1930年製作の小津安二郎の無声映画である。モボ・モガ(モダンボーイ・モダンガールの略)と呼ばれていたお洒落な男女のファッションスタイルが楽しめる。ゴルフや鎌倉の大仏へのドライブやピクニック・・・。ヤクザな男の情婦のヘアスタイルもショートカットのモガスタイルだ。
そして何よりも楽しいのは、小津映画の特徴である動作(アクション)のシンクロ(同調)が遊びのような動きとして取り入れられているところだ。隣り合わせの二人が同時に酒を飲んだり、同時に座り込んだり、川釣りのアクションが同じだったりする後の小津映画の特徴的な動作のシンクロが、まるで宴会芸のような遊びとしてダンスのようなステップと身振りでこの映画では演じられているのだ。チンピラの仲間内の挨拶として、やってきた二人が同じステップを踏んで手を叩いて帽子を取って額を叩くという奇妙なアクションをすると、迎える相手の二人も何かのサインのような同じ奇妙な身振りをする。アクションの合い言葉のような挨拶だ。さらに酒場で5人の男が横並びで組んでいた脚を同時に揺らしながら同じタイミングでタバコを吹かし、ボスらしき男がビリヤードの球を突くと、一斉に立ち上がってクルッとまわってポーズを決める。さらに別の男の登場に同じステップを踏んでポーズを決めて出迎える。こんな遊びのアクションがとにかく楽しい。それはまるで、ゴダールの『はなればなれに』(1964)のアンナ・カリーナたち3人の有名なダンスのステップのように軽やかで楽しげだ。さらにヤクザの情婦が会社社長に悪巧みを持ちかけるエレベーターの場面では、二人の靴がアップとなり、二人の靴のつま先の動きが同調する。こんな風に無声映画時代に小津安二郎が遊びのアクションとして取り入れていたものが、後の小津映画の特徴的なアクションの同調につながっていったと言うことがよく分かる。
オープニングは大きな汽船が見える港(横浜?)に、客を出迎える車がずらっと並ぶ様子をカメラがトラックバックして見せると、カメラの横から一人の男を大勢の男たちが追いかける後ろ姿が映し出される。カメラの動きとは逆方向の人間の動きが面白い。まるでバスター・キートンの映画のようなドタバタ騒動が、港から倉庫群や貨車が止まる構内などで続く。そしてさんざん走り回って捕まえられた男は、紳士から財布を盗んだようだ。そこへ一人のシルクハットにコート姿の紳士がやってきて、「盗んだというのなら身体検査をしてみたらどうです」と提案し、財布が出てこないため無罪放免となる窃盗犯。どうやらコソ泥・仙公(吉谷久雄)とシルクハットの紳士・謙二(高田稔)はグル(仲間)だったという始まりだ。見事な無声映画らしい活劇のオープニングだ。
物語はこのヤクザな紳士演じるチンピラ謙二(高田稔)が、堅気の和服姿の女性やす江(川崎弘子)を好きになってしまい、自分がヤクザなチンピラだと言えない。タイピストであるやす江は会社社長(阪本武)に口説かれていたが、謙二に助けてもらう。しかし、謙二がヤクザ者だと知ったやす江は、「真面目に働くまで会わない」と彼に告げる。情婦だった洋装の女(伊達里子)を謙二はフって、やす江の希望通りチンピラ仲間と縁を切り、真面目に働き始める。弟分の仙公(吉谷久雄)は会社の運転手になり、謙二はビルの窓拭きの仕事を始めたのだ。ところが昔の弟分(毛利輝夫)にピストルで撃たれてしまう。その場に居合わせたやす江が、謙二の怪我を介抱するのだったが、謙二も仙公も警察に捕まってしまう。これまでの罪を償い、更生した謙二が刑期を終えて出てきたところをやす江の家族が出迎え、ハッピーエンド。通俗的な恋愛メロドラマだが、兄貴と弟分、高田稔と吉谷久雄の男同士の友情の方が重要なウェイトを占めている。
チンピラの謙二が情婦を使って美人局をやって男から金を巻き上げる場面での帽子の使い方、仙公の帽子が車から2回も落ちる場面や、謙二と仙公の別れの場面など、キャラクターそのものである「帽子」という小道具がうまく使われている。さらに謙二の手首の刺青とそれを消した傷跡、足元のアップ、やす江が千切る紙切れ、謙二の部屋の壁にある男の影のような絵や英語の歌詞、女性ボクサーのポスターなど、細部に丁寧なこだわりを見せる小津演出が垣間見えて面白い。
1930年製作/99分/日本
配給:松竹
監督:小津安二郎
原作:清水宏
脚本:池田忠雄
撮影:茂原英雄
キャスト:高田稔、川崎弘子、吉谷久雄、伊達里子、鈴木歌子、毛利輝夫、阪本武
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写真引用

1930 松竹株式会社
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