これはオシャレな映画だ。ハンフリー・ボガートとローレン・バコールのやり取りだけでシビれてしまう。ホークスが長らく望んでいたヘミングウェイ原作の映画化。ホークスの妻が雑誌のモデルをしていたローレン・バコールを見つけて夫に推薦、主演に大抜擢したという逸話がある。そして、この映画がきっかけとなって、ハンフリー・ボガートはローレン・バコールと4度目の結婚をした。
1940年、フランス降伏直後、ビシー政権下のマルチニック島フォールド・フランス。釣り船の船長をしているアメリカ人ハリー(ハンフリー・ボガート)は、ホテルの支配人ジェラール(マルセル・ダリオ)からフランス奪還を狙うドゴール派への協力のため、船を出してくれと頼まれるが、ハリーは政治には関わりたくないと拒否する。ところがハリーの船の釣り客ジョンソン(ウォルター・サンド)が、その政治抗争の流れ弾に当たって死んでしまう。ハリーは、ジョンソンからまだ釣り船代をもらっていなかった。そしてドイツに協力的なビシー政権下の秘密警察ゲシュタポの警視レナード(ダン・シーモア)の暴力的な取り調べを受けて、次第にこの抗争には巻き込まれていく。
まずハンフリー・ボガートのホテルの部屋に客が次々と訪ねてくるのが面白い。ホテルの支配人、そして向かいの部屋に泊まっているトリニダッドから飛行機で来たアメリカ美人マリー(ローレン・バコール)だ。「マッチある?」といつの間にか部屋に入ってきて扉に佇み、ハリーがマッチを投げる。この二人の間での「投げる動作」が後にも反復される。クール・ビューティーなローレン・バコールがマッチを受け取り、タバコに火をつけ、火の消えたマッチを後ろに投げ、マッチを投げ返す仕草がまたカッコいい。そして、ホテルの酒場でマリーが、彼の釣り客ジョンソンから財布を盗むのを見たハリーが彼女を部屋に呼ぶのだ。そこへ今度は、船を出して欲しいドゴール派の連中がズラズラと部屋に押しかけてくる。さらに船仲間のエディー(ウォルター・ブレナン)までが酒代をせびりにやって来る。このいつも酒ばかり飲んでいるウォルター・ブレナンがいい味を出している。「死んだハチに刺されたことあるか?」「死んだハチには気をつけた方がいい。奴らはひどく刺す。特に死ぬときに怒っていたハチは怖い」という彼のお得意のエピソードが映画の中で何度も繰り返されるのも面白い。
警察の取り調べから解放されて戻ってきたハリーの部屋に酒瓶を持って入ってくるマリー。そしてハリーとのやり取りで怒ったマリーが自分の部屋に戻ると、今度はハリーがマリーの部屋に酒瓶を返しにやって来る。そして彼が部屋に戻ると、また彼女が酒のボトルを持ってハリーの部屋にやって来るのだ。この二人の部屋の往復運動で、二人の関係が次第に縮まっていき、ローレン・バコールはハンフリー・ボガートにキスをするのだ。彼女が金を渡そうとするが受け取らないハリーに、「唇もお金も 同じ私のものよ」と言い、「少し違う」と彼が答えると、「もう余計な言葉は無用よ。何も言わなくても私には分かるから。ただ口笛を吹いて」「口笛は吹ける?唇を突き出して吹くのよ」と言って部屋から去っていくのだ。そして軽く口笛を吹いて苦笑いするハンフリー・ボガート。もうこの二人の部屋の往復運動のやり取りだけで、この映画を見る価値がある。
そしてドゴール派のポール・ド・バルザックとその妻エレーヌ(ドロレス・モラン)を船に乗せて運ぶ手伝いをしたハリーの部屋に、再び人物たちが次々と押しかけてくる。まず、バルザックの妻エレーヌがやって来て宝石を預かってくれと頼みに来る。そこへマリーが秘密警察のレナードが来るわと告げに入ってきて、女性二人を奥の部屋に隠したハリーは、レナードたち警察とジェラールら4人を部屋に迎え入れる。そして絶体絶命のピンチに陥ったハリーは、マリーに「引き出しのタバコを取ってくれ」と頼む。引き出しの中にはピストルがある。そしてマリーは引き出しを開けてハリーにタバコを投げる。「マッチがないぞ」と言った瞬間にハリーは引き出しの中のピストルで警察の連中を撃つのだ。このローレン・バコールとハンフリー・ボガートがタバコやマッチを「投げる」やり取りが最初の出会いであり、映画の決定的な場面でそれが反復されるのだ。見事な演出だ。
この映画の魅力はもう一つ、酒場の歌のシーンだ。ハワード・ホークス映画では、音楽が演奏される場面が多い。ホテルの酒場のピアニストのホーギー・カーマイケルの演奏で、ローレン・バコールは低音で歌を歌う場面があり魅力的だ。さらにホーギー・カーマイケルの歌と演奏で「香港ブルースHong Kong Blues」も披露される。この曲は細野晴臣も歌っているのでよく知っている。そしてラストシーン、ハンフリー・ボガートと一緒に旅立つことになったローレン・バコールがピアニストのホーギー・カーマイケルに最後の挨拶をしに行くと、「スリム(マリーの愛称)、幸せかい?」と彼が彼女に聞く。「どう見える?」と彼女が言うと演奏が始まり、その演奏に合わせてローレン・バコールがお尻を振って体をくねらせながら、ハンフリー・ボガートの元へ来るのだ。そして連れだって去って行く二人。このローレン・バコールの楽しげで幸せそうな踊りの仕草が、最初のクールビューティーとのギャップもあって、なんとも魅力的でキュートなのだ。往年のハリウッド映画には、こういう粋でオシャレな魅力的な映画がある。
1944年製作/100分/アメリカ
原題または英題:To Have and Have Not
監督:ハワード・ホークス
製作:ハワード・ホークス
原作:アーネスト・ヘミングウェイ
脚本:ジュールス・ファースマン、ウィリアム・フォークナー
撮影:シド・ヒコックス
音楽:マックス・スタイナー
キャスト:ハンフリー・ボガート、ローレン・バコール、ウォルター・ブレナン、ホーギー・カーマイケル、アルド・ナディ、ドロレス・モラン、シェルダン・レナード、ウォルター・モルナー、マルセル・ダリオ、ウォルター・サンド、ダン・シーモア
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