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2022年09月01日22:59

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追悼・青山真治の原点『Helpless』

2022年3月に亡くなった青山真治監督の原点ともいえる『Helpless』を再見。1996年の映画だから、20数年ぶりに見直した。青山真治の北九州サーガ三部作と言われている連作の最初の作品。この映画の10年後の設定が『サッドヴァケイション』(2007年)につながっていく。また、『EUREKA ユリイカ』(2000年)のその後も『サッドヴァケイション』では描かれる。3作品はつながっているのだ。

16ミリからのブローアップ映像ということで、画面自体は荒い。冒頭は空撮が乱暴に振り回されており、不安定な映像から始まる。病院から出てきた浅野忠信はバイクに乗り、街を走る。仮出所したヤクザの光石研は電車で故郷に帰ってくる。公開当時観たときに、閉塞した北九州の田舎の鬱屈した暴力描写が印象に残った。何か「やり場のない行き詰まり感」が画面を支配していた。浅野忠信演じる健次という男の冷たい無表情と暴力。長谷川和彦の『青春殺人者』に通じるような焦燥感と鬱屈感。あらためて見てみると、思ったほど過激な暴力は描写されていない。あえて直接的な暴力は描かずに、音の表現や暴力の前後のカットを編集で使いながら、不穏な空気を描いている。それは『EUREKA ユリイカ』のバスジャック事件の描写と同じだ。

この映画は、「父殺し」をしたくても「殺すべき父の不在」で出来なくなった息子たちの「やり場のなさ」が描かれている。健次(浅野忠信)の入院している父は、突然首つり自殺してしまうし、健次の幼馴染みのヤクザのチンピラ、松村安男(光石研)の父親的存在の組長は、すでに死んでいた。父権性の暴力の象徴=組長は「すでに死んでいるのだ」。「組長は死んで、組は潰れた」と兄貴分の坂梨(永澤俊矢)に言われても、松村安男(光石研)は信じない。組長は俺から姿を隠しているんだと思い込み、次々とピストルで仲間を殺していく。狂犬のようだ。片腕になってまで組のために尽くした自分はなんだったのか?組長と向き合うことで、自分の存在を確認するはずだった安男。組長を自ら殺したい「父殺し」の安男の欲望は、宙に浮いたまま、健次(浅野忠信)と知的障害のある妹ユリ(辻香緒里)を巻き込みながら、次々と殺人へと向かっていく。そして最後は自らの頭を撃って自死する。それも直接的には描かずに、車の中の血とピストルの音、窓から出たスーツの失われた片腕の袖が示される。ラストに健次が目撃する片腕の袖が窓から出た車はなぜ動いているのか?イメージなのだろうか。ちょっと非現実的な描写で終わる。

『EUREKA ユリイカ』で、途中から突然現れる子供たちの従兄弟の秋彦(斉藤陽一郎)は、この『Helpless』でも途中から闖入者のように健次とユリの前に現れる。健次の同級生でいじめられっ子だった秋彦は、健次のことを「許す」と呟く。健次が父の病院に電話をかけている時、トンネルの中からポラロイドカメラの光とともに秋彦は登場する。鄙びたドライブインの不穏な空気の中、暢気に明るくテレビ番組のことを饒舌に語り、どこか場違いな感じ。『EUREKA ユリイカ』で役所広司に語っていた「ヤクザに殺されそうになって、友達に助けてもらった」という秋彦のエピソードは、この『Helpless』で描かれていた。ドライブインのウェイトレスと料理人を演じた伊佐山ひろ子、諏訪太朗も好演。健次演じる浅野忠信の訳の分からない不気味さが鮮烈にこのドライブインのシーンで描かれている。父の自殺の知らせを聞いた直後の健次は、やり場のない怒りを、伊佐山ひろ子と諏訪太郎にぶつける。

この映画で、父が病院で口ずさんでいた歌、「インターナショナル」は革命歌である。きっと組合運動、労働運動に真剣に向き合った父親なのだろう。九州の炭鉱労働者だったのかもしれない。詳しくは描かれないが、父親から何も語ってもらえなかった健次の無念さや怒りが暴力という形で暴発する。10年後を描いた『サッドヴァケイション』では、家庭を捨てた母親の石田えりによって、「お父ちゃんは立派な人だったのよ。お酒さえ飲まなければ」と健次(浅野忠信)に語られていた。

秋彦(斉藤陽一郎)、健次(浅野忠信)だけではなく、安男の知的障害の妹ユリ(辻香緒里)もまた、同じ役者で『サッドヴァケイション』にも登場する。ウサギを可愛がりながら、死んだ兄を待ち続ける無垢なる存在。こんな風に3作品を続けて見ると、いろんなことが分かってくる。

やや荒削りながらも、田舎の閉塞感、対決すべき父は不在で怒りの矛先さえ見つからない不満、やり場の無さが描かれた秀作だ。なんと言っても若き浅野忠信の得体の知れなさが見事だ。自分でもコントロールできないどうにもならなさ。直情的なヤクザの光石研の暴走に巻き込まれながら、健次は一体どこへ向うのか?浮遊して彷徨うようなラストの浅野忠信の歩きと光石研の失われた片腕の袖が、妙に印象に残る。
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