mixiユーザー(id:3912568)

2025年05月03日18:55

57 view

「カップルズ」エドワード・ヤン〜交換可能な反復されるゲームからの脱出〜

ずっと観たいと思っていたエドワード・ヤンの『カップルズ』(4Kレストア版)をやっと劇場で観ることが出来た。オムニバス映画『光陰的故事』(1982)でデビューしたエドワード・ヤンは、『海辺の一日』(1984)、『台北ストーリー』(1985)、『恐怖分子』(1986)、『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(1991)、『エドワード・ヤンの恋愛時代』(1994)、そしてこの『カップルズ』(1996)、遺作が『ヤンヤン 夏の思い出』(2000)である。たった7本の長編しかないのだ。

オープニング、多額の借金を抱えた富豪の失踪とその行方を追うために富豪の息子を探すヤクザたちのことが字幕で表示され、バイクで軽トラを追いかけるチンピラ男が映し出される。スマホでボスと話しながら軽トラのことを報告する男。軽トラの荷台に乗る2人の男がいなくなり、バイク男は息子が乗っていると思われる軽トラを追い続ける。そして軽トラは路上に駐車してあるピンクのベンツに突然激突する。バイク男も車の凹んだ傷を見て呆気にとられる。映画はこの追跡するバイク男の視点で始まるのだが、突然の激突で息子捜しの視点はあっさり宙づりにされる。派手な内装と大音量の音楽の店ハードロックカフェで、人気美容師ジェイが、ホンコンという名前の美男子を伴い、様々な国籍の客と談笑している。そこへやって来たレッドフィッシュ(タン・シャンシェン)とルンルン(クー・ユールン)が、知り合いの占い師のお告げ「交通事故に気をつけろ」とジェイに伝える。先ほどぶつけられたピンクの車の持ち主がジェイであり、軽トラでぶつけたのは彼ら二人だった。詐欺である。バイク男からピンクのベンツ、美容師のジェイへと視点がズラされ、ジェイがその富豪の息子かと思ったら、さらに二人組のレッド・フィッシュとルンルン、ホンコンと続々と人物が出てくる。そしてキャバレーを経営しながら女の子たちの売春斡旋をしているアメリカ人女性、イギリスから逃げてきたデザイナーと金持ちの台湾人の恋人アリスンが店に現れ、二人はキスをする。「キスは不吉だ」と誰かが言い、さらにそのイギリス人男性マーカスをパリから追いかけてきた女の子マルト(ビルジニー・ルドワイヤン)も登場する。まさに多国籍な人物たちが交錯する台北の夜。イギリス人のマーカスが店の外でマルトと揉めている間に、フランス人の女の子が訪ねてきたことが面白くないアリスンの前の席に、ホンコンが座る。酔ったジェイは、ルンルンのことをホンコンと間違える。こんな風に書いたところで、よく分からないだろう。人は次々と入れ替わり、国籍も言葉も入り乱れる。英語、フランス語、中国語、台湾語。カオスの夜の街・台北。

大富豪の息子で4人組チンピラグループを率いているのがレッドフィッシュ。坊主頭のインチキ占い師リトルブッダことトゥースペイスト、さらに色男のホンコンと通訳兼運転手であるルンルンの4人はあるアパートをアジトにしており、昨夜ホンコンと店で一緒になったアリスンは一夜をともにしたようだ。イチャつく二人だったが、メンバーの女は仲間と共有するのが俺たちグループのルールなのだとリトルブッダが言い出す。イヤがるアリスンだったが、ホンコンを愛しているなら彼の仲間も大事にしろと説得するレッドフィッシュ。この女と揉めながらそれぞれの部屋を出入りする演出が面白い。そして真っ先に女と関係を持つことになったリトルブッダだが、「この女、キスしやがった。キスは不吉なんだ」と部屋から飛び出してくるのだ。「キスが不吉である」というルールのもとに、仲間で女を回すゲーム。

