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2025年05月30日21:04

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「召使」ジョセフ・ロージー〜関係が逆転する屋敷での不穏な企み〜

ジョセフ・ロージーはアメリカ出身の映画監督だが、赤狩りで1953年にイギリスに亡命し、以後イギリス、あるいはフランス等で作品を作り続けた。イギリス亡命後もアンドレア・フォルツァーノ、ヴィクター・ハンブリー、ジョセフ・ウォルトンという別の名前を使って仕事をしなければならなかったようだ。『ジョセフ・ロージー 4つの名前を持つ男』(中田秀夫・1998)というドキュメンタリーもあるらしい。私は『エヴァの匂い』(1962)ぐらいしか見ていないのだが、ジャンヌ・モローのファム・ファタールぶりが強烈だった。『できごと』(1967)、『恋』(1970)、『夕なぎ』(1968)、『パリの灯は遠く』(1976)、『鱒』(1982)など未見だが、ジョセフ・ロージーの見たい作品も多い。

この作品も奇妙な珍品である。関係が変転していく不穏な映画なのだ。貴族出身の裕福な青年トニー(ジェームズ・フォックス)のもとに紹介所からの斡旋で、バレット(ダーク・ボガード)という男が、召使いとして来るところから始まる。シルクハットにステッキと革手袋にスーツの男。これから改装する誰もいない空き家。椅子に座って寝ているトニーの足が扉の向こうに見える。バレットは優秀な召使として、家のリフォームを仕切って、壁の色や家具や絵などの配置まで決めていく。この家の中がほとんど映画の舞台となる。リフォーム前の何もない部屋で抱き合うトニーと婚約者のスーザン(ウェンディ・クレイグ)。思えばこの何もない部屋で抱き合ったときがいちばん二人は幸せだったのかもしれない・・・。

なんだか奇妙な感じで始まるこの召使の男は何者なのか。何を考えているのか分からないダーク・ボガードがいい。ご主人の前では優秀な働きぶりなのだが、見えないところでタバコを吸う不遜な態度。トニーの婚約者スーザンには違和感として感じるようになる。部屋に置かれてある円い鏡が何回も使われる。歪んだ鏡の映像。そこには歪んた人物関係が映し出されていく。そして外はたいてい雪か雨が降っている。外よりも家の中は居心地がいいはずであり、寒い雪の日には足を温めるため容器にお湯を用意するバレットの気配り。燃える暖炉の炎。しかしこの家の中の居心地のいいはずの空間が、次第に別のものに変質していくのだ。

バレットはスーザンが来て愛を交わす二人の邪魔をわざとするように部屋に入ってくる。二人の仲を引き裂くのが目的なのか。スーザンは花を飾ろうとするのだが、バレットはそれが気に入らない。バレットの不審さに気づいて「狙いはなに?」と問いただすスーザン。

そしてバレットが妹のヴェラ(サラ・マイルズ)を女中として雇って欲しいと言い出し、彼女が家に入り込んでからどんどん勝手なことをするようになる。ヴェラは主人がまだいるのにバスルームを勝手に使って肌を見せたり、トニーを誘惑するようにバレットが仕向けているのだ。トニーがいなくなってバスルームで水中メガネをつけてコロンをかけて二人がふざけ合うところから一気に悪巧みは加速していく。そして自分の恋人を主人に抱かせるバレットの倒錯ぶりの真意が次第に明らかになる。

やがてヴェラの企みどおり、婚約者のスーザンがいながらもすっかりヴェラに夢中になっていくトニー。あからさまな挑発と誘惑。あるとき、トニーは婚約者スーザンと雪の公園で遊んでいて深夜に自宅に戻ると、自分の部屋の明かりが点いていた。妹だと言っていたバレットとヴェラが自分のベッドを使って戯れていたのだ。これもバレットの意図的な企みに思える。階段から降りてくるバレットのシルエットの演出。怒ってすぐにバレットとヴェラを家から出て行かせたトニー。歌いながらはしゃいで出て行く二人。しかしバレットの不在はトニーにとっても痛手だった。トニーとバレットは男性同士の関係を持っていたのだ。ゴミが散乱し荒れていく部屋。バレットのいなくなったベッドに一人顔を押し付けて寂しさを表すトニー。バレットの部屋に貼ってある男性ポスターから、トニーとバレットの性癖が明らかになる。

店で偶然再会したかのようなバレットとトニー。お互いに視線を合わさないで、カウンターで花と衝立を挟んで語り合う店のシーンも面白い。「ヴェラは他の男のところに去って行きました」「私たちならうまくやっていけます」。ヴェラに関する作り話をするバレット。これも企みなのか。そして再び二人で暮らし始めるのだが、前のような主人と召使という主従関係ではもうなくなっている。友達のような関係になっており、バレットの言葉遣いも変わっている。階段でのボール投げ遊び、かくれんぼ。光と影の演出のなかでの奇妙な二人の遊戯。逆にバレットが主導権を握っていき、トニーは酒に溺れるようになる。貴族階級の主人という立場から堕ちていくトニー。最後はもうヴェラやスーザン、そのほかいろんな女たちも部屋に来てパーティーをしており、もうよくわからない事態になっている。酒浸りで精神的にもおかしくなっているトニーはもはや廃人のようだ。バレットはスーザンとキスをしているところをトニーに見せる。女たちに笑われるトニー。スーザンに叩かれるバレットだが、スーザンもトニーも心がズタズタになっていた。外の雪と走り出して泣き出すスーザン。床に崩れるトニー。これは召使からの上流階級への復讐なのか?

それぞれのカップルと主従関係が変わっていくところが面白い。ヴェラのエロティックな誘惑。スーザンを愛しながらも、その誘惑に溺れていくトニー。さらにトニーとバレットの男同士の関係。バレットは最初から婚約者のスーザンとの関係を壊し、貴族出身のトニーを痛めつけ、屋敷を自分の思い通りのものにしようとしていたのか。逆転する主従関係。主人は愛と階級を支配できなくなってしまうのだ。

風の強い寒い日に電話ボックスの外で待っている女たちに急き立てられて怒り出すバレット。トニーにスーザンがプレゼントを渡し、バレットのことを「胡散臭いわ」と言い出して店で言い合いになる場面、その店のまわりの知らない客たちの会話が描写される。二人だけを描かないで、物語とは関係のない客たちを描写する奇妙さ。広い庭のあるスーザンの実家のお屋敷でのポンチョをめぐる噛み合わない両親との会話。蛇口から落ちる水の音の異様さや突然鳴る電話の音。机の上で二人が抱き合ってカメラがパンをすると、その二人の絡み合う足が隣の部屋で見える演出・・・。この映画では、円い鏡を始め階段の光りと影など奇妙で不穏な演出がたくさんある。恐ろしく歪んだ感情が溢れている不気味な映画だ。


1963年製作/イギリス
原題または英題:The Servant
配給:東和=ATG

監督:ジョセフ・ロージー
脚本:ハロルド・ピンター
原作:ロビン・モーム
撮影:ダグラス・スローカム
音楽:ジョン・ダンクワース
キャスト:ダーク・ボガード、ジェームズ・フォックス、サラ・マイルズ、ウェンディ・クレイグ
☆☆☆☆☆5
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