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2023年06月29日22:03

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「あかんやつら 東映京都撮影所血風録」春日太一(文春文庫)レビュー

マイミクのnaoさんのおススメで読んだ。面白かった。

時代劇研究家で、時代劇に関する著書も多い春日太一氏による東映京都撮影所の疾風怒涛の歴史物語だ。作品論や監督論ではない。時代とともに変化しながら映画産業を守り続けてきた東映の苦闘の歴史であり、東映京都撮影所の時代劇に関わるスタッフたちの熱き思いが詰まっている。

序章の「小指のない門番」から凄まじい話で引き込まれる。全身に刺青を背負った小指のない老門番、並河正夫氏の人生。復員兵から任侠の道に入り、1950年代の時代劇の人気スター中村錦之助と出会って東映入りした後、昼は製作進行、夜は錦之助の用心棒をつとめ、2010年86歳で亡くなるまで、東映京都撮影所とともに人生を過ごした男の人生がまず描かれる。

そして「日本映画の父」牧野省三の次男であるマキノ光雄のプロデューサーとしての物語。1947年、満州映画協会の引揚者を中心に東映の前身、東横映画からスタートしたオンボロ撮影所。松竹、東宝、大映に次ぐ後発映画会社であり、大映京都第二撮影所であったため、配給収入は大映に搾取されて作品がヒットしても増えず、独自の作品をかける映画館も不足していた。撮影所の負債が増え続ける中、地方の映画館を中心に時代劇の量産体制を敷くことで、時代劇ブームを作りだし、大映から独立した東映は生き延びた。片岡千恵蔵、市川右太衛門の二大スターを中心に、「二本立て興行」を成功させ、子供向け映画も作りながら「東映娯楽映画」を確立していった。なかでも中村錦之助の『笛吹童子』が子供に大人気となり、膨大な借金を見事に返済し、東映の新たな時代を築いていった。

大映が黒澤明の『羅生門』や溝口健二の『雨月物語』『山椒大夫』、衣笠貞之助の『地獄門』などで次々と海外の映画祭で認められる映画を作り、日活では石原裕次郎が1956年『狂った果実』でデビューし、一躍スターになっていく。東宝は1954年『七人の侍』『ゴジラ』と大作で大ヒットを飛ばしていた。そんななかで東映はプログラムピクチャーとしての時代劇を作り続けた。錦之助の『一心太助』シリーズ、橋蔵の『新吾十番勝負』シリーズ、千恵蔵の『遠山の金さん』シリーズ、右太衛門の『旗本退屈男』シリーズなど、スターシステム・ローテーションを確立し、映画界を席巻していく。「重厚なドラマ」ではなく、「テンポ」と「スピード感」を重視し、「ヤマ場からヤマ場へ」、観客を飽きさせずに楽しめるもの、それが創立以来受け継がれてきた東映のマキノイズムだった。「泣く・笑う・(手に汗)握る」時代劇の鉄則、「いつも客のことを忘れたらアカンで。暇があったら小屋に行って客の顔を見て来い」というマキノ光雄の教えとともに、大衆娯楽に徹した東映の社風が確立されていった。

驚くのは、戦後の映画勃興期の世界で、ヒロポンをスタッフみんなに打ちながら徹夜で仕事を続けていたり、警察から本物のピストルを借りて使ったり、ヤクザ組織との密着ぶりもいろいろあった。最初の頃のスタッフは、満州からの引き揚げ者、ヤクザ出身者、そしてレッドパージで働き口を失ったインテリ崩れなど、不良者たちのたまり場、「あかんやつら」だった。金はなくても、夢と熱意だけはあったという。

48歳でマキノ光雄が早逝すると、「東大経済学部出身のエリート」岡田茂が後を継いでいく。岡田茂は「ヤクザを柔道技で投げた」武勇伝もあり、製作進行出身で現場のスタッフのことをよく分かっていた。「鬼の岡田茂」と言われるようになり、次第に企画などの全ての決定権を持って次の時代の東映を牽引していく。

しかし、スター中心主義の東映時代劇は次第にマンネリのワンパターンで飽きられるようになり、黒澤明の『用心棒』や『椿三十郎』など、西部劇のようなスタイリッシュで、リアルな迫力に満ちた新しい時代劇が台頭してくる。東映は、文芸大作時代劇を作って失敗したりして迷走し、映画の斜陽と共にやがて時代劇そのものが凋落していく。そんな中で東映が活路を見出していったのは、スター主義ではない集団時代劇だった。人情の世界を捨てて、非情な集団の生々しい殺し合い。『十七人の忍者』、『十三人の刺客』、『大殺陣』、『柳生武芸帳』、『十兵衛暗殺剣』など。工藤栄一監督、脚本家の池上金男(池宮彰一��)、高田宏治らが活躍し、助監督出身の中島貞夫、鈴木則文、鳥居元宏、山内鉄也、牧口雄二、掛札昌裕など新しい世代も育っていった。

そして時代劇から任侠映画と時代は移り、任侠の世界と親交の深い俊藤浩滋をプロデューサーに迎え、鶴田浩二、高倉健、藤純子、若山富三郎、菅原文太と次々とスターを作り出していった。なかでも『緋牡丹博徒』シリーズはヒットした。さらに岡田茂は不良性感度の高い男性客のために、併映作品としてピンク映画も製作していった。石井輝男の異常性愛を描いたものなども生まれた。
そしてエロも飽きられると、今度は「エロからテロへ」、ドキュメントタッチの暗殺劇も作られていく。さらに、藤純子の引退などを機に任侠映画が終わりを告げると、その次は壮絶なヤクザ抗争を描いた『仁義なき戦い』が登場する。深作欣二が手持ちカメラでドキュメントタッチで実録もので躍動する。2匹目、3匹目のドジョウの狙い続けた岡田茂の徹底したシリーズ企画も、実録ヤクザ路線には限界があった。『北陸代理戦争』は映画がキッカケとなって、本物のヤクザ抗争を引き起こしてしまったのだ。

50年代の映画黄金期以降、量産体制を前提にしたシステムを構築した東映の二本立て興行も、長引く映画不況と東宝の1973年の『日本沈没』の1本立て大作がヒットしたことで、邦画界は一気に大作志向へと向かっていく。角川映画が『犬神家の一族』などメディアミックスと大量宣伝でヒットを飛ばし続ける中、東映は大作映画を次々と失敗していく。ヒットしたのは『柳生一族の陰謀』ぐらいだ。やがて東映京都撮影所はテレビ時代劇へと収入の柱をシフトしていき、映画以外の収入源となっていた太秦映画村の拡張へと向かっていった。

とにかくスタッフたちのリアルな声を丹念に取材しており、時代ごとの危機を乗り越えようとする映画人たちの苦闘の歴史が見事に活写されている。とくに人物像の描かれ方は、どれも魅力的で、困難な時代を生き抜いた男たちの迫力がある。映画という集団で創造する世界でのそれぞれの人物たちの葛藤や苦闘。映画をヒットさせ、興行を成立させるための苦悩。そしてスタッフたちの熱き思いがここに詰め込まれている。
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