「北欧の至宝 マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」という仰々しいタイトルの特集上映があり、マッツ・ミケルセン主演、デンマークの名匠トマス・ビンターベア監督作品を観た。同じトマス・ビンターベア監督、マッツ・ミケルセン主演の『アナザーラウンド』(2020)は観たことがある。ヤン・クーネン監督、マッツ・ミケルセン主演の『シャネル&ストラヴィンスキー』(2009)も観たことがある。いろんな役がこなせる名優と言えるだろう。
この作品はデンマークの小さな村を舞台に繰り広げられる閉鎖的な人間関係を描いたちょっと辛い重い映画である。誰もが顔見知りであるような小さく狭い人間関係なだけに、一度こじれて仲間外れにされると生きていけないほど辛い。スーパーに買い物に行っても「もう二度と来るな」と追い返され、関係のない息子にまで村人たちは冷たく当たる。そんな辛い立場に追い込まれる男をマッツ・ミケルセンは淡々と演じている。怒りを内に溜め込んで、どうにもならない理不尽な状況に耐える男を演じているのだ。
ネタバレになってしまうが、少女に性的虐待をしたという冤罪をかけられてしまうのだ。それも少女の証言を幼稚園の園長先生も父母たちも、仲良くしていた友達も含めて村人みんながその男の少女への性的悪戯行為を信じてしまうのだ。これは辛い。少女は、マッツ・ミケルセン演じるルーカスという父親の友人を慕っていた。両親が喧嘩したときも幼稚園に一緒に連れて行ってくれるし、いつの間にか家を出て迷子になったときでも、一緒に家まで送り届けてくれるルーカス。そんな優しいルーカスは幼稚園の先生の仕事に就いたばかりだった。子どもたちとよく遊ぶし、人気の先生でもあった。ところが、少女のルーカスへの特別な好意を、ルーカスは戒める。少女クララがルーカスのために作ったプレゼントは、「他の友達にあげなさい」と言われ、ルーカスの唇にキスしたことを「唇はダメだ」とクララは怒られてしまうのだ。それで、朝、家を出る前にお兄ちゃんたちにふざけて見せられた男性性器のことを、ルーカスが自分に見せたかのようにクララは園長先生に言ってしまうのだ。
オープニングはルーカスと狩猟仲間たちが水辺で裸でふざけ合っている場面から始まる。一人の男は性器も丸出しで川に飛び込む。酒を飲んで歌を歌い、ふざけ合う狩猟仲間の男たちの絆をしっかり描いた上で、この事件を描く。しかも一番の親友テオ(トマス・ボー・ラーセン)の娘がクララであり、ルーカスはその親友テオとも反目し合う関係になってしまう。
クリスマス時期で、家族がみんな集る中での孤独。辛い状況が彼を追いつめていく。ルーカスの唯一の心の拠り所だった別れた妻と暮らす息子のマルクス(ラセ・フォーゲルストラム)が心配して訪ねて来ても、息子にも罵声を浴びせかけられ、家に石を突然投げ込まれ、息子の身の安全も確保できなくなる。愛犬も何者かに殺されてしまうのだ。八方塞がりの中で、クリスマス・イヴの夜にルーカスは殴られた傷だらけの顔で教会に行く。そして親友テオとルーカスが正面から向き合うのだった。
一年後、時間が経過して息子のマルクスが狩猟免許を持てるようになり、村でパーティーが開かれる。マルクスもルーカスも村人たちに受け入れられるようになったようだ。しかし森に入り、ルーカスが一人でいるところに銃の発砲音が響く。ルーカスが銃で狙われたようなシーンで映画は終わる。まだ村人たちのルーカスへの疑いが晴れていなかったのか?誰だか分からない銃を構える逆光のシルエットが映し出される。閉鎖的な人間関係のなかで、誰だか分からない悪意にいまだに晒され続けるラスト。共同体の仲間があり、集団であることの喜びや楽しみがある一方で、集団から排除される恐怖は計り知れない。人間の怖さ。疑いや不安と恐怖は簡単には消えないことを物語っている。
2012年製作/115分/R15+/デンマーク
原題または英題:Jagten
配給:シンカ
劇場公開日:2025年11月14日
監督:トマス・ビンターベア
脚本:トマス・ビンターベア、トビアス・リンホルム
撮影:シャルロッテ・ブルース・クリステンセン
美術:トーベン・スティー・ニルスン
衣装:マノン・ラスムッセン
編集:アンネ・ストラッド ヤヌス・ビレスコフ=ヤンセン
音楽:ニゴライ・イーイロン
キャスト:マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン、アニカ・ビタコプ、ラセ・フォーゲルストラム、グレテスーセ・ウォルド、ブルーンラース・ランゼ
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写真引用(C)2012 Zentropa Entertainments 19 ApS and Zentropa International Sweden.
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