『過去を逃れて』(1947)のファム・ファタール、悪女モノつながりで、ビリー・ワイルダーの『深夜の告白』を見た。ビリー・ワイルダーと言えば、軽妙なロマンチック・コメディが有名で、ジャック・レモンと組んだ『お熱いのがお好き』(1959)、『アパートの鍵貸します』(1960)などがすぐ思い浮かぶし、オードリー・ヘプバーンの『麗しのサブリナ』(1954)や『昼下がりの情事』(1957)、マリリン・モンローの『七年目の浮気』(1955)など、女優を売り出した人気ヒット映画もある。しかし、初期は、アルコール中毒を扱った『失われた週末』(1945)などシリアスなサスペンスものも多かった。
ビリー・ワイルダーの1944年の初期の作品である本作は、フィルム・ノワールの古典的名作とされ、美人の妻が夫を保険金を掛けて愛人と共謀して殺害するサスペンス映画の先駆けとも言われている。プレストン・スタージェスのように脚本家から映画監督になったビリー・ワイルダーは、全作品の脚本を担当している。しかし、その3分の1は舞台や小説の映画化だった。本作は原作ジェームズ・ケインの小説『倍額保険』を、作家レイモンド・チャンドラーとビリー・ワイルダーとの共同で脚本にしており、台詞がなかなかオシャレで面白い。しかし実際には、気難しいレイモンド・チャンドラーと「軽薄に見える」ワイルダーとの仲は最悪だったと言われている。(Wikipedia「深夜の告白」より)
保険外交員のウォルター(フレッド・マクマレイ)が、深夜に保険会社の自分のデスクにやって来て、ディクタフォン(事務用録音機)をセットして、自らの罪の告白し始める場面から始まる。まさに「深夜の告白」だ。破滅に直面する主人公の回想によって物語を描く、というスタイルは、フィルム・ノワールの基本手法の一つとも言われるようになった。
ファム・ファタールの悪女フィリスを演じたバーバラ・スタンウィックは登場シーンから強烈だ。金髪の美女が「日光浴をしていた」と言い訳しながら、上半身の肌を露出しながら2階の踊り場から姿を見せ、自動車保険の更新にやってきた保険外交員のウォルターを出迎える。そして階段を降りてくる足元のショットがあって、その足首のアンクレットとスイカズラの香水でウォルターを魅了する。口が上手いウォルターもフィリスのことを褒めあげ口説こうとすると、「速度制限があるのよ。時速72kmよ」、「何キロ出してた?」、「145km」、「また違反するかも」・・・などというイキで洒落た男女のやり取りが展開される。そして「殺人も、時にはスイカズラの香りがする」なんていうモノローグが入る。
美貌の後妻フィリス(バーバラ・スタンウィック)は、実業家の夫ディートリクスン(トム・パワーズ)を保険金をかけて殺そうと企んでいたが、保険外交員のウォルター(フレッド・マクマレイ)と恋仲となる。美貌の人妻フィリスに夢中になったウォルターは、完全に見破られないような保険金殺人を彼女のために計画する。「きっちりやるのね」とフィリスとウォルターは会うのも秘密裏にスーパーの客のフリをしてさり気なく相談を繰り返し、準備する。ディートリクスンを欺いての倍額保険契約締結、不慮の事故で怪我を負ったディートリクスンを、敢えて列車でスタンフォード大学の同窓会の会合に出席させるよう巧み、駅頭や列車内で「ディートリクスン氏」の目撃者を作るためのネフの変装など、殺人は周到な偽装のもとに仕組まれ、実行される。結果、ディートリクスンの死は単なる列車転落事故として処理され、保険金殺人は完全に成功したと思われたが、保険会社でのネフの同僚である敏腕調査員バートン・キーズ(エドワード・G・ロビンソン)は、長年の経験による勘から疑問を抱き、死亡保険金支払いを差し止めさせて、フィリスの身辺調査に乗り出す。
ウォルターとフィリスの愛の物語と同時に、同じ保険会社に勤めるウォルターとキーズ(エドワード・G・ロビンソン)の友情物語のウェイイトも大きい。保険金詐欺を疑う調査員のキーズと犯人であり信頼し合っている同僚のウォルター。キーズの葉巻に火をつけるウォルターの動作が何度も反復される。そのマッチの火のつけ方がまたカッコいいのだ。とくにウォルターの家にフィリスが尋ねてくるシーンで、一足先にキーズがやって来て話し終えて帰ろうとする時、見つかりそうになってフィリスが扉の陰に隠れる。エレベーターに乗ろうとしたキーズが戻ってきて、「火を貸してくれよ」と言う場面はハラハラする。サスペンス的状況で、行きつつも戻って来るアクション演出が上手い。そして、最後に銃弾を受けて傷を負ったウォルターはエレベーターまで辿り着けずに倒れてしまう。ここでもエレベーターが効果的に使われる。「誰かが遠くにエレベーターを動かしやがった」などと洒落た台詞を言って、君が気づかなかったのは「犯人が近くにいすぎたんだ。デスクの向かい側に」とウォルターが言うと、「もっと近くに」とキーズが言い、「俺も愛してる」とキーズに言ってタバコを取り出すと、初めてキーズがウォルターのために火をつけてやる。男二人の間のニクい台詞と演出である。
キーズはいつも早口で持論をまくし立てる。同僚であり犯人であるウォルターに、罪を犯した共犯者は「市電に一緒に乗っているんだから勝手に降りられない。旅は片道で終点は墓場なのさ」などと粋な台詞を言うし、調査員として小さな事でも気になるキーズは、俺の胸に「小さな男が言うんだ」などと話すのも面白い。「人を愛したことなんてない。誰も。でも撃てなかった」、「あなたを愛してしまうなんて」と言うファム・ファタールのバーバラ・スタンウィックの悪女ぶりも十分魅力的なのだが、同僚の調査員エドワード・G・ロビンソンの方が印象に残る映画だった。
1944年製作/106分/アメリカ
原題または英題:Double indemnity
監督:ビリー・ワイルダー
原作:ジェームズ・M・ケイン
脚本:レイモンド・チャンドラー、ビリー・ワイルダー
撮影:ジョン・F・サイツ
音楽:ミクロス・ローザ
キャスト:フレッド・マクマレイ、バーバラ・スタンウィック、エドワード・G・ロビンソン、ジーン・ヘザー、トム・パワーズ
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写真引用@Album/アフロ
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