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2025年02月19日15:30

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「ゲームの規則」ジャン・ルノワール〜映画史に残る傑作、恋のから騒ぎ〜

画像Copyright 1939, Les Grands Films Classiques

ジャン・ルノワールの映画史に残る傑作だ。以前にもレビューは書いているが、映画館で4Kデジタルリマスター版を上映するのだから観ないわけにはゆかぬ。あらためてレビューを書く。アルフレッド・ド・ミュッセの戯曲「マリアンヌの気まぐれ」から着想を得て、ある侯爵の別荘に集う人々が繰り広げる騒動を描いた作品。第二次世界大戦前夜、上流階級の恋のから騒ぎを描いた本作は、不謹慎、不道徳きわまりないとして公開禁止になったという。屋敷でのドタバタ騒動の描写は何度観てもとにかく最高だし、ジャン・ルノワールが自ら演じた「負け犬の寄生虫だ」と語るオクターヴの人生の哀しさにも今回は観ていて感じるものがあった。

最初は夜の空港にマスコミが押し寄せる場面から始まる。大西洋を23時間で横断するという偉業を成し遂げた飛行士アンドレ・ジュリユー(ローラン・トゥータン)を多くの人々が出迎える。飛行士はインタビューで「私は愛する女性のために飛んだのに、彼女は迎えに来てもくれなかった。とても悲しい」と語り、ショックを受ける。英雄という役割を演じられず、愛に命を賭ける世間知らずの夢想家アンドレ。彼が思いを寄せる女性の名はクリスティーヌ(ノラ・グレゴール)。ラ・シュネイ侯爵(マルセル・ダリオ)夫人だ。オーストリア出身でフランスにやって来た外国人。いろんな男性に愛想よく接して誤解される女性だ。アンドレは失望のあまり車で事故を起こす。アンドレの友人であり、クリスティーヌを小さい頃から知っていて兄のように接してきたオクターヴ(ジャン・ルノワール)が、二人の間を仲直りさせようと、ラ・シュネイ侯爵の領地コリニエールでの狩猟の集いにアンドレを招待するよう一計を案じる。オクターヴは「もう善悪を判断したくない。恐ろしいのは誰もが正しいということだ」と言い、人と人との間で右往左往する調整役の男だ。ラ・ジュネイ侯爵は「私は壁を作りたくない」と寛容な気持ちでアンドレを招待することを了承する。侯爵は、鳥の自動人形に夢中のコレクターだ。侯爵にとって妻のクリスティーヌもまたコレクションの一つなのかもしれない。侯爵の愛人ジュヌヴィエーヴ(ミラ・パレリ)と、愛する妻のために別れようとするがなかなか別れられない。女性を傷つけたくないんだという侯爵。オクターヴは、クリスティーヌの小間使いのリゼット(ポーレット・デュボスト)をからかってフザケあったりする場面もある。リゼットもまた、郊外のコリニエールで密猟管理人をしている生真面目な夫シュマシェール(ガストン・モド)と一緒にいるより、パリでクリスティーヌに仕えていた方が楽しいという社交的な性格。夫以外の男とじぁれ合うのも好きな女性だ。男性に対して愛想良く振る舞うクリスティーヌとリゼットという身分の違うが似たような女性が、男を惑わし、騒動を引き起こすのが面白い。

屋敷の廊下を使った縦の構図が素晴らしい。おそらくセットだろうが縦の奥行きを使って屋敷に集った人物たちを自在に動かす演出力。とくに狩りの前夜のウキウキとした招待客たち。オクターヴが召使いの女性の尻を叩いたり、道化的な動きを担っている。一方で使用人たちは食事をしながらアンドレとクリスティーヌの噂話。料理人や執事や小間使いのリゼットと密猟者で召使いになったマルソーの視線のやり取りなど、上流者階級とはまた別の世界がここでも出来上がっており、屋敷での二重構造がまた面白い。

そして上流階級の人々の狩りの様子が丁寧に描かれる。勢子が木々をたたいて獲物を追い立て、野ウサギやキジなどが逃げる中で次々と小動物たちが猟銃で撃ち殺される場面が続く。今だったら動物愛護の問題になりそうだが、とにかく無残に撃ち殺される野ウサギや鳥たち。上流階級に人々の傲慢さや暴力性が強調される。そこでクリスティーヌが双眼鏡で、夫の侯爵と愛人ジュヌヴィエーヴがキスしている場面を覗き見してしまう。二人にとっては別れ話のキスだったのがまた皮肉だ。クリスティーヌは、夫との関係を聞き出すため、帰り支度をするジュヌヴィエーヌを引き留め、夫の寝タバコのクセなどを話して一緒に笑い合う。女同士の探り合いもまたスリリングだ。そしていよいよ夜の仮装パーティーが始まる。

