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2025年11月25日14:11

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「ボイジャー」フォルカー・シュレンドルフ〜空間と時間の旅で重なる運命の悲劇〜

東京滞在中に時間ができたので、目黒シネマで映画を鑑賞。フォルカー・シュレンドルフは『ブリキの太鼓』以来だ。カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『ブリキの太鼓』(1979)は大々的に宣伝されて当時観た記憶があるが、その後フォルカー・シュレンドルフ作品はあまり公開されていなかったように思う。いや公開されてもあまり話題にならず、見ていなかった。本作品も1991年製作だが、4Kレストア版で今年2025年に日本で公開された。

スイスの作家マックス・フリッシュによる小説「ホモ・ファーベル」を映画化した文芸ものであり、脚本に『断絶』のルディ・ワーリッツァーが参加、撮影はアンゲロプロス作品でおなじみのヨルゴス・アルヴァニティス。主演がサム・シェパードとジュリー・デルピー。サム・シェパードは『天国の日々』、『ライト・スタッフ』、『きみに読む物語』などにも出ている人気俳優だが、劇作家で脚本家でもあり、私が大好きなヴィム・ヴェンダースの『パリ・テキサス』(1984)の脚本を書いている人だ。同じヴェンダースの『アメリカ、家族のいる風景』(2005)もサム・シェパード脚本だ。ジュリー・デルピーはリチャード・リンクレイター監督の恋人たちの会話劇『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(1995)が世界的にヒットし、『パリ、恋人たちの2日間』(2007)では自ら監督・主演もやっている多彩な女優だ。『ゴダールの探偵』(1985)でデビューし、レオス・カラックスの『汚れた血』(1986)にも出ている。1991年製作の本作ではまだあどけなさも残る初々しい女の子であり、映画は彼女の魅力で溢れている。

タイトルにあるように旅の出会いの映画であり、旅と恋と運命の悲劇の物語だ。フォルカー・シュレンドルフの映像演出は、美しい景色を旅するように楽しみながら、安心して観ていられる文芸作品の仕上がりになっている。ダム技術者として世界中を飛び回っているウォルター・フェイバー(サム・シェパード)は50歳を過ぎたが、まだ独り身で自由気ままに過ごしていた。ベネズエラ、メキシコ、ニューヨーク、パリ、イタリア、そしてギリシャのアテネ。飛行機、船、車と旅をしていくうちに過去と現在が運命的にシンクロしていく。

始まりはベネズエラの空港だった。空港で出会ったドイツ人の男がウォルターを過去に引き戻していく。どこかで見覚えのある顔。トイレで気を失って倒れていたのをCAが見つけて飛行機に飛び乗ったと思ったら、飛行機が砂漠に緊急胴体着陸。ドイツ人の男と話をしていくうちに、昔の恋人との思い出がよみがえる。そして彼の元を去った恋人ハンナ(バーバラ・スコヴァ)が結婚した相手が、ドイツ人の男の弟であり、今メキシコのタバコ農園にいると言う。しかし会いに行ってみると、首をくくって自殺していた。苦い恋と過去、そして死から逃れるように、ウォルターは船に乗ってパリへと向かう。

パリでの会議に行くのに、付き合っていた女から一緒に連れて行って欲しいアプローチから逃げ出すために、ニューヨークから突然船に乗った。豪華客船で大西洋を渡る途中、芸術を愛する女学生エリザベス(ジュリー・デルピー)と出会う。ウォルターは見たものしか信じない科学的な技術者。芸術に一切興味がない。そんなウォルターがいつも持っている16ミリ撮影機に、突然ポニーテールの女の子が写り込む。この荒れた粒子の二人で撮り合う映像が効果的。恋人たちの時間は美しい思い出になる。ルーヴル美術館やローマの各地の名所旧跡などを旅しながら、年代差のある二人の距離が縮まっていく。二人が関係を持った翌朝、逆光の朝の光の中で輝くジュリー・デルピーの金髪の髪が美しい。

そしてエリザベスとの何気ない会話から、彼女の両親のことが分かってくる。それはウォルターがかつて愛した女性であり、メキシコで自殺した男だった。禁断の父と娘の恋は、二人に罰を与えるかのように、海辺で眠っていたエリザベスの首筋に蛇が噛みつく。そして驚いたエリザベスは石に頭を打ちつけてしまう。ギリシャの青く美しい海辺での悲劇。病院に駆けつけたかつての恋人ハンナとの再会。そして娘エリザベスは結局は死んでしまうのだ。愛した女が自分の実の娘だったと知る運命の悲劇だ。そして同じ大切なものを失ってしまった者同士が、最後に別れの抱擁をする。空港のベンチで動けなくなってしまうウォルターだった。このシーンはファーストシーンと同じであり、彼の運命の悪夢の物語が映画で語られる構造になっているのであった。

空間の旅と時間の旅が重なりあう。奇跡的に運命的に悲劇的に。ジュリー・デルピーの好奇心に満ちた瞳の輝きが失われてしまった哀しみをウォルターもハンナもずっと抱えていくのだろう。


1991年製作/118分/G/ドイツ・フランス・ギリシャ合作
原題または英題:Homo Faber (Voyager)
配給:Stranger
劇場公開日:2025年6月6日

監督:フォルカー・シュレンドルフ
製作:エベルハルト・ユンカースドルフ
原作:マックス・フリッシュ
脚本:フォルカー・シュレンドルフ、ルディ・ワーリッツァー
撮影:ヨルゴス・アルバニティス、ピエール・ロム
美術:ニコス・ペラキス
編集ダグマー・ヒルツ
音楽:スタンリー・マイヤーズ
キャスト:サム・シェパード、ジュリー・デルピー、バルバラ・スコバ、ディーター・キルヒレヒナー、トレイシー・リンド、デボラ=リー・ファーネス、アウグスト・ツィルナー、トーマス・ハインツ、ビル・ダン
☆☆☆3
写真引用(C)2013 STUDIOCANAL GmbH. Alle Rechte vorbehalten
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