『
黒衣の刺客』
映画に何を求めるのか。
…で印象は変わるかな?
巨匠ホウ・シャオシェン、8年ぶりの新作は独自の美学に彩られた武侠映画。
武侠映画といってもウォン・カーウァイ『楽園の瑕』、アン・リー『グリーン・ディスティニー』、チャン・イーモウ『HERO』等のいずれとも違う味わい。
ホウ・シャオシェンが手掛けると、かくも格調高くなるのかと思わせられる反面、アクション映画としては興奮させられない。
劇中では余計な説明が極力省かれセリフも控えめ、二役の俳優もいるために人物関係が分かり辛い。
事前に情報を聞いて公式サイトで下調べしていたが、それでも骨が折れた。
ホウ・シャオシェンほどの監督がそんなことに思いが至らないことはあるまい。
当然、何らかの意図はあるはず。
一般的に黒衣といえば葬儀を思い出す。
主人公ニエ・インニャンが<刺客>なのだから死の匂いが付きまとうのは、むしろ当然ともいえる。
舞台となっている時代背景は唐代王朝に陰りが見えてきた時代らしい。
陰謀渦巻く暗い時代、喪に服しているかのような冒頭のモノクローム映像。
そんな時代に生きなければならなかったヒロインにはどういう性質を持たせているか。
彼女の取った行動にこそメッセージが込められているのではないか。
彼女の刺客としてのスキルに疑いはない。
…とすれば、おぼろげながらに言いたいことがつかめる気がした。
戦時下で生きる才能を持ちながら、彼女の行動は時代を否定しているかのように思える。
それは“人殺しが行われる”どの時代にも通じることなのではないか。
しかし、何といってもこの映画は
芸術的美しさの映像によって記憶にとどめられるに違いない。
ワンフレームごとに額装したいくらい。
デジタル時代にフィルム撮影されたという名カメラマン<リー・ピンビン>の撮影に酔う。
皮肉な運命を背負わされたヒロイン、ニエ・インニャンをホウ・シャオシェン映画の“ミューズ”スー・チーが演じる。
鏡磨きの青年役の妻夫木聡も花を添える。
ひと目見てわかる日本の寺院は中国唐代の物とは違うと思うが、それなりの事情があったのかな?
ログインしてコメントを確認・投稿する