方、ジョーは深夜になって屋敷を抜け出し、ベティ(ナンシー・オルソン)のアイディアをもとに、新たな脚本を書いていたのだった。ベティには婚約者がいたのだが、ジョーのことを愛し始めていた。ジョーはノーマとの関係を彼女を屋敷に呼んで告白し、ベティに婚約者の元へ行けと伝える。そして自らも屋敷を出ようとしていた。ジョーに「行かないで」と縋るノーマだったが、自殺するために購入していた拳銃でジョーを撃ち殺してしまう。ラストは、新聞記者たちが駆けつけた屋敷で、照明と多くのカメラを前にして、映画の撮影と勘違いしたノーマはゆっくりと階段を降りてくるのだった。ノーマの執事をしている男マックス(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)は彼女の最初の夫で、映画監督だったのを辞めてノーマの執事になった。彼女に偽のファンレターを送り続け、彼女が夢から覚めないように見守っていた。その彼が映画監督に戻ったように、最後にノーマに「アクション!」とカメラの横で声をかけるのだった。マックスを演じたエリッヒ・フォン・シュトロハイムもまた、セシル・B・デビルやD・W・グリフィスと並んで「サイレント映画の三大巨匠」と言われた映画監督だった。ノーマを演じたグロリア・スワンソンはまさに無声映画時代の女優で、セシル・B・デミルに見いだされたのも事実。現実とフィクションが交錯している映画なのだ。
本物の映画監督二人が参加し、無声映画女優のグロリア・スワンソン自身の人生が投影されている。無声映画時代の栄光と夢から抜け出せない老女優の妄執。グロリア・スワンソンの演技は狂気を孕んだホラーのように恐ろしくもあり、哀しくもある。この映画の登場人物は、すべて映画の夢の世界に魅せられた者たちだ。売れない脚本家のジョーも、映画の裏方を楽しみ、自ら脚本を書く夢を見るベティも、そのベティの婚約者も、そしてノーマの執事で彼女の夢を支えるマックスも、夢の世界の住人たちだ。「まがい物の嘘の世界」に魅せられ、執着し、夢る者たち。ある者は諦めて殺され、ある者は夢遊病者のように夢の中を彷徨い続ける。
1950年製作/110分/G/アメリカ
原題または英題:Sunset Boulevard
監督:ビリー・ワイルダー
製作:チャールズ・ブラケット
撮影:ジョン・F・サイツ
音楽:フランツ・ワックスマン
美術:ジョン・ミーハン ハンス・ドライアー
キャスト:グロリア・スワンソン、ウィリアム・ホールデン、ナンシー・オルソン、エリッヒ・フォン・シュトロハイム、セシル・B・デミル
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写真引用1950 By Paramount Pictures. All Rights Reserved.
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