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2025年07月14日19:44

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「ペパーミント・キャンディー」イ・チャンドン〜逆回転で人生を遡っていく男の物語〜

イ・チャンドンの長編第2作。イ・チャンドン監督は『ポエトリー アグネスの詩』(2010)、『バーニング 劇場版』(2018)ぐらいしか見ていないが、どちらも面白かったので初期の作品を見た。

「名もなき花をカメラで撮りたい」なんて言っていた心優しい青年が、「なぜ俺の人生は狂ってしまったんだ?」「だめだ。戻りたい。帰りたい。」と泣き喚きながら鉄橋の上の線路で死を選ぶまでの人生を遡って振り返っていく。場違いなスーツ姿でかつての工場仲間のピクニックをしている友たちと再会する男キム・ヨンホ(ソル・ギョング)。男は友たちの制止を聞かず線路に立ち、迫る列車に向かって叫ぶ。すると、走る線路を逆回転で戻りながら、時間が前に戻って各章立てて男の過去のエピソードが描かれる。

「カメラ」(3日前1999年春)。河原の鉄橋で自殺する3日前の男の時間が描かれていく。かつて働いていた工場の仲間が久しぶりに集って、河原でピクニックをするという相談。男もその場所に向かうのだが、男には金が一銭ももない。株で失敗してサラ金で借金して逃げ回り、共同経営者だった友人には金を持ち逃げされ、妻と娘と生き別れて自暴自棄になっている男。誰かを巻き添えにして死のうと思って男は拳銃を購入した。そんなときに、初恋の相手が「死ぬ前に一度会いたい」と言っていると彼女の夫が訪ねてくる。しかし、男がスーツ姿に着替えて病院に行くと、彼女の意識はもうなかった。軍隊に手紙と一緒に彼女が差し入れしてくれたペパーミント・キャンディーを持って彼は病室に行ってその思い出を語る。しかし意識がないはずの彼女の目から涙がこぼれる。そして夫からあなたのものだと妻が言っていたカメラを手渡される。その思い出のカメラも、男はすぐに質屋に持って行って金に換えてしまう。

そして「人生は美しい」(1994年夏)の5年前の章では、友人を共同経営者にして会社を起業して羽振りが良かった時代が描かれる。株も経営も儲かっていたが、妻(キム・ヨジン)は男と浮気をしていて、男も会社の女とデキていた。そんなときに警察時代に厳しい尋問をした男と再会する。その男のノートには「人生は美しい」と書いてあった。男の人生は美しいと言えるのか?引越祝いで会社の人間が自宅に飲みに来るが、妻は祈り泣くばかり。男の家庭はすでに崩壊していた。

さらに時間は遡り、「告白」(1987年春)の章では、妻が妊娠出産。7年後の1994年に出会った男を暴力的に尋問する刑事時代。キム・ヨンホは初恋の女の故郷の街・群山に仕事で張り込みに来ていた。そして夜、初恋の女スニム(ムン・ソリ)のことをバーの女に語りながら、「彼女の故郷の街で、彼女が歩く道を歩き、彼女が見る海を見て、同じ雨を見る。会えなくてもそれだけでいいんだ」とロマンチックなことを語りながら女を口説き、スニムのことを泣きながら思い出し、身代わりに女を抱くのだ。

「祈り」(1984年秋)の章では、工場近くの食堂で働いていた妻との出会いがあり、初恋のスニムが刑事になった男を訪ねてくる場面が描かれる。そしてせっかく初恋の彼女に出会えたのに、男はわざと悪ぶってスニムの前で食堂の女の尻を触り、もう優しい手をしていたあの頃の自分ではないことを伝える。「カメラで名もなき花を撮りたい」とかつて言っていた男のために、スニムはお金を貯めてカメラを買って渡そうと持ってきていた。しかし男はカメラを受け取らなかった。死の3日前に夫から受け取ったあのカメラだ。スニムと別れた後に、酒に酔って暴れるシーンも描かれる。男が酔って食堂の前の広場を自転車でグルグルと回る場面がある。青山真治の『ユリイカ』(2000)でも似たような自転車のシーンがあったのを思い出した。刑事としては新人で、初めて尋問を行なうが、まだ乱暴な刑事になる前の真面目さが残る青年だ。妻と初めてセックスをする場面で、妻が祈る姿がここでも描かれる。

「面会」(1980年5月)の章は、軍隊に入隊していた時代だ。男はまだ真面目で気弱で軍隊にも慣れていない。そんなときに初恋の彼女スニムが面会に来るのだが、男は会えない。1980年戒厳令下の韓国で光州事件が起き、街の鎮圧に軍隊が駆り出され、男は足を打たれて怪我をする。暗闇で救助を待っているときに男は誤って一人の少女を撃ってしまう。自らの暴力で少女を死なせてしまったことで、男は泣き叫ぶ。優しかった男が変わっていくキッカケになった事件だ。

最後は「ピクニック」(1979年秋)。最後に彼が工場仲間と再会する同じ河原でのピクニック。キム・ヨンホは真面目で優しい男だった。そしてこの河原でスニムと出会い、花を手渡す。そしてペパーミント・キャンディー工場で働くスニムの話を聞き、ペパーミント・キャンディーは大好きだと言って、彼女からもらったキャンディーをなめるのだ。その河原の風景をいつか見た夢の風景のような気がすると呟く。男はスニムと出会った思い出の河原で、未来に死を迎えるのだった。

20年という人生の時間が遡っていく展開が面白い。自暴自棄になって泣け叫び、死を選ぶ男がどういう経緯を経てそうなってしまったのか。優しい純情だった青年から少しずつ変わっていく様子が逆回転のように紐解かれていくのだ。軍隊時代の光州事件での誤射事件がキッカケとはいえ、男自身の問題もあった。人間は、こんな風にズルズルと転げ落ちてしまうのか。そして環境の変化で変わってしまうのか。いろいろと考えさせられて、感慨深い。


1999年製作/130分/R15+/韓国・日本合作
原題または英題:Peppermint Candy
配給:JAIHO

監督・原作・脚本:イ・チャンドン
製作:ミョン・ゲナム、上田信
撮影:キム・ヒョング
美術:パク・イルヒョン
編集:キム・ヒョン
音楽:イ・ジェジン
キャスト:ソル・ギョング、ムン・ソリ、キム・ヨジン
☆☆☆3
(C)EAST FILM&NHK
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