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2018年07月07日00:13

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いたずらに過ぎる月日-恵慶法師

左兵衛督藤原懐平家屏風に

(64)いたつらに過る月日を七夕のあふよのかずとおもハましかハ

吉田栄司編『七夕和歌集』(古典文庫)所収
「七夕星歌抄」(元禄頃刊)より

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一昨日に続いて『七夕和歌集』から。
恵慶(えぎょう)法師は小倉百人一首にも撰ばれた歌人であり、中古三十六歌仙の一人でもある。
歌人としては高名な部類に入ると思うが、ウィキペディアでも「生没年不明」「出自・経歴は不詳」とされている。『恵慶法師集』という家集が残ってはいるものの、歌以外に伝えられることは少ない歌人のようだ。

冒頭の歌は、『拾遺和歌集』にも撰ばれている(歌番号151)。
僕なりに漢字をあててみる。

「徒に過る月日を七夕の
逢ふ夜の数と思はましかば」

【拙釈】
「無為に過ぎていく月日の数が、七夕の織姫と彦星のように恋人どうしが逢う夜の数であったらなぁ。どれだけ素敵なことか。」

訳は出来ても、言いたいことの趣が分かりにくい。
「いたずらに過ぎる月日」は「つまらないもの」であり、「恋人たちの逢う夜」は「素敵なもの」だ。前者を後者に置き換えられるのであれば、それは素敵なことだろう。しかし、そんなことを思い願うのは「むしが良すぎる」し、その願望にはとりたてて風情も感じられない。

『恵慶法師集』を調べてみたら、次のような歌があった。
(77)たなはたの−あふよのかすを−いたつらに−すくすつきひに−なすよしもかな
http://tois.nichibun.ac.jp/database/html2/waka/waka_i110.html

これにも漢字をあててみる。

「七夕の逢う夜の数を徒に
過す月日に為す由も哉」

ほとんど、意味は変わらないだろうか。

新日本古典文学大系の『拾遺和歌集』の中の訳を読んでみたが、やはりこの歌の味わいが分からない。作者は高名な歌人であり、勅撰和歌集にも採られた歌だ。そんなにつまらない歌ではないはずなのだが。

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「帯とけの古典文芸」というブログがあって、この歌(の類歌)が取り上げられていた。
以下に引用する。

◆帯とけの拾遺抄 巻第三 秋 (九十五)(九十六)
https://blog.goo.ne.jp/87108/e/27ce5cb97780ca56f22a1609f5515570

「修理大夫義懐家の屏風にたなばたまつりのかたかける所に        恵京法師
九十六 いたづらにすぐるつきひをたなばたの ぬるよのかずとおもはましかば」

「ただ何となく過ぎる月日を、七夕星の共寝の数と思えばいいだろう、ならば・日々好日だろう……無駄に過ぎる突き引きを、たなばた星の濡れるよの数と思えばいいだろうに、ならば・つき引すべて好き合いだろうか」

「歌言葉の言の心と言の戯れ
「いたづらに…無駄に…なんとなく…むなしく」「すぐる…過ぎて行く…過ごす」「月日…つきひ…突き引き」「たなばたのぬるよのかず…少ない好き夜」「ぬる…寝る…共寝する…濡る…濡れる」「ましかば…ましかば・ましの略…もしも何々ならば何々だろうに…適当の意を表す…ためらいの意を表す」 」
「歌の清げな姿は、無駄に過ごしている日々こそ好日と思うといいだろう。
心におかしきところは、よわよわしいおとこを慰めつつ逆転の発想をすすめてみせるところ。
拾遺集に「左兵衛督藤原懐平家の」とある。また別の伝本に「修理大夫懐平家の」とある。いずれにしても、長らく同じ官職に留まっているか、病弱のため長らく出仕できないか、そのような男を慰める歌。」

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紹介されている『拾遺抄』は藤原公任による私撰和歌集であり、『拾遺和歌集』の母体となったものとも言われている。そちらでは、「あふよのかず」が「ぬるよのかず」であったようだ。「ぬる…寝る…共寝する…濡る…濡れる」であるから、「あふ(逢う)」も同義とはいえ、表現としては随分と艶かしくなる。

帯とけ氏による解説は、ある意味では明快だ。
「よわよわしいおとこを慰めつつ逆転の発想をすすめてみせる」
「長らく同じ官職に留まっているか、病弱のため長らく出仕できないか、そのような男を慰める歌」

なるほど!

和歌の道は深い。

なお、この歌の「恵慶法師集」バージョンは、宮内庁書陵部に所蔵されている『恵慶集』の画像として以下の「17/56コマ」で見ることができる。
(赤丸印から始まる2行が該当。)
フォト

http://base1.nijl.ac.jp/iview/Frame.jsp?DB_ID=G0003917KTM&C_CODE=0020-03305&IMG_SIZE=&PROC_TYPE=null&SHOMEI=%E3%80%90%E6%81%B5%E6%85%B6%E6%B3%95%E5%B8%AB%E9%9B%86%E3%80%91&REQUEST_MARK=null&OWNER=null&BID=null&IMG_NO=17

◆彦星の妻待つ宵-躬恒(2018年07月05日)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1967340600&owner_id=2312860

◆メモ
「恵慶法師集」=群書類従二六七・私家集大成一・新編国歌大観三などに所収。
◆拾遺和歌集
http://genjiemuseum.web.fc2.com/sihu1.html
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