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2025年12月23日13:17

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「ミークス・カットオフ」ケリー・ライカート〜荒野を歩き続ける旅を導く者は?〜

『ウェンディ&ルーシー』(2008)のケリー・ライカートが再びミシェル・ウィリアムズと組んで、西部開拓時代のアメリカを描いた映画。ただただ西部の荒野を歩くだけの映画だが、そこには哲学的とも言える問いが描かれている。

1845年、オレゴン州。移住の旅に出たテスロー夫妻ら3家族(テスロー夫妻、ホワイト夫妻と息子のジミー、ゲイトリー夫妻)が旅をしている。冒頭は、川を馬車を引いて渡る牛や馬たちが映し出される。ケリー・ライカートが後に撮った『ファースト・カウ』(2020)でも、舟で運ばれてきた一頭の牛が川を渡ってくるシーンがあった。川を渡ることで、物語が始まる。ここでも鳥籠や荷物を頭の上に載せて女たちが川を渡る。地平線と広がる空。広大な風景が映し出され、馬車を引いて旅をする家族が小さな影となってシルエットで丘を歩いている。そして虫の声と夕焼けで赤く染まった空。

干からびた乾いた大地は、旅の過酷さを表している。荒野のロングショットが多用され、人間たちの姿は小さい。厳しい大地の上で、人間たちはちっぽけな存在だ。3家族は道を熟知しているという男スティーブン・ミーク(ブルース・グリーンウッド)にガイドを依頼する。旅は2週間で終わるはずだったが、5週間が経過しても目的地にたどり着かず、道程は過酷さを増すばかり。3家族の男たちは、ミークを疑い始めていた。そんな中、一行の前にひとりの原住民が姿を現す。原住民を最初に見つけたエミリー・テスロー(ミッシェル・ウィリアムズ)がショットガンを空に向けて撃ち、男の存在をみんなに知らせる。

男たちによって捕まった先住民族の男。言葉は分からないし、危険な男で襲われるかもしれない。皮を剥がされるかもしれない。すぐにでも殺すべきだというミークの主張に対して、男たちはこのあたりの土地に詳しいだろうから、彼に道案内を任せることにする。水がある場所に連れて行くように伝え、一行は出発する。暴力的なミークに対して、毛布を与え紳士的に振る舞う男たち。エミリー(ミシェル・ウィリアムズ)は、先住民の男に水を与え、ボロボロの靴を縫ってあげることで、貸しを作ることにする。男が岩肌に絵のようなものを描いているのは、仲間に何かを知らせる合図なのか。目的地までどれぐらいかかるか聞いても、言葉を理解できない男は何も答えない。先住民の男を信頼していいのか?別の夫人は先住民の仲間がやってきて、自分たちはきっと襲われると怖がり始める。疑心暗鬼の中で、ひたすら歩き続ける旅が続く。

急な斜面をロープを使って幌馬車を降ろしていたら、ロープが切れて1台の馬車が壊れてしまう。持って行けなくなった荷物に興味を示して触る先住民の男に、乱暴者のミークが我慢ならなくなって男を殺そうと銃を突きつける。すると、彼を殺そうとするミークを止めさせようと、エミリーがミークにショットガンを向ける。銃を構えて見つめ合う2人と先住民の男。先住民の男を野蛮な人間と決めつけて殺してしまおうとするミークと、同じ人間だと信じようとするエミリー。丘の向こうに待っているのは、敵か、それとも水か?

仲間の一人の男が歩けなくなって倒れてしまう。先住民の男は、その倒れた男に砂をかけて歌を歌い出す。祈祷のような歌なのか、誰もわからない。荒野に生えている一本の木があった。水場は近いのか。先住民の男を見つめるエミリー。そして彼が歩き出していく後ろ姿で映画は終わってしまう。結局、先住民の男の道案内が信用できる正しいものだったかどうかは、映画は明らかにしない。彼らが水場に辿り着けたのかどうかも分からない。荒野の中で道に迷い、言葉も通じない一人の異端者の存在を信じていいのか。疑い続け、危害を及ぼす危険人物と見なして殺してしまうべきなのか。排外主義が蔓延るこの世界の中で、どうやって見知らぬ人と人はつながれるのか。それぞれの考え方、問いを映画は投げかけるだけである。

最初は3家族の男たちが集って相談していたのに、ミシェル・ウィリアムズ演じるエミリーという女性が全体の行動に積極的に関わるようになる。唯一彼女だけが、先住民の男とコミュニケーションをとろうとし、暴力的で排除志向のミークとは正反対の位置にいる。「賭けたいのか。水か敵か?」とミークがエミリーに問うと、「賭けはあなたのような男がすること」と銃を構えながらエミリーは答える。勝つか負けるか、敵か味方(水)か、という賭けや単純な闘いをしてきたのは、ミークのような男たちなのだと、エミリーは言うのだ。答えはそんな単純なものではないと、映画は問いかけているような気がする。

因みにMeek's Cutoff(ミークス・カットオフ)とは、「ミークの分かれ道」という意味。スティーヴン・ミークは実在する人物で、この映画同様、開拓移民のガイドを務めていた。1845年、彼はオレゴン・トレイルと呼ばれるルートから分岐してウィラメット・バレーに向かう別ルートに移民の幌馬車隊を案内したのだが、このルートは過酷で道中に命を落とす人も多数いたという。現在、オレゴン州の歴史的トレイルのひとつとして認定されている同ルートは“The Meek Cutoff”と呼ばれている。(「ザ・シネマ」解説より)


2010年製作/103分/アメリカ
原題または英題:Meek's Cutoff
配給:グッチーズ・フリースクール、シマフィルム

監督:ケリー・ライカート
製作:ニール・コップ アニシュ・サビアーニ、エリザベス・カスレル、デビッド・ウルティア、ビンセント・サビーノ
製作総指揮:トッド・ヘインズ、フィル・モリソン、ラジェン・サビアーニ、アンドリュー・ポープ、スティーブン・タットルマン、ローラ・ローゼンサール、マイク・S・ライアン
脚本:ジョン・レイモンド
撮影:クリストファー・ブロベルト
美術:デイブ・ドーンバーグ
衣装:ビッキー・ファレル
編集:ケリー・ライカート
音楽:ジェフ・グレイス
キャスト:ミシェル・ウィリアムズ、ブルース・グリーンウッド、ウィル・パットン、ゾーイ・カザン、ポール・ダノ、シャーリー・ヘンダーソン、ニール・ハフ、トミー・ネルソン、ロッド・ロンデュー
写真引用(C)2010 by Thunderegg,LLC.
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