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2025年05月15日20:24

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「卍(まんじ)」(1964)増村保造〜過剰な演技と騙し合いの愛の虚実〜

増村保造×若尾文子コンビの大映作品20作のうちの1本ということで見た。禁断のエロス、倒錯的な世界(現代では倒錯でも何でもないが)を最初の美術学校以外はほぼ全編、密室的な空間で繰り広げられる。岸田今日子の「みっちゃん」、若尾文子の「ねぇちゃん」と何度も呼びかけ求め合い、何度も裏切られたと怒り「殺してやる」だの、悲嘆にくれて涙する過剰な二人の演技によって展開される常軌を逸した世界。カルト的な作品とも言える珍作・奇作である。

女性二人の禁断の愛の世界に、二人の男も絡んでくるまさに「卍」のような物語。谷崎潤一郎の原作は未読だが、欲望と嫉妬がすさまじい。若尾文子の妖しげな魔女ぶりが全開。笑顔がなんとも艶めかしいのだ。若尾文子の異様さは、増村保造監督の戦場での倒錯的な愛を描いた『赤い天使』でも凄かったが、この作品はひたすら密室的な性の欲望と嫉妬の世界に終始し、最後は二人の男女を支配する観音様にまでなってしまうのだから、なんとも言葉がない。そして岸田今日子が先生と呼ぶ男(三津田健)に語りかける場面で始まる本作では、男は一言も言葉を発しないが、作家の谷崎潤一郎的な役割なのであろう。この物語はどこまでが本当なのかもよくわからない。嘘と現実が入り混じったような、愛と狂気の幻想の物語なのだ。

若く美しい岸田今日子がひたむきに若尾文子を愛し続けるところも見どころである。最初に若尾文子が恥じらって肌を見せないときに、シーツを剝ぎ取る場面がまたすさまじい。最初から女の愛の狂気がにじみ出ている。さらに若尾文子の彼氏である川津祐介がまた変な男なのだ。証書を書いて若尾文子をどちらも独占しないように二人の関係を縛ろうとし、岸田今日子と自分の二人の腕をナイフで切ってお互いの血を舐め、血判状を押して証書を作るのだから、これまた狂気の沙汰。社会に認められていない女性同士の愛の世界だからこそ二人は「死ぬ」ことを何度も口走る。さらに男の策略も絡んで、騙し合いや嫉妬による疑いが膨らんでいく。そもそも「同性愛の噂」を立てたのも若尾文子が結婚から逃れるための策略であったし、「着物を盗まれた」のも岸田今日子の愛を諦めさせるための川津祐介の策略だった。「妊娠してる」のも嘘だし、血糊を使って苦しみでのたうち回るのも若尾文子の狂言だ。過剰に演じることが当たり前になり、何が本当なのか、何が演技(狂言)なのかもよく分からなくなる。そして赤い紙に白い粉を包んで、二人で睡眠薬を飲むシーンが繰り返される。死もまた本気なのか策略による狂言なのか・・・。岸田今日子と若尾文子が心中と見せかけて睡眠薬を飲んだと思ったら、今度は岸田今日子の夫の船越英二が二人の間に介入してくる。岸田今日子がまだ薬で意識が朦朧としているときに、船越英二は若尾文子と関係を持ってしまうのだ。これも意図的なのか偶然なのか。夫婦である岸田今日子と船越英二が、ともに一人の女・若尾文子に魅せられ奪い合うという奇妙な構図が生まれ、さらにお互いの疑念と妄想が膨らみ、次第に若尾文子に二人は操られるようになっていく異様な展開。若尾文子から二人が薬を飲まされる行為が繰り返される。もう宗教の教祖(観音様)と二人の愛の信者のようである。

なんともヘンな映画である。「みっちゃん」「ねぇちゃん」と二人で呼び合う回数は数えきれないほど。手紙をかわし、愛をかわし、電話で話し、嫉妬が絡むとさらに愛と独占欲が募って、妄想と裏切りと策略が渦巻く。最後に生き残った岸田今日子だが、二人が天国で結ばれたかと思うと、自分だけ置き去りにされた嫉妬を持ちづづける。妄想に終わりはない。愛と独占欲と嫉妬が男女関係入り乱れて狂気のように生死を賭けた形で描かれるのだ。その後、この「卍」は何度も映画化されており、性と死、官能と破滅が描かれたこの原作に多くの人が魅せられるのだろう。なかでも1964年に作られた本作の異様さは、まだ時代が追い付いていないというだけでなく、二人の女優の存在感とこの過剰な演出によって特別な作品になっているように思う。


1964年製作/90分/日本
原題または英題:Manji/All Mixed-up
配給:大映

監督:増村保造
脚色:新藤兼人
原作:谷崎潤一郎
企画:斎藤米二郎
撮影:小林節雄
美術:下河原友雄
音楽:山内正
録音:須田武雄
照明:泉正蔵
編集:中静達治
キャスト:若尾文子、岸田今日子、川津祐介、船越英二、山茶花究、村田扶実子、南雲鏡子、響令子、三津田健
コピーライトKADOKAWA1964
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