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2025年09月05日23:07

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「ヨーロッパ横断特急」アラン・ロブ=グリエ〜メタフィクションで虚構を解体する〜

「ヌーヴォー・ロマン」の作家、アラン・ロブ=グリエが『去年マリエンバートで』(1961)の脚本を書き、『不滅の女』(1963)で映画監督デビューをした後に、1966年に監督第二作を撮ったのがこの映画『ヨーロッパ横断特急』だ。なんとも奇妙奇天烈な人を食ったような作品。虚構が虚構を生むメタフィクションの世界。どこまでいっても虚構の世界が重ねられていくのである。

電車に乗り込んだ映画監督たちスタッフ3人(男2人女1人、アラン・ロブ=グリエ本人と女性は奥さんのカトリーヌ・ロブ=グリエらしい)が、車内で映画の構想を練る。テープレコーダーで録音しながら、ストーリーを考えていく。するとそのストーリーがそのまま、ジャン=ルイ・トランティニャンによって演じられるのだ。パリからベルギーのアントワープへ「ヨーロッパ横断特急」で往復移動しながら、ジャン=ルイ・トランティニャンがエリアスという名前を与えられ、麻薬の運び屋として行動し、密輸組織からその資質を試されるのだ。パリの街で麻薬を隠せる二重底のスーツケースを購入し、ダミーの粉砂糖を買ってスーツケースに入れ、駅で雑誌を買って、別の男の持っているスーツケースと交換する。「プティジャン神父をお待ちに?」「神父はまだ旅行中だ」が合い言葉のようだ。街のあちこちに組織の者と思われる人間がいて、スーツケースは交換され、物の受け渡しがあり、エリアスは監視され続ける。そしてエリアスことジャン=ルイ・トランティニャンは、映画のストーリーを構想している男たちと同じ列車のコンパートメントに乗り合わせたりもする。「おかしな男だな」「知ってるだろ」「ジャン=ルイ・トランティニャンよ」「君の映画に出せよ!」なんて会話がある。お遊びのように、フィクションが現実のようなフィクションとして重なるのだ。途中、何度もストーリーについて3人の議論が挿入される。「あれはどういう意味?」、「コカインよりダイヤよ」とかなんとか。そしてエリアスが手に入れた新たなスーツケースには、ピストルが本の中身をくりぬいて隠されており、アントワープの駅で降りた彼はホテルに部屋を取る。ホテルのフロントの男、部屋へ案内する女など、それぞれ意味ありげに顔のアップが入る。組織の人間であるかのような。男は街で娼婦エヴァ(マリー=フランス・ピジェ)と知り合い、SMプレイのようなこともする。駅で見た雑誌には、女たちが鎖で縛られるグラビアが載っていてエリアスはこっそり購入していた。エヴァは警察と通じているようである。

ロッカーに鞄を預ける指示があり、税関検査員に荷物を調べられたり、港で男たちに囲まれてピストルを突きつけられて逃げ回ってロッカーの鍵を渡したり、警察に仲間を売る罠が仕掛けられたり、いろいろエリアスは運び屋としての資質が試される。しかしエリアスは組織の男だと思った刑事に、コカインを運ぶ情報を言ってしまったりもする。マチューというバーの給仕をしていた少年と再会し、彼の家に行くと「007ロシアより愛をこめて」の映画のポスターがあり、漫画の話のように自分に起きたことを語るエリアス。続きの漫画をマチューにパリで買ってくる約束をする。フィクションをさらにフィクションとして語る。そしてエリアスはパリに戻ってくると、組織から運び屋として合格の連絡を受け、今度は本番だということで再び同じルートでアントワーヌ行きの列車に乗る。列車、鞄、コインロッカー、鍵、女・・・といった同じようなことが繰り返される。

しかし刑事たちは駅でエリアスを見張っていた。まわりの者たちは、組織の人間なのか、刑事なのかよく分からない。ロッカーから鞄を受け取り、人々の視線が気になるエリアスは列車の中でも落ち着かない。アントワーヌに着いてロッカーに鞄を預け、また娼婦のエヴァと会う。エヴァが刑事にロッカーの鍵を盗んで渡していたことを知り、エリアスは女を縛って首を絞めて殺してしまう。刑事がエヴァに協力させたのだ。エリアスはマチューの部屋に隠れ、彼に漫画を渡す。刑事も組織の人間も失踪したエリアスを探す。造船所のようなところで、組織のボスと刑事が相対する場面もある。刑事がキャバレーの緊縛ショーの広告を新聞に出し、それを見てエリアスは店にやって来る。どんだけ緊縛プレイが好きなんだ?鎖に縛られて裸でターンテーブルでまわる女。そこでエリアスは刑事たちに囲まれ捕まる寸前に、現れた組織の男に銃で撃たれて殺されてしまう。最後に映画スタッフが列車から降りてきて、新聞記事を見てアントワープで女が殺され、エリアスの事件が載っている。「いずれにせよ、無理だな。現実は退屈だ。」と言って去って行く。そして殺されたエリアスことジャン=ルイ・トランティニャンと殺されたエヴァ、女優マリー=フランス・ピジェが抱き合っている場面で映画は終わるのだ。映画を構想するという虚構が現実のようになり、それもまた映画の虚構であることが示されて終わるのだ。

ストーリーを説明しても訳わかんない映画だ。映画を構想するというフィクションにフィクションが重ねられていく。映画にありがちな麻薬密売の組織と刑事たちの監視のもとで、運び屋の犯罪サスペンス物語。しかし、犯罪そのものは描かれない。鞄だけが受け渡され、ロッカーに預けられ、鍵が受け渡されるだけだ。人が男を見張り、人から人へ伝言が伝えられ、物が渡されていく。女スパイが男に近づき、裏切りがあり、ピストルが炸裂する。中身のないアクションだけだ。さらに男を動かす動機がSM緊縛プレイという趣味なのがふざけている。意味ありげな組織か刑事の関係者ばかりが出てくる中で、マチューという少年の存在がよく分からない。フィクションの受け手である観客であり、漫画読者でもある。映画の中の虚構性を信じて、その世界に浸りに来る観客を、すべて絵空事のフィクションであると突き放ち、フィクション自体を解体する。そんなフィクションに踊らされながらも、我々はフィクションを楽しむのだ。そんなふざけた奇妙な映画であることは間違いない。


1966年製作/95分/フランス・ベルギー合作
原題または英題:Trans-Europ-Express
配給:ザジフィルムズ

監督・脚本:アラン・ロブ=グリエ
編集:ボブ・ウエイド
キャスト:ジャン=ルイ・トランティニャン、マリー=フランス・ピジェ、クリスチャン・バルビエール、アラン・ロブ=グリエ、カトリーヌ・ロブ=グリエ
☆☆☆☆4
写真引用(C)1966 IMEC
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