『OLD JOY』(2006)でもルーシーという名の犬が出てきていい味を出していたが、この『ウェンディ&ルーシー』では、愛犬ルーシーはウェンディのまさになくてはならない旅の相棒である。
これはせつなく痛ましい映画である。ウェンディ(ミシェル・ウィリアムズ)はアラスカへと向かう旅の途中であり、オレゴンの町にいる。貨物列車がまず映し出され、森の中を犬を連れて歩くウェンディが描かれる。「ルーシー」と犬の名前を呼んで、棒を投げて犬に取ってこさせたりしている。森の林を横に移動撮影されていく。低く歌うウェンディのハミングの声が効果的。「ルーシー戻っておいで。どこへ行ったの?」という声が響き、タイトルが出る。ルーシーの不在が予告されているかのようだ。そして夜になって火が燃えている。ヒッピーのような若者たちが集っており、ウェンディはアラスカのことなどを一人の男から聞く。アラスカには缶詰工場の仕事があるらしい。翌朝、車で寝ていたところを警備員に起こされ、私有地だから移動させろと言われる。しかしウェンディのボロ車はエンジンがかからない。その朝からウェンディにはついていないことが次々と起こる。
ウェンディのメモ帳には、これまで車で移動した距離と残りのお金などが細かに記されている。いい加減な女性ではないようだが、お金がほとんどないらしい。犬のエサもなく、スーパーで万引きしようとするのだが、捕まってしまい警察に半日以上拘束されることになる。その間、スーパーの前に繋いでいたルーシーが、戻ってきてみるといなくなっている。ウェンディは必死になって相棒のルーシーを探す。壊れた車を修理工場に出し、保健所に探しに行く。最初に声をかけられた警備員の老人が親切にしてくれて、保健所からの連絡先に自分の電話番号を使えと言ってくれる。犬を探している貼り紙を町のあちこちに貼り、連絡を待つがなかなかルーシーは見つからない。姉夫婦の家に公衆電話から電話をかける場面もあるが、ウェンディの孤独ばかりが浮き上がる。捨てられた空き缶を拾って金に換えるホームレス同然のような暮らしをしているウェンディは、ホテルに泊まる金もなく野宿を続けて、ルーシーが見つかるのを待っている。すると、寝ているときに闇の中からホームレスの世の中を呪うような言葉が聞こえてくる。恐ろしくて泣きながらトイレに駆け込むウェンディ。
やっと保健所から連絡が入ったと警備員がやって来て、ルーシーはある人の家で飼われていることが分かる。グッドニュースだと警備員に伝えるウェンディ。警備員の老人は妻に内緒で、わずかな金をそっとウェンディに渡す。この映画で唯一、心温まる場面だ。見つかったルーシーとともにアラスカに向かおうと、修理工場に車を取りに行くと、ベルト交換だけではなくエンジンを交換して直さないともう走らないと告げらる。とても修理する金は払えないウェンディは車を手放さざるをえなくなる。そしてルーシーが飼われている家に行って、ルーシーと再会を果たすのだが、車で移動出来ない以上、犬を連れて旅は続けられない。庭もある家だし、良さそうな飼い主だから、お金を作って戻って来るわとルーシーに別れを告げ、ウェンディは一人貨物列車に乗り込むのだった。そして最初と同じように彼女のハミングが聞こえてくる。
ルーシーとの別れのシーンがせつない。最初の森の中と同じように、棒を投げてルーシーに取ってこさせる。賢いルーシーは、ウェンディに褒められて嬉しそうだ。それでも別れて去って行くウェンディ。ケリー・ライカートは、旅を描き続ける。旅こそ彼女の人生なのだろう。移動し続けないと、生きていけないようだ。だから『リバー・オブ・グラス』では、ひたすら退屈な町を抜け出すことを求めていたし、『OLD JOY』でも、ひととき森の中を彷徨うことは、ひとつの旅だった。そして『ウェンディ&ルーシー』もまた旅の途中で、足止めをされてしまった。車が壊れ、相棒としての犬を連れて行けなくなった。それでもウェンディは、一人で旅を続けるのだ。ウェンディを演じたミシェル・ウィリアムズの存在感が素晴らしい。
2008年製作/80分/アメリカ
原題または英題:Wendy and Lucy
配給:グッチーズ・フリースクール、シマフィルム
監督:ケリー・ライカート
製作:ニール・コップ、アニシュ・サビアーニ、ラリー・フェセンデン
製作総指揮:トッド・ヘインズ、フィル・モリソン、ジョシュア・ブラム
原案:ジョン・レイモンド
脚本:ジョン・レイモンド、ケリー・ライカート
撮影:サム・レビ
美術:ライアン・スミス
衣装:アマンダ・ニーダム
編集:ケリー・ライカート
キャスト:ミシェル・ウィリアムズ、ウォルター・ダルトン、ウィル・オールダム、ラリー・フェセンデン、ジョン・ロビンソン、ウィル・パットン
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(C)2008 Oscilloscope Laboratories.
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