男二人が森の中の静かな場所、ポートランドの外れ、温泉のあるところに行くだけの話だ。何も起きない。車で移動する森の風景ばかりが映し出される。しかし、この二人の間にはどこか緊張感がある。マーク(ダニエル・ロンドン)はもうすぐ父親になる男、旧友で自由に暮らしているカート(ウィル・オールドハム)から久しぶりに電話がある。温泉に行ってキャンプに行こうというお誘いだ。マークは妊娠中の妻(タニヤ・スミス)のターニャを誘うが、「キャンプなんてムリ」と断わられ、「私に許可を求めないで」と言われてしまう。マークとカートは、お互いの近況を話がら車で森の中の温泉地の目指す。マークの犬も一緒だ。しかし、なかなか目的地は見つからずに迷ってしまう。そして暗くなってきて、適当なところで一泊して明日また探そうということになる。「都会には木、森にはゴミ」、森の中でゴミが散乱ている場所で焚き火をたいて夜を過ごす。玩具の銃で空き缶を狙って遊ぶ二人。そしてカールがふと「マーク、寂しいよ。君がとても恋しい。君と友達でいたいのに、何か壁がある」と言い出す。カールはマークに思いを寄せているのだろう。その夜、同じテントで二人は寝るが、何か起きたかは何も描かれず、翌朝、ドライブインで道を聞いて朝食を取り、再び温泉地の目指す。マークの妻からは度々電話がかかってくる。
そして静かに湯が自然に湧き出ている森の中の温泉を見つけ、二人は裸になって入る。裸の男二人が、森の中で温泉に入っているだけ。たわいもない会話。するとカールが、湯につかっているマークの肩に手をかけ、マッサージを始める。一瞬、体をこわばらせるマークだったが、次第に力のゆるめ、マークの薬指に指輪がある左手が湯に静かに沈んでいく。映像はそれだけしか描かない。温泉のカットがいくつかあり、二人は服を着て帰路についている。そして車に乗り込んで、家まで戻ってくる。ただ、二人の会話はなく、どこかぎこちない空気が流れている。行きの車内とは明らかに違う空気。「壁がある」と言っていたカールだが、この旅で二人の間にまた再び壁が出来てしまったようだ。「また連絡するよ」とマークと別れたカール。最後は夜の町をぶらぶらと歩いているカールが映し出されて映画は終わる。
彷徨う男二人。一人は妻がいて子供も出来る男。もう一人は自由気ままにヒッピーのように生きている男。対照的な境遇の二人だが、どこか寂しさと孤独を抱えている。しゃべり続けるカールと聞いている時間が長いマーク。二人は森の中の静寂な温泉地を探して彷徨いつつ、ひととき体を触れ合い、そして別々のそれぞれの世界へと戻っていく。それだけの映画だ。「悲しみは使い古した喜びなのよ」とは、カールが夢で見た女性の言葉なのだが、歳を重ねてすれ違っていく二人のことを言い表しているのか?静かなギターの音楽と自然の音、鳥の声、川のせせらぎ、湯が流れる音、さらに移りゆく風景が映画の余白を膨らませる。
2006年製作/73分/アメリカ
原題または英題:Old Joy
配給:グッチーズ・フリースクール、シマフィルム
監督:ケリー・ライカート
製作:ジュリー・フィッシャー、ラース・クヌードセン、ニール・コップ、アニシュ・サビアーニ、ジェイ・バン・ホイ
製作総指揮:ジョシュア・ブルーム、トッド・ヘインズ、マイク・S・ライアン、ラジェン・サビアーニ
脚本:ケリー・ライカート、ジョナサン・レイモンド
撮影:ピーター・シレン
編集:ケリー・ライカート
音楽:ヨ・ラ・テンゴ、グレゴリー・“スモーキー”・ホーメル
キャスト:ダニエル・ロンドン、ウィル・オールドハム、タニヤ・スミス
☆☆☆3
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