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2025年09月19日13:56

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「みな殺しの霊歌」加藤泰〜緊張感ある独特の映像感覚〜

東映の時代劇や任侠映画の名匠・加藤泰が、松竹大船撮影所で製作した1968年の松竹映画。加藤泰には珍しい現代サスペンス劇だ。ローアングルで有名な加藤泰のユニークな映像が随所に見られる。ローアングルだけではなく、大胆な構図やアップでの人物配置や光と影の演出、顔を映さないシルエットのロングショットなど、独特の映像を見ているだけでも楽しい。タイトルに惹かれて見たのだが、内容的にも面白かった。構成に山田洋次が入っている。加藤泰と山田洋次の共同作業は山田洋次作品『馬鹿まるだし』(1964年)の共同脚本が最初だが、山田はもともと加藤泰のファンだったらしい。本作は三村晴彦が脚本を書いている。

最初から女をいたぶって殺す猟奇的な殺人鬼として佐藤允が出てくる。次々と女を殺していくのだが、その理由が最初分からない。殺された女たちは高級クラブのマダムや大会社の重役夫人、銀座の高級麻雀店の支配人など、いずれもセレブな有閑マダムたち。次第に女たちにどういうつながりがあるのか分かってくる。そんな殺人鬼の佐藤允と下町の食堂で働く倍賞千恵子が親しくなっていく。佐藤允は食堂近くの工事現場で働いているのだ。倍賞千恵子は若くて可愛らしい。倍賞千恵子と言えば『寅さん』の「さくら」がすぐに思い浮かぶが、この映画でもヤクザで乱暴者の兄ちゃんのことが語られる。倍賞千恵子が佐藤允に語る兄ちゃんは、軍隊ラッパのおじいちゃんに可愛がられた昔話だ。しかし、おじいちゃんが死んでから兄は荒れ始めたようだ。この土手の草むらでの二人の語りのシーンは、長玉(望遠レンズ)でワンカット長回しのいいシーンになっている。そしてその家族に乱暴するお兄ちゃんを首を絞めて殺したのが倍賞千恵子なのだった。『寅さん』の兄思いの「さくら」とは正反対のダークな妹の闇が描かれている。殺してしまった愛憎交えた兄への思いと罪を抱えながら、殺人犯の佐藤允を好きになる。佐藤允は実は新婚初夜の花嫁を殺した犯人として逃亡しており、時効まであと1年だった。その指名手配のモンタージュのポスターが食堂に貼られており、佐藤允の顔の部分だけが剥がされているという演出がうまい。倍賞千恵子は、逃亡犯の佐藤允のことを分かっており、ポスターの切れ端を見せて確認する。彼に自首してもらい刑期を終えるまで待っていようと思っていたのだ。しかし、佐藤允はさらに殺人を重ねていた。

最後に、佐藤允が有閑マダムたちを殺した理由が明らかになる。北海道出身で彼と同郷のクリーニング店で働く少年が、ブルーフィルムを見ていた女たちに輪姦されたのだった。佐藤允とその少年は家族でもなく、ただ親しくしていただけの間柄だった。そんな少年が、女たちの性の玩具にされた後で飛び降り自殺をしたのだ。そのことが許せなくて、佐藤允はその場に居合わせた女たち5人を次々と殺していったのだった。最後は、クリーニング店の少年と同じようにビルから飛び降りて死んで終わる。豊かになりつつある戦後社会、有閑マダムたちと田舎から出てきて苦労している少年たちの格差への恨みが描かれている。なんとも暗い話だが、この時代は、こういう格差の恨みや復讐にまつわる犯罪サスペンスが多かったように思う。一見の価値ありの作品だ。


1968年製作/90分/日本
原題または英題:I,the Executioner
配給:松竹

監督:加藤泰
構成:山田洋次、加藤泰
脚本:三村晴彦
原案:広見ただし
製作:沢村国男
撮影:丸山恵司
美術:森田郷平
装置:川添善治
音楽:鏑木創
録音:中村寛
照明:津吹正
編集:大沢しづ
キャスト:佐藤允、倍賞千恵子、應蘭芳、中原早苗、沢淑子、菅井きん、河村有紀、松村達雄、大泉滉、角梨枝子、石井均、須賀不二男、太宰久雄、渡辺篤、吉田義夫、藤田憲子、明石潮、高野真二、石井トミコ、諸角啓二郎、穂高稔
☆☆☆☆4
写真引用コピーライト1968 松竹株式会社
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