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2025年10月04日21:08

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「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」ウェス・アンダーソン〜政治的風刺劇のようにも見えてしまう愚かな戦い〜

お馴染みウェス・アンダーソンの新作である。いつも似たような映画ながら、つい新作が公開されると映画館に足を運びたくなってしまうウェス・アンダーソン監督作品。楽しく美しくオシャレでキッチュな映像、その独特な世界観にいつも魅せられてしまう。しかし最近は、ますます荒唐無稽な絵空事へと向かっているような気がするし、初期映画にあったようなロマンティックさも影を潜めている。私は初期の『ムーンライズ・キングダム』(2012)、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001)、『天才マックスの世界』(1998)、『ライフ・アクアティック』(2004)、『ファンタスティック Mr.FOX』(2009)などのオモチャ箱をひっくり返したような手作り感のある動きの遊び、夢と愛と冒険に溢れた寓話的物語が好きだったのだが、『グランド・ブタペスト・ホテル』(2014)の楽しい活劇の大騒動を最後に、それ以降は映画が空転しているような気さえしていた。物語を複雑にし過ぎているのではないか。さて今回はどうなのだろうか・・・。

さて『グランド・ブタペスト・ホテル』に出ていた可愛らしいピンクの箱に代わって、今回は地味な靴箱から始まる大富豪ザ・ザ・コルダによる架空の独立国フェニキアのインフラを整備する大プロジェクト「フェニキア計画」である。自家用機の機内の様子がまたオシャレで、登場人物の座り方もウェス・アンダーソンの世界だなぁと楽しんでいると、いきなりの爆発音とともに機体に穴が開き、上半身が吹っ飛んでいる男の体が座席に残り、操縦士は上空へと吹っ飛んでいく。ザ・ザ・コルダ(ベニチオ・デル・トロ)が操縦桿を握ってトウモロコシ畑に緊急着陸するというA・ヒッチコックの『北北西に進路を取れ』を思い出させながらの快調な滑り出しである。そしてタイトルバックの真上の天井からの広い浴室の俯瞰映像。タイル模様が美しく、ワインで優雅に寛ぎながら浴室で傷を癒やすザ・ザ・コルダと看護師や使用人たちが動くスタイリッシュな映像(スローモーション)に目を奪われる。繰り返される暗殺、6度目の墜落事故をサバイブした不死身の男ザ・ザ・コルダとその財産を相続させようと呼び寄せた娘、修道女見習いリーズル(ミア・スレアプレトン)の父と娘の物語である。そして、いつも二人のそばにいる奇妙な男、家庭教師のビョルン(マイケル・セラ)を含めた3人が、「フェニキア計画」の不足資金を調達するため旅に出る話だ。まるで双六のような旅が平面的・羅列的に描かれる。

ザ・ザ・コルダは9人の息子たちを除外してリーズルを唯一の相続人に指名する。9人の息子たちが除け者にされて、話し合いの場にさえ同席させてもらえず、上から計画が入っている靴箱に矢を放つ・・・って何かの暗喩?娘が「修道女見習い」っていう中途半端さはナニ?などと考える暇もなく、ザ・ザ・コルダの勝手な「フェニキア計画」は進んでいく。それぞれの地での出資者がまたクセ者ばかりで、ザ・ザ・コルダもインチキな詐欺師らしく、契約書を勝手に書き換えたりしていて、まさに騙し合いの茶番劇だ。ザ・ザ・コルダはまるでトランプ大統領か!?交渉劇はディール?なんて思わないでもないのだが、パレスチナのガザ地区のリゾート計画も似たようなモノか?大富豪の資本家が勝手にインフラを整備して、長年に渡ってその利益の5%をもらい続ける構図。まさに弱者を餌食にするグローバル資本主義そのものではないか。

今回は手榴弾が飛び交い、暗殺がいろいろと企てられる。暗殺劇は茶番のようにパロディ化されるので痛みは伝わらないが、ベニチオ・デル・トロはいつも血だらけ、傷だらけ、痣だらけのボロボロの体で生死の世界を彷徨い、臨死体験が描かれる。ウェス・アンダーソンへのインタビュー記事によると、暗殺組織のセルヒオ(リチャード・アイオアディ)の暴力テロはウェス・アンダーソンが敬愛するルイス・ブニュエルの『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』から影響を受けたものらしい。夢の中で血まみれで殺されたり、テロ集団が次々と出てくるブニュエル映画のように、ザ・ザ・コルダもまた暴力に晒され続ける。臨死体験やカトリックの描写もブニュエルを意識してのものらしい。ブニュエルは観客を不条理にメチャクチャな世界に引きずり込んでいくが、ウェス・アンダーソンは、軽やかにオシャレでコミカルに暴力を描く。人生とは「どっちは強いか?」という単純な戦いでしかないという皮肉が笑わせる。

今回は、不在の母(母の死)をめぐる不信感による溝が横たわる娘と父が、旅を通じて再び親子になるための物語でもある。家族の崩壊と再生は、ウェス・アンダーソンが描き続けた変わらぬテーマであり、今回はわりとほのぼのとした感じで着地して終わる。会話のスピードが早く、正直言って字幕を追うので精一杯だった。見落としているところも多いような気がする。横移動や正面カット、シンメトリーな構図や見事な美術セットなど、いつも通りのウェス・アンダーソンの世界が楽しめるのだが、今回はどこか暴力的な世界が支配している。色彩がいつものようにカラフルな可愛らしい感じではなく、オジサンばかりのバトルが中心なだけに、靴箱のように渋い感じがする。本来は馬鹿馬鹿しい遊びの世界のウェス・アンダーソン作品が政治的風刺劇のように見えてしまうのは、現代の世界そのものがここで描かれている人間たちのように愚かだからなのか。最後の父と娘のようにささやかで幸せな日常こそを取り戻したいものだ。


2025年製作/102分/G/アメリカ・ドイツ合作
原題または英題:The Phoenician Scheme
配給:パルコ

監督・脚本:ウェス・アンダーソン
製作:ウェス・アンダーソン、スティーブン・レイルズ、ジェレミー・ドーソン ジョン・ピート
製作総指揮:ロマン・コッポラ、ヘニング・モルフェンター
原案:ウェス・アンダーソン、ロマン・コッポラ
撮影:ブリュノ・デルボネル
美術:アダム・ストックハウゼン
衣装:ミレーナ・カノネロ
編集:バーニー・ピリング、アンドリュー・ワイスブラム
音楽:アレクサンドル・デスプラ
音楽監修:ランドール・ポスター
キャスト:ベニチオ・デル・トロ、ミア・スレアプレトン、マイケル・セラ、リズ・アーメッド、トム・ハンクス、ブライアン・クランストン、マチュー・アマルリック、リチャード・アイオアディ、ジェフリー・ライト、スカーレット・ヨハンソン、ベネディクト・カンバーバッチ、ルバート・フレンド、ホープ・デイビス、ウィレム・デフォー、ビル・マーレイ、シャルロット・ゲンズブール
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写真引用(C)2025 TPS Productions, LLC. All Rights Reserved.
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