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2025年05月19日13:09

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「エドワールとキャロリーヌ」ジャック・ベッケル〜ズレと同調、着替えることのドラマ〜

ジャックベッケル監督は、フィルム・ノワールの古典的名作『現金に手を出すな』(1954)と脱獄映画の傑作『穴』(1960)が有名なだけに、フィルム・ノワール的映画監督というイメージが強い。しかし、『エストラバード街』(1953)やこの『エドワールとキャロリーヌ』(1951)を見ると、恋愛コメディも描ける多彩な映画監督だと言うことが分かる。しかしハリウッド映画のような分かりやすいコメディではない。妙なリズムのズレのような食い違いから巻き起こる恋愛コメディなのである。

エドワール(ダニエル・ジェラン)とキャロリーヌ(アンヌ・ベルノン)という夫婦の物語である。ピアニストであるエドワールは、まだ音楽家として名が売れていないようだ。そこでエドワールを社交界に売り出すために、キャロリーヌの叔父がパーティーを計画する。そのパーティーに出席するために、花を買いに行き、着ていくドレスで揉め、タキシードのベストがないと言って支度で揉める他愛の無い夫婦喧嘩の物語だ。

薄暗い部屋で流麗なピアノを弾いているエドワールと、お風呂掃除をして鏡を眺め、部屋の電気をつけてイブニングドレスを出してパーティーの用意をするキャロリーヌ。エドワールはピアノを弾きながら視線で彼女の動きを追う。そして「花を買ってきて」と言われるのだ。ドレスにつける花が必要なのだと言われ、仕方なく買いに行こうとするくエドワールだが、所定の位置にあった彼の大事な辞書が反対向きに置かれているのを見て、キャロリーヌを咎める。「辞書なんか使ったことが無いわ」と言うキャロリーヌだが、辞書をドレスの試着のときの踏み台にしていたのをあとで観客は見る。キャロリーヌは階段までエドワールを見送ってキスを何度もした後で、足でエドワールを階段の上から下へと蹴って送り出すのだ。なんとも奇妙なカップルである。仲はいいのだろうが、パーティードレスや花にまったく興味の無い音楽家と、彼の音楽に関心を示さずパーティーの準備に夢中なキャロリーヌ。最初から二人はズレているのだ。

その二人のズレがだんだん大きくなっていく。ラジオから流れるラテンのテンポのいい音楽で機嫌良く準備をするキャロリーヌとひどい音楽だと言ってラジオをすぐに消すエドワール。タキシードのベストが見つからないエドワールとそれを探しているうちに一年前に黄ばんでいたから捨てたことを思い出すキャロリーヌ。父からもらってまだ数回しか着なかったエドワールの貧しかった生活レベルと、すぐ服を買える上流階級で育ったキャロリーヌの価値観は違うのだ。さらに大嫌いな従兄弟アランからキャロリーヌは電話でベストを借りる約束を取り付ける。この従兄弟のアランはキャロリーヌのことが好きなようで、エドワールの嫉妬も絡んでくる。この実家との電話のやり取りが何度も中断されるすれ違いや、アパートの部屋に管理人と甥がエドワールのピアノ演奏を聴きに来る邪魔が描かれ、映画全体のすれ違いやドタバタが増幅されていく。

さらに流行の雑誌を見てドレスの裾をカットしてしまったキャロリーヌを見て、その良さが分からなくて激怒するエドワールに至って喧嘩は決定的なものとなり、花瓶を投げるエドワールとメトロノームを投げようとして止められて自分の靴を投げるキャロリーヌ。音楽と美に関する価値観の違いが決定的になるのだ。激しくメトロノームが音を刻み、エドワールが彼女をビンタをしてしまうことで破局を迎える。一人、パーティー会場に向かうエドワール。

上流階級のパーティーにあって夫婦は形式的なもので、みんなそれぞれ別の男女へと視線を注ぎ、会話を楽しむ。この会場では部外者である若きエドワールは、着飾ったご婦人たちの熱い視線で迎えられる。そして従兄弟のアランに連れられて遅れてやって来たキャロリーヌに離婚をきりだされるのだ。平手打ちをしてしまった手前、離婚の申し出を仕方なく受け入れつつも、ピアノ演奏に集中できないエドワールは、途中で弾くのを止めてしまう。そして一人立ち去っていく。静まりかえったパーティー会場。しばしの沈黙の後で、客の一人が陽気なダンス音楽を弾き始め、みんなで盛り上がってララン、ラランとみんなでリズムを口ずさみ、ダンスが始まる。男女ペアで手をつないでフォークダンスのようなステップと腕を組んでの回転、みんなが同じ動きをする同調するリズム、その会場の盛り上がりが面白い。そのダンスの輪に入れないまま、会場を去って行くキャロリーヌ。エドワールに興味を持ったスペンサーという男だけが、踊らずに去って行くキャロリーヌを見つめる。

最後はアパートの部屋に戻ってきたエドワールとキャロリーヌ。離婚を決意した二人のよそよそしい空気が漂うのだが、なぜか二人のどちらも部屋から出て行かない。彼女のためにエドワールがピアノを弾き、キャロリーヌは新婚時代に着た薄手の部屋着に着替える。すると「君がとても欲しい」と言ってエドワールはキャロリーヌを追いかけ回すのだ。そんなとき、先ほど会ったスペンサーという男からコンサートの打診の話があり、二人は元の鞘に戻るというお話だ。

どうということはない話である。だけど、二人の価値観のズレと動きの演出が面白い。パーティー会場での視線や会話の同調。遅れてやって来たエドワールが会場の雰囲気を一時的に壊し、いなくなることでまたダンスで会場は同調する。その同調に入れないキャロリーヌもまた去り、部屋で二人はズレつつも、着替えることで二人の動きは一緒になっていく。いわば服装をめぐる二人の価値観の違いから発生した諍いは、着替えることでまた二人は一緒になっていくのだ。


1951年製作/85分/フランス
原題または英題:Edouard et Caroline

監督:ジャック・ベッケル
音楽:ジャン=ジャック・グルネンワル
キャスト:ダニエル・ジェラン、アンヌ・ベルノン、エリナ・ラブルデット、ベティ・ストックフェルド、ジャン・ガラン、ウィリアム・タッブス、ジャック・フランソワ
☆☆☆☆4
コピーライト 1951 - STUDIOCANAL

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