チンピラ4人組は、金持ちの男が女のために与えた殺風景なビルのマンションの部屋に色男のホンコンを送り込み、いい仲になったところで、リトルブッダにイカサマ占いをさせて交通事故を予言させる。そしてルンルンが女の車にぶつけてその占いが当たると信じさせるといった詐欺を繰り返している。まさにゲームのように。ところが、ルンルンの軽トラのエンジンがかからない。女が部屋から出てきて車に乗ろうとするのに、まだ事故を起こしていない。慌ててルンルンはトラックの前に飛び出し、無理矢理に事故を起こして女の車に追突させる。ゲームのように繰り返されていた詐欺は、そんな風に少しずつ綻びが見え始める。

ホンコンは女の部屋に呼び出され、女の友達2人も一緒の部屋でホンコンをもてあそぼうとする。無理矢理に食べ物を口に突っ込むホンコンだったが、吐いてしまう。自分たちが女にしてきた同じことを、自分が女たちにされて、吐き、泣き叫ぶのだ。そして、まだこのグループに入ったばかりのルンルンは、レッドフィッシュがフランス女性のマルトを利用しようとするのを邪魔する。マルトを店で一目見たときから「特別な存在」と感じていたルンルンは、彼女を売春斡旋のアメリカ女性に引き渡すのを拒否し、自分の部屋に匿うのだ。しかし今度はルンルンが、大富豪の息子と間違われ、ヤクザものたちにマルトと一緒に銃を突きつけられて捕まってしまう。さらに逃げていたレッドフィッシュの父親が現れ、かつて尊敬していた悪党の父親とは様子が違っていた。

この世は「バカか悪党しかいない」。人を騙して金を儲ける。そんな悪党として成功した父親の影を追いかけてきたレッドフィッシュだったが、父親はもうそんな騙し合いの競争社会から降りてしまっていた。母親が言うように父親が女のために事業を失敗したのかはよく分からないが、レッドフィッシュはそんな父親の復讐をしようとしていたのだろう。しかし、父親を騙したと思われていた女は同じ名前の別人だった。父は教師の女と秘かに自殺していた。そしてレッドフィッシュは人を騙して金儲け話をまくし立てる男を殺す。それは父親を殺すことでもあり、自分自身を殺すことでもあった。悪党が悪党を殺す。そして「バカ」のように女を信じて匿ったルンルンのもとに、再び女は戻ってくる。レッドフィッシュの殺しの銃声にイギリス人マーカスの笑い声が被さり、台湾でも帝国主義が繰り返されるのだと彼は高笑いをする。しかしマルトは彼のもとを去る。ルンルンも新たなリーダーだと名乗るリトルブッダのもとを去り、街へ駆け出す。家の1階で麻雀をやっていた父が、マルトが訪ねて来ていたことを伝える。ラストの台北の雑踏でのルンルンとマルトの奇跡のようなキスは未来への希望だろうか。「キスは不吉」という反復のゲームから二人は新たな未来を切り拓けるのだろうか?

『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』の3人の少年が5年後の本作で成長した姿を見せている。小四(シャオスー)を演じたチャン・チェンは、本作では色男のホンコンを演じている。ボーイ・ソプラノの美しい歌声を披露していた王茂/小猫王(ワンマオ/リトル・プレスリー)のワン・チーザンは、本作ではリトル・ブッダの愛称でインチキ占いをやっていた饒舌なトゥースペイストである。そして小公園グループの飛機(フェイジー)のクー・ユールンが本作のルンルンである。『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』の少年たちのその後、そして変わりつつある台北の街で、交換可能な反復されるゲームから彼らは抜け出せたのだろうか?


1996年製作/120分/PG12/台湾
原題または英題:麻將 Mahjong
配給:ビターズ・エンド

監督・脚本:エドワード・ヤン
製作:ユー・ウェイエン
製作総指揮:デビッド・サン
撮影:リ・イジュ リー・ロンユー
美術:ユー・ウェイエン
編集:チェン・ポーウェン
キャスト:クー・ユールン、ビルジニー・ルドワイヤン、チャン・チェン、タン・シャンシェン、ワン・チーザン

コピーライト Kailidoscope Pictures

0 7

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2025年05月>
日 月 火 水 木 金 土
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031