ここで騒動のキッカケとなるのが、密猟者で召使いになったマルソーがリゼットとイチャついたことで、嫉妬からマルソーを追い回すシュマシェールなどの下層階級の者たちなのだ。マルソーも道化的な存在で侯爵と仲良くなり、屋敷の中を逃げ回る。拳銃で撃ちまくるのも「余興か」などと言われつつ、ドタバタが始まる。一方、上流階級のものたちも仮装でクリスティーヌと仲良くしたサン=トーバンという男とアンドレのケンカが屋敷の階段で始まり、さらにアンドレと侯爵のケンカも始まる。音楽や仮装パーティー、侯爵の自動演奏楽器のお披露目や、自動ピアノや骸骨たちの怪しげなダンスなど、屋敷は賑やかだ。ジュヌヴィエーヴのヒステリックは悲鳴もあり、殴り合いのケンカに拳銃を撃ちながらの命懸けの追いかけっこが繰り広げられるのだ。まさに映画史に残る見事な空騒ぎのドタバタ演出である。仮装で演じたクマの着ぐるみが脱げなくなるオクターヴを始め、とにかく登場人物たちは動き回り、走り回り、ダンスをしたりケンカをしたり、部屋を出たり入ったり、女を抱きかかえ、暴れ回り、追いかけまわる。

ジャン・ルノワール監督自ら演じているオクターヴは、「現代の人間はウソばかりつく」と言って、嘘とそれぞれの正しさの中で翻弄される。人づきあいが良く、クリスチーヌの相談にも乗る善良な男で、若い頃は大物になろうと野望を持っていたが、落伍者、人生の失敗者としての過去を持つ。騒動が一段落して、夜のテラスに出たオクターヴ。偉大なる指揮者であったクリスティーヌの父の昔話を彼女にしながら、屋敷の外の階段の上のテラスで、指揮者の真似をしてかつての夢を見る。夜の庭に響くカエルの声。そのとき、リゼットから「寒いですから」とクリスチーヌはリゼットのマントを借りて羽織るのだ。この夫から贈られたリゼットのマントを羽織ることで、さらなる誤解が生まれ事件が起きる。騒動の責任を取って解雇されたシュマシェールとマルソーがマントを着たクリスチーヌをリゼットだと誤解してしまうのだ。またしても嫉妬が男たちを狂わせる。

「負け犬の寄生虫だ」と自ら呟くオクターヴをクリスチーヌは慰め、今度はオクターヴを愛していると言い出し、温室の中で「キスして」と言うのだ。屋敷に戻るつもりのないクリスチーヌは、オクターヴと逃げる約束をする。オクターヴがクリスチーヌのコートを取りに屋敷に戻ったところで、リゼットは「若者は若者同士がいい。奥様にはお金が必要だわ」と二人で逃げることに懸念を示す。オクターヴが自分のコートと踏み潰された帽子を見つけた鏡の前の場面、そこにアンドレの「クリスティーヌはどこ?」という声が聞こえ、カメラが素早くパンをする。そこに立っていたアンドレの姿を見て、オクターヴは思わず、「彼女は君を待ってる」と答えてしまうのだ。そして「温室で待っているから」と自らのコートまでアンドレに渡すのだ。そしてアンドレを見送って自分の帽子を床に投げ捨てる。その帽子を拾って手渡しながら侯爵が、「君も妻が好きか」と言う。愛する女性を失った男二人。なんという見事なシーンだろう。自らの希望の未来をあっさりアンドレに譲ってしまうオクターヴの哀しさ。結局、アンドレは温室にクリスティーヌを迎えに行って、シュマシェールによって誤って撃たれてしまうのだ。殺人事件もあったのに、すべてが余興であったかのように、侯爵は「運命の悲劇だった」と客たちに告げる。

クリスティーヌという女性もまたよく分からない存在だ。侯爵である夫を愛しつつも、飛行士のアンドレと仲良くして男を夢中にさせ、侯爵とジュヌヴィエーヴの愛人関係を知り、嘘で固められていた自らの結婚生活を呪う。仮装パーティーではほかの男を部屋に招き入れて仲良くしたり、その男と殴り合いのケンカをした飛行士のアンドレに「あなたを愛している。今だから言えるわ」と言ってみたり、さらに兄のように慕っていたオクターヴの男としての弱音を聞くと、これまた「愛している」と言って二人で逃げようとする。言い寄られる男に対して誰でも受け入れてしまうような曖昧な存在なのだ。自分でも誰が好きなのかよくわからないのだろう。そんな美しきファムファタール、クリスティーヌに男たちが翻弄されてしまう物語でもあるのだ。

男はいつだって女を狩りのように追い求め、女はそんな男を図に乗らせないように、はぐらかせながら戯れて受け入れていく。夢想家のアンドレや嫉妬深いシュマシェールのように女を独占しようとするとトラブルになる。愛人だったジュヌヴィエーヴも侯爵が「ここは私の家だ」と叫ぶと、「その所有観念がイヤ」と言い放つ。そんな男と女のどうにもならないイタチごっここそ「ゲームの規則」であり、その規則をわきまえないとどうにもならくなる空騒ぎを戯画化した人間喜劇だ。人間は惚れやすく移り気で欲深く、夢見る愚かな存在なのだ。


1939年製作/106分/G/フランス
原題または英題:La regle du jeu
配給:コピアポア・フィルム

監督・脚本:ジャン・ルノワール
製作:クロード・ルノワール
撮影:ジャン・パシュレ
美術:ユージェーヌ・ルリエ
衣装:ココ・シャネル
編集:マルグリット・ルノワール
音楽:ロジェ・デゾルミエール
助監督:アンドレ・ズボパダ、アンリ・カルティエ=ブレッソン
キャスト:マルセル・ダリオ、ノラ・グレゴール、ローラン・トゥータン、ジャン・ルノワール、ミラ・パレリ、オデット・タラザク、ポーレット・デュボスト、ガストン・モド、ジュリアン・カレット
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