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2025年05月17日21:22

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『モンパルナスの灯』ジャック・ベッケル〜魅力的なジェラール・フィリップとアヌーク・エーメ〜

ジャック・ベッケル監督作品。ジャック・ベッケル(1906−1960)は1952年に『肉体の冠』を撮り、1953年に『エストラパラード街』、1954年フィルム・ノワールの古典的名作『現金に手を出すな』を制作し、ジャン・ギャバンをヴェネツィア国際映画祭男優賞に輝かせた。1958年にジェラール・フィリップを使って本作を作った。マックス・オフュルスが生前に企画していたものだそうだ。そして脱獄映画の傑作『穴』(1960年)が最後の作品となった。マック・オフュルス(1902−1957)とはドイツ出身でフランスやアメリカで活躍した映画監督で『忘れじの面影』(1948年)、『歴史は女で作られる』(1955年)などが有名。

瞳が描き込まれない虚ろな目、寂しげな表情、顔や首が長く、その独特の肖像画は誰もがすぐに分かる世界的に有名な画家モディリアーニ。だが生前は評価されず、絵もなかなか売れなかったようだ。生活は困窮し、もともと病弱だった上に酒浸りの日々。荒廃した生活の果てに35歳(1920年)で亡くなった夭逝の画家。そのモディリアーニの悲劇的な晩年を映画化した作品である。

モディリアーニを演じたジェラール・フィリップがいい。いつも酒に溺れながらタバコをくわえ、女を愛し、カフェでスケッチし、芸術に対する強い信念を感じさせる色気のある男である。そしてモディリアーニが画学生ジャンヌ(アヌーク・エーメ)と出会い恋に落ちる。アヌーク・エーメがとにかく美しい。アヌーク・エーメは『甘い生活』(60)、『8 1/2』(63)、『男と女』(66)などが有名。

冒頭はカフェでの似顔絵描きの場面から始まる。神妙な顔の客からカメラがパンをすると、親友の画商ズボロフスキー(ジェラール・セティ)と似顔絵を描いているモディリアーニ(ジェラール・フィリップ)がいる。そしてカフェのガラスの向こうの席にその似顔絵を覗き込む男・画商のモレル(リノ・バンチュラ)が映し出される。似顔絵は客に「いらない」と言われる。このリノ・バンチュラ演じる男が最後に「死神」のように彼につきまとう。モディリアーニが愛するジャンヌのためにカフェでスケッチを売り歩くのだが、ちっとも売れない。それをずっと見つめ、フラフラと夜の町を歩く彼の後をつけて、最後はモディリアーニが道ばたで倒れるのを見届けるのだ。まさに「死神」だ。この夜の霧にかすんだ町と小さな街灯の光が印象的な映像として演出されている。おそらくセットだろう。そのわずかな光と霧にかすむ闇の中をトボトボと歩くモディリアーニとその後を杖を片手に持ちながら追うモレル。不気味な演出だ。

画商のモレルはモディリアーニが初めての個展をやったときに最初のシーン以降に再び登場する。賑わっている初日に顔を出して、「明日、客がいなくなったらまた来る」と不吉なことを言って帰って行く。そしてウィンドウに飾ってあった裸婦像が「猥褻だ」と警察に撤去を命じられた後、客のいなくなった個展にまたやって来るのだ。そして画商のズボロスキーに、「生きている間は売れんよ」「運がない」と言い、彼の絵の良さを認めながらも、死んでから「全部買う」と言い放っていたのだ。まさにモディリアーニが死ぬのを待っていたような男。彼の死を病院で見届けた後に、画商のモレルは彼の帰りを待つジャンヌのところへ行き、モディリアーニの絵をすべて買い求める姿で映画は終わる。死神に取り憑かれ、モディリアーニ自身もいつも死を意識していたようだ。絵が売れた金を夜のセーヌ川に投げる自暴自棄のモディリアーニとジャンヌとのやり取りは美しくもあり、死の気配に満ちていた。ジャンヌはモディリアーニのすべてを分かった上で愛している。その芯の強い美しい姿が描かれる。

画商ズボロスキーに「絵が売れるかもしれない」とアメリカ人の金持ちがいるホテルに行くシーンも皮肉を込めて描かれる。帰り支度をする慌ただしさの中で、金持ちのアメリカ人は買い求めたスザンヌの絵を自慢し、モディリアーニの絵の良さを認めつつ、「化粧品の商標」にして売りたいと提案する。モディリアーニは、「トイレにもそのデザインが使われるのか?」と聞き、嫌気がさしてその場を去る。風景画ではなく人間の肖像画を描く理由を、「教会にはないものが人間にはある」と言い、ゴッホの苦悩を語りつつ、「絵は苦悩から生まれる」と言う場面が印象的だった。アパートの階段が何度も出てきて、絵が売れなくてジャンヌとともに二人で昇る重い足取りなども印象に残った。二人が出会った頃の階段を駆け上がるモディリアーニの軽やかな足取りと対照的だ。美しい俳優たちの姿とモノクロ映像が魅力的な映画だ。


1958年製作/108分/フランス
原題または英題:Les amants de Montparnasse (Montparnasse 19)
配給:セテラ・インターナショナル

監督:ジャック・ベッケル
原作:ミシェル・ジョルジュ・ミシェル
脚本:ジャック・ベッケル、アンリ・ジャンソン、マックス・オフュルス
撮影:クリスチャン・マトラ
美術:ジャン・ドーボンヌ
音楽:ポール・ミスラキ
キャスト:ジェラール・フィリップ、アヌーク・エーメ、リノ・バンチュラ、リリー・パルマー、リラ・ケドロバ、アントワーヌ・チュダル、ジェラール・セティ、レア・パドバニ
☆☆☆☆4
(C)1958 Gaumont - Astra Cinematografica - Continental Film GmBh
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