「おこんばんは。あら、お邪魔さま、おやすみなさい」
二階のベランダの窓を開けたアイさんは、そこにいたコモドオオトカゲを見て、すぐに窓を閉めようとした。
「逃げるのかね、お嬢さん」
「その偉そうな態度がむかつくから帰るのよ。逃げるって何。それにお嬢さんて言うけどねえ。私、あなたより、どれだけ年上だと思っているのよ。百年単位で上なのよ」
「そりゃ失礼した。お美しさが、お嬢さんにしか見えないもので、つい、失礼した」
「それはそれでいいわよ。じゃあ、お嬢さんで行きましょう。可愛いって損よね。貫禄出ないから」
窓を閉めると、一瞬消えて、アイさんは次の瞬間には、ベッドサイドに腰をかけていた。
「そういうことが出来るなら窓から入って来る必要ないんじゃないのかなあ」
ベッドの向かいの床に座っていたコモドとは正対するような格好に座るアイさんにコモドが言った。実際、アイさんは幽霊なので、窓も壁も関係ない。幽霊には実体がないのだから。実体はないのだが、アイさんはコーヒーも飲めば、甘い物もよく食べる。いくら食べても太らないから幽霊はいい、と、言っていたことがあった。それぐらい、よく食べる。まったく幽霊というのは分からないものだ。
「親しき仲にも礼儀ありってとこかな。それに、この男、一人だと何しているか分からないでしょ」
「一人じゃないかもしれないですしね」
筆者がそう言うと、コモドとアイさんは二人合わせて首を大きく横に振り、憐れむように筆者を見た。この二人、仲は悪いくせに、妙に気が合うところがあるのだ。
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