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2016年10月13日18:25

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夏目漱石と村上春樹のこと

NHKドラマ『夏目漱石の妻』を見ていると、夏目漱石もいろいろと大変だったのだなぁ〜と、あらためて思う。恥ずかしながら、詳しい生い立ちなど不勉強のためよく知らなかったもので・・・。何が本当だったかは分からないが、漱石がとことん家庭の愛に見放されて育ったのは確かなようだ。

夏目漱石こと金之助は、父・夏目直克50歳、母・千枝41歳の時に生まれた5人兄弟の末子。江戸奉行支配下の町方名主だった夏目家だが、年の離れた末っ子は歓迎されず、四谷の古道具屋に里子に出された。ドラマの中でも語られていたが、古道具と一緒に小さなザルに入れられた金之助を見た姉が不憫に思い、夏目家に連れて帰ったところ、父にひどく怒られたという。そして、金之助は再び養子に出されてしまう。

養父となった塩原昌之助は身持ちが悪く、たびたび女性問題を起こし、妻と離婚後、金之助は9歳の時に塩原籍のまま夏目家に戻る。夏目家に戻ってきた金之助だが、両親の愛情はあまり受けられなかったようだ。「塩原家にいた方が、金之助は幸せだったのではないか」と兄が語る場面がドラマではある。

成績優秀だった金之助は、出世も期待され、養父の塩原は金之助を手放すのが惜しかったのか、夏目家の復籍に同意したのは金之助21歳のときだったという。

塩原は、漱石の父にそれまでの養育料を要求しただけでなく、漱石に対しても 「互いに不実不人情に相成らざる様致度存候也」という証文を書かせた。それが漱石に後々、不幸をもたらす。

漱石はイギリス留学から帰国後、胃痛と神経衰弱で苦しむのだが、そんなとき養父の塩原が金を無心にやってくる。「不実不人情に相成らざる様」という証文のおかげで、漱石は金の無心を断れない。

実の父に見放され、戻ってきても愛されず、可愛がってくれた養父には、金のために裏切られ、金の無心を大人になってからもされる。まったく、家族の愛にとことん見放された不幸な男だ。

イギリス留学で神経衰弱になった漱石は、帰国後はかなり酷かったらしい。子供を殴るし、突然キレる。幼児虐待に暴力夫。悪妻と言われ、精神的に不安定で、癇癪もちだったという妻の鏡子だが、夫も妻もどちらも大変だったことでしょう。

西欧の近代と明治の日本の間で自我を追求し続けた漱石だが、幼少期の愛の不足がなんらかの創作活動に影響を与えたのは確かなことだろう。大作家になるようなクリエイティブな人間というのは、どこか不幸を背負っているものなのだろうか。コンプレックスや弱みこそが、創造の源泉になるのだろうか・・・と漱石の人生を考えるとつい思ってしまう。


一方、毎年ノーベル文学賞に名前が上がる村上春樹だが、彼は学生結婚をして、ほとんど学校にも行かず、好きなジャズに浸っていたいという願望からジャズの店をはじめ、そこそこ軌道に乗せていたという。小説家になることなど、夢にも思っていなかったそうだ。それがある晴れた日に神宮球場の外野席の芝生でヤクルト戦を見ていた時、突然、「小説が書けるかもしれない」と思ったとういう。

そして彼は、その日のうちに原稿用紙と万年筆を買ってきて、小説を書き始めた。デビュー作、『風の歌を聴け』だ。彼は一度、万年筆で書いてから、うまくいかずに、ワープロで英語で小説を書きなおしたそうだ。その英語を再び日本語に翻訳しつつ、書き直したところ、文体にリズムが生まれ、なんとか初めての小説が完成したという。村上春樹が世界的に受け入れられる理由は、そんなシンプルな文体にあるのかもしれない。

その小説が、群像新人賞になっていなければ、彼は小説家にはならなかっただろうとも書いている。運と縁(タイミング)ですね。

村上春樹には、夏目漱石のような不幸な生い立ちや影は感じられない。お店をやっていた頃の夫婦二人の貧乏生活時代はあったようだけど。自分の生活スタイルや自らの小説に強い矜持がある彼は、芥川賞などとってもとらなくてもどうでも良かったと『職業としての小説家』に書いている。きっとノーベル文学賞もとってもとらなくてもどうでもいいと思っているだろう。

作家と人生のあり方がどのように関わっているのか。きっと、まったく人それぞれだし、幸せで人生に満足している人が、必ずしもクリエイティブになれないわけでもないのだろう。それでもどんなふうに生きてきたかは、やはり作品にも表れるはずではある。

村上春樹の独特の生活スタイルや人との距離感は、そのまま彼の小説に表れているのも確かなことだ。



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