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2025年11月06日16:43

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「見はらし世代」団塚唯我〜過去は突然落ちてくる〜

ボヤケた天上の照明の電気から意味ありげに振り下ろされるカメラ。高速道路のサービスエリアのフードコートのロングショット。遠藤憲一が息子と喋ることによって、初めて登場人物の家族が明らかになる。そしてこの天上の照明は切れかかっているのか、チカチカと不安定に明滅している。それは、このあと強引な形で、車の中のテレビでレポーターによって落ちる電球として紹介され、心霊現象としてその後もテレビで映し出され、十年ぶりに特別な形で家族が再会するキッカケを作るために、電球は天上から突然落ちてくる。

最初のサービスエリアから母の井川遥の影が薄い。食事中はひと言も喋らないし、車が通り過ぎる道路をすぐに渡れなくて、家族の車にも一人遅れてたどり着く。着いた別荘でも、ボールをリフティングする息子や荷物を運ぶ父、ソファで寝転んで英単語の本を読む娘などの描写からだいぶ時間がたって、コーヒーを淹れる井川遥が映し出され、母も一緒だったんだと観客はようやく納得する。そして、遠藤憲一の仕事の電話に腹を立てて、2階の部屋に行ってしまう。家族より仕事を優先する夫。何度も繰り返された夫婦のやり取りにうんざりしている妻はソファに寝転がって、心配する娘に「ママは横になっているのが好きなの」と言う。海へと向かう父と子どもたちと行動を共にしない。それから幽霊になって登場するまで、母の井川遥は出てこないのだ。

この夏の家族旅行からいきなり10年半が経って、ランドスケープ・デザイナーとして活躍している父(遠藤憲一)がヨーロッパから日本に帰ってきた。花屋で仕事をしている息子の黒崎煌代は花を仕事場に届け、1久しぶりに遠藤憲一とガラス越しに再会する。このガラス越しの視線は、遠藤憲一が再婚しようと考えている菊池亜希子が、友達である木竜麻生が遠藤憲一の娘であることを知る場面でも使われる。登場人物たちの視線は直接的ではなく、ガラス越しの距離感がそこにある。一人一人の孤独・孤立感が登場人物たちにあるのだ。

ランドスケープ・デザイナーという街の景色をデザインする仕事が取り上げられている。そこには渋谷の街をデザインした現実がフィクションと重ねられている。ホームレスが住み着いていた宮下公園は、MIYASHITA PARK(ミヤシタパーク)として生まれ変わった。建築家・遠藤憲一がデザインした街がまさに渋谷のミヤシタパーク界隈であり、現実にもホームレスの強制排除や行政代執行が話題になった。建築設計事務所の台湾から来た女性が、「君たちを食べさせていくためには、こういう仕事も引き受けなきゃいけないんだ」と言い訳する遠藤憲一に抗議する場面があるが、彼は同じセリフを妻の井川遥にも言っていた。そして「水掛け論じゃないか」と、意見が噛み合わない相手とのやり取りを終わらせようとする。目の前の問題から仕事に逃げ続けていた遠藤憲一は、10年半経っても全く変わっていないことを台詞を反復させることで描いていた。そして夏休み旅行の別荘での2階への階段と渋谷の事務所の階段が、同じように関係の隔たりとして使われている。

黒崎煌代も最初の井川遥と同じように、車の通過でなかなか道路を渡れない場面が映し出される。思うようにうまくいかないこと。父をガラス越しに見つめ、道路をなかなか渡れない彼は、思うように前に進めない。自分でどうしたいのかも分からない。ただ、花を運び、考えることもせずに移動し続ける存在だ。姉の木竜麻生は、過去に区切りをつけ、婚約しても父と会おうともしない。姉と弟では、その割り切り方が違う。そんな木竜麻生もまた結婚を前にして、前に進むことに心がわだかまっている。言葉では過去を忘れたと言いながらも、父が戻ってきたことが気になっている。

そんな家族のバラバラになった関係の変化と、渋谷の街の変化が重ねて切り取られた映画だ。過去を忘れて前に進むことと過去から逃げられないこと。そして電球の落下とともに、死んだ妻の井川遥が同じサービスエリアのフードコートに現れ、夫の遠藤憲一の仕事に理解を示すようなことを言う。夫との関係に行き詰まっていたはずなのに、美しく微笑む幽霊としての井川遥が逆に遠藤憲一の心を深く抉る。

前に進めず、変わり続ける街を眺めているだけの黒崎煌代の前を、電動キックボードで若者たちが何度も通り過ぎる。そしてラストはその電動キックボードの若者たちの姿がセリフとともにカメラは追い続けて描かれる。電動キックボードで最後に出てきた女の子の服部樹咲は、花屋でバイトしていて突然辞めた女の子らしい。分からなくて友人に聞いたら、どこかに書いてあったのか教えてくれた。まさに彼女たちが「見はらし世代」なのだろう。風を切って、車で渋滞する道路をスイスイと走り抜け、見晴らしよく進む彼らの世代は、ホームレスたちの場所を奪って変わり続ける街をどう見ているのだろう。街は変わり、再開発は繰り返され、忌まわしき過去も封じ込められ、忘れ去られていくだけなのか?それでもいきなり落ちてくる電球のように、過去は突然襲いかかってくる。過去や歴史から私たちは逃れられないのだ。それでも前に進むことを諦めてはいけない。

団塚唯我は、第78回カンヌ国際映画祭の監督週間に日本人史上最年少、26歳の監督作品が選出された。オリジナル脚本・初長編作品でその快挙を成し遂げた。1998年生まれ、東京都出身。映画美学校修了。在学中は万田邦敏や脚本家の宇治田隆史より教えを受ける。


2025年製作/115分/G/日本
配給:シグロ

監督・脚本:団塚唯我
企画:山上徹二郎
製作:山上徹二郎、本間憲、金子幸輔、長峰憲司
プロデューサー:山上賢治
撮影:古屋幸一
照明:秋山恵二郎、平谷里紗
音響:岩��敢志
美術:野々垣聡
編集:真島宇一
音楽:寺西涼
キャスト:黒崎煌代、遠藤憲一、井川遥、木竜麻生、菊池亜希子、中村蒼、中山慎悟、吉岡睦雄、蘇��淳、服部樹咲、石田莉子、荒生凛太郎
☆☆☆☆4
写真引用コピーライト︎2025 シグロ / レプロエンタテインメント
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