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2025年04月21日22:49

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「麻希のいる世界」塩田明彦〜シンクロする動きと反復とすれ違い〜

塩田明彦監督は、少年少女を撮らせると上手い。『月光の囁き』(1999)、宮崎あおいが初々しい『害虫』(2002)などの初期の塩田映画は大好きだったが、最近また少女たちを扱った『さよなら くちびる』(2019)を撮り、それがとても良かった。やはりこの監督は、まだ大人になりきらない少年少女たちを描くのが得意なのだろうと思う。

『さよならくちびる』で新谷ゆづみと日�睨穃襪暴于颪辰娠�田監督が、2人を想定して執筆したオリジナル脚本をもとに撮りあげた作品だそうだ。冒頭の海辺の小屋、青野由希(新谷ゆづみ)の足下と振り返る姿を描きながら、小屋から出てくる男が扉を開けるギーという不吉な音が印象的に聞こえてくる。そして同じギーという音とともに出てきた女の子、同級生の牧野麻希(日�睨穃襦砲般椶�合う。誰もいない校庭のベンチが何度も使われる。お昼の時間に麻希がメロンパンを食べ、由希が弁当を食べる少し離れたベンチ。それは麻希がわざとアルバイト先のボウリング場のロッカーの鍵を落とし、由希に拾わせるベンチでもある。初めて二人の気持ちが重なり合い、ロッカーの前でお互い「牧野麻希」「青野由希」と名前を連呼する場面がいい。冒頭から台詞があまりなかっただけに、この名前の連呼は効く。さらに2人が学校から自転車に乗る動きがシンクロすることで、2人の同調する気持ちが表現される。海辺の小屋には入らずに、二人で砂浜に寝転んで空に突き出される二人の手。冒頭に出てきた小屋の中は一切描かれない。小屋の中の二人の会話の声だけが聞こえ、由希が「私は麻希が大好き」と叫びながらスマホで撮影して小屋から海辺へ出てくる場面、描かれない小屋の中は不吉で忌まわしい場所なのだ。そしてあまりにも美しい海辺の夕陽がその場面で使われる。

麻希がボウリング場で男たちに誘われ車に乗り込み、由希が一緒について行く場面がある。ここでも暗い海辺の闇と車が映し出されるばかりで、そこで行なわれたであろう忌まわしいことは一切描かれない。おそらく由希が傷ついたであろうことは闇のままで、映像にはされない。そのことが余計に見ている側を暗い気持ちにさせる。これは由希が一人になった時も繰り返される。それでも由希は大好きな麻希のために曲作りに必死になる。軽音楽部に麻希の手を引っ張って強引に連れて行き、麻希のために必死で叫ぶ。しかし、軽音楽部の対決ライブでは麻希は姿を見せず、由希は一人でみんなの晒し者になってしまう。その場面も一部分しか描かれない。自分の知らない録音の前日に麻希が祐介(窪塚愛流)の家に来ていたこと、さらに麻希は祐介の父(井浦新)と祐介が家に帰る前に一緒にいたことを知る。麻希のそんな振る舞いが由希を傷つける。自分に向けられた身体的な暴力よりも、麻希の自分の知らないところでの軽はずみな行為に由希は傷つく。それを直接的に描かなくても、由希の心の痛いような哀しみが伝わってくる。

祐介は由希のことが片思いで「絶対自分を好きにさせてみせる」と言い、由希は麻希のことが好きで、麻希が記憶喪失になっても「大丈夫。絶対会える。」と確信している。その確信はどこから来ているのだろうか?一方的な思い。由希は難病を抱え、病院に入院していた頃の友人たちが次々と死んでいったことを聞く。だから生きている証を残したいという強い思いがある。それは由希にとっては、麻希の存在だった。歌の才能を持っている麻希の夢を叶えさせること、それだけが由希の生きている証になると彼女は信じている。しかし声を失い、盗んだ自転車で麻希に会いに行った由希だが、由希の気持ちは麻希には届かない。麻希は相変わらず男関係で揉めており、かつてシンクロしていた二人の自転車はすれ違って遠ざかっていくばかりだった。

新谷ゆづみの強い眼差しが印象に残る。麻希のことを真っ直ぐに見つめる眼差し。そして何度も気を失う。無防備な眠る姿。その激しい生と昏睡が繰り返されることで、彼女は生き直す。そして女性的な魅力を振りまきながら人生に投げやりで、歌うときだけは強い意志を感じる日�睨穃襦�その二人のシンクロとすれ違い。祐介役の窪塚愛流は、先日のTBSドラマ『御上先生』でも出演しており、存在感を発揮していたと思ったら、窪塚洋介の息子なんだってね。塩田明彦監督にはこういう青春の痛みのような映画を作り続けて欲しいと思います。


2022年製作/89分/日本
配給:シマフィルム

監督・脚本:塩田明彦
製作総指揮:志摩敏樹、山口貴義
プロデューサー:大日方教史、田中誠一
撮影:中瀬慧
美術:井上心平
照明:福島拓矢
録音:松野泉
装飾:遠藤善人
編集:佐藤崇
音楽プロデューサー:田井モトヨシ
音楽:鈴木俊介
劇中歌(作詞・作曲):向井秀徳
キャスト:新谷ゆづみ、日�睨穃襦�窪塚愛流、鎌田らい樹、八木優希、大橋律、松浦祐也、青山倫子、井浦新
☆☆☆☆4

画像(C)SHIMAFILMS
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