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2025年04月29日11:16

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「おかあさん」成瀬巳喜男〜いずれ離れていく家族の温もり〜

香川京子が中学を出たばかりの長女役で家族を紹介するナレーションで始まる。少し幼い感じもするが、パン屋の息子の岡田英次との恋も描かれ、舌を出したりして明るい茶目っ気のある女の子を演じている。最後は叔母さんの中北千枝子の髪結いのモデルとして花嫁衣装を着るシーン(写真)がある。その姿を見て本当の嫁入りかと岡田英次が早とちりする場面では、18歳という設定だ。

戦後の貧しい長屋の家族が描かれる。母が田中絹代。父の三島雅夫は、工場の門番をやりながらかつて働いていたクリーニング屋を始めようと準備をしていたところが、無理がたたって病気となり、入院する金も工面できずに亡くなってしまう。クリーニング屋は、父親の友人だった加藤大介が手伝うようになる。長男も病気で亡くなっており、長女の香川京子、まだ幼い次女とオネショばかりしている叔母さんの男の子を預かって暮らしている。田中絹代の露天商の仲間として沢村貞子が珍しくやさしい友達として差し入れを持ってきたりする。

父のことが大好きだった香川京子は、父が醤油で炒った豆を食べているポリポリという音を聞くのが大好きだった。それと同じものを加東大介が食べていると、嫌な感じがする。岡田英次に「お母さんは庄吉さん(加東大介)と一緒になるんじゃないか?」と言われると、不機嫌になる。母を取られるような気がする幼さがまだあるのだ。友達が行っている洋裁学校に通いたい香川京子だが、生活が厳しくてままならない。クリーニングの仕事で失敗してお客に怒られると、加東大介がいるとなんとかごまかせるのだが、母が一人だと女性はなめられ、客に怒られっぱなし。子育ても家事も仕事も頑張る母の苦労が描かれる。そして、次女を親戚に養女として出すとこになり、家族のためにそれを仕方なく受け入れる次女の哀しみ、次女を行かせたくない長女の哀しみ、母のせつなさなどが描かれていく。次女の描いた「母の似顔絵」なども効果的に使われる。最後の家族みんなで行く遊園地のシーンがいい。母は食事が喉を通らなくて、チャーハンを子どもたちにあげる。

この映画でもチンドン屋や紙芝居屋の太鼓や豆腐屋のラッパなど街頭の音が成瀬巳喜男らしくいろいろと使われている。また町内会の演芸大会で歌を歌う場面もある。香川京子が「花嫁人形」の歌を歌い、次女が着物を着て踊るのだ。家族から離れる哀しみを歌ったこの歌のように、次女が家族から離れ、長女の香川京子の花嫁衣装姿を見て、いつかは離れていく娘を思い、母は寂しさを感じるのであった。ちなみに岡田英次は「サンタ・ルチア」を歌い、「母もまた女性として自由だ」といったような進歩的なことを言う役回りだ。父が食べる豆の音、背の低い母が掃く小さな箒など、細部に家族の温もりが宿る。貧しいながらも、慎ましく愛情豊かに暮らす家族がほのぼのと描かれている。

成瀬巳喜男映画は、これで観賞18本目になる。成瀬巳喜男は生涯で(1905-1969)に89本の映画を制作したというから、まだ半分も見ていない。成瀬作品はほとんどハズレがないといっていい。それぐらいどの作品も充実しているし面白い。まだまだ見続けていきたい。

・妻よ薔薇のやうに(1935)
・歌行燈(1943)
・めし(1951)
・おかあさん(1952)
・あにいもうと(1953)
・山の音(1954)
・晩菊(1954)
・浮き雲(1955)
・流れる(1956)
・驟雨(1956)
・あらくれ(1957)
・女が階段を上がる時(1960)
・娘・妻・母(1960)
・秋立ちぬ(1960)
・女の座(1962)
・放浪記(1962)
・乱れる(1964)
・乱れ雲(1967)


1952年製作/100分/日本
配給:新東宝

監督:成瀬巳喜男
製作:永島一朗
脚本:水木洋子
撮影:鈴木博
照明:佐藤快哉
録音:中井喜八郎
美術:加藤雅俊
編集:笠間秀敏
音楽:斎藤一郎
キャスト:田中絹代、三島雅夫、片山明彦、香川京子、加東大介、中北千枝子、沢村貞子
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