マイミクのnaoさんオススメの映画だ。
ロバート・ミッチャム演じるニセ伝道師ハリー・パウエルの不気味な怪しさが強烈に印象に残る映画だ。端整な顔立ちと美しい歌声で女たちを次々と籠絡し、愛と信用を勝ち取り、少年と少女を追いかけ回す影のような怖さは忘れがたい。伝道師のスーツと黒いつばのある帽子。両手の指にはLOVEとHATEの文字。話術巧みに両手の愛と憎しみを操りながら人を信用させる。後半で、子どもたちを守るリリアン・ギッシュが夜通し鉄砲を持って見張っていると、外からはロバート・ミッチャムの賛美歌の歌声が聞こえてくる。その歌声に重ねるようにリリアン・ギッシュもまた賛美歌を歌い出す。悪と善、敵と味方、外と中とで対峙する2人が、賛美歌の歌声で重なり合うシーンには驚かされた。そして持ってきた蝋燭の光によって外が見えなくなり、火を消すとロバート・ミッチャムの姿が消えている演出の見事さ。
『ノートルダムの傴僂男』『戦艦バウンティ号の叛乱』『情婦』などの個性派イギリス人俳優チャールズ・ロートンが唯一手がけた映画。初公開当時にさんざんな不評を買い、全米各地で公開禁止にもなったという“呪われた映画”だと言う。のちにフランソワ・トリュフォーらの一部の批評家やスティーヴン・キングらによって熱烈に再評価され、1990年になってようやく日本でも公開された曰く付きの映画だ。
白黒映像が影絵のように美しい。特に後半の子どもたちが川をボートで下って逃げるシーン。満天の星空と月。そして岸辺をシルエットで馬に乗って帽子を被った男が追いかけてくる。馬小屋の2階の藁の上で寝ていた子どもたちが、その男の影を発見してまたボートに乗って逃げる。下手から上手へ。川上から川下へと逃げてきた子どもたちは、レイチェル・クーパー(リリアン・ギッシュ)に見つかり、ムチで追い立てられながら今度は上手から下手へと移動する。明らかに子どもたちの人生が変わったことを逆方向の動きで演出している。
ニセ伝道師ハリー・パウエル(ロバート・ミッチャム)は悪魔のような男で、未亡人を騙して殺し、金品を奪ってきた。今までに何人殺したか分からないと呟く。女性の性的なものへの嫌悪感も持っている。そんな男が刑務所の中で、一人の男が金を奪って家に1万ドルを隠していることを知る。男は兄と妹の二人の幼い子どもたちに、「金の隠し場所は誰にも言うな」と誓わせていた。その男が処刑になって、刑務所から出てきたパウエルは、ウェスト・ヴァージニア州の田舎町に暮らす男の未亡人を訪ね、信用させて結婚してその家に入り込む。そして子どもたちから金の隠し場所を聞き出そうとするのだ。さらに妻となったその女も殺し、子どもたちを脅迫して追い詰めていく。この殺しの場面の寝室の三角の形をした天井、光と影の演出、そして神に召されるような妻の姿など印象的に撮られている。
また、車に縛り付けられて川の底に沈んだ妻のウィラ(シェリー・ウインターズ)の髪が水草のように揺れて発見されるシーンの死体の幻想的な美しさも忘れられない。子どもたちはボートで川を下って逃げていくと、レイチェル・クーパー(リリアン・ギッシュ)に保護され一緒に生活するようになる。ミス・クーバーは3人の女の子も保護して生活しており、ハリー・パウエル(ロバート・ミッチャム)が子どもたちの父親だと言って近づいてくると、子どもたちの反応から不審に思って警察に通報する。兄であるジョン(ビリー・チャピン)は警察に連れて行かれるパウエルを見て、警察にかつて連れて行かれた父親のベン(ピーター・グレイヴス)の姿と重ねるのだった。
悪役のハリー・パウエルに対して、ジョンの母親のウィラも近所のスプーン夫人も、妹のパール(サリー・ジェーン・ブルース)も、ミス・クーパーのところにいた一番年上の女の子も、、みんな女性たちはパウエルという男に惹かれてしまうのだ。ところがそのパウエルが、聖職者の皮を被った人殺しの極悪人だと分かると、町の人々がパウエルを「処刑しろ!」と騒ぎ出す。町の人々は暴徒と化すのだ。そのへんの描き方も人間の裏表の怖さが表現されていて面白い。賛美歌を善と悪が重なり合って歌うように、人間の愛と憎しみも重なりあうのだ。ミス・クーパーはそんな暴徒化した町の人々から、子どもたち5人を連れて家へと急ぐ。右から左へ、上手から下手へ。まるで子ガモを連れて歩くカモの行列のようだ。クーパー夫人が子どもたちと一緒に歩く方向はいつも右から左なのだ。そして子どもたちへ渡すクリスマスプレゼントと、雪が舞う家のショットで映画は終わる。悪魔から逃げ続けた移動の旅が終わり、安心して愛を享受できる居場所こそが大事なのだ。
G・W・グリフィスの無声映画で有名な大女優リリアン・ギッシュが子どもたちを悪魔から守る強き母親を演じている。
1955年製作/アメリカ
原題または英題:The Night of the Hunter
配給:ケイブルホーグ
監督:チャールズ・ロートン
脚本:ジェームズ・アギー
原作:デイビス・グラブ
製作:ポール・グレゴリー
撮影:スタンリー・コルテス
音楽:ウォルター・シューマン
キャスト:ロバート・ミッチャム、シェリー・ウィンタース、リリアン・ギッシュ、イブリン・バーデン、ピーター・D・グレイブス、ビリー・チャピン、サリー・ジェーン・ブルース
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