はやくきてくたされ はやくきてくたされ
はやくきてくたされ はやくきてくたされ
いしよのたのみて ありまする
にしさむいてわおかみ ひかしさむいてわ
おかみしております
きたさむいてわおかみおります
みなみたむいてわおかんておりまする
この抜き書きは野口シカ、野口英世の母がアメリカにいる英世に送った手紙の一部です。読みやすいように少し直してみます。
早く帰ってきてください。早く帰ってきてください。
一生のお願いです。
西を向いては拝み、東を向いては拝んでいます。
北を向いては拝み、南を向いては拝んでいます。
○
ぼくは子供頃からクイズ王だった。クイズ王と言ったって別にテレビに出て優勝したりしたわけじゃない、クイズ番組を見ながら、
「うーん、これならぼくは負けなしだなあ」
などと思っていたのに過ぎないんですけどね。
そのぼくが
「あー、この人には勝てないかもしれない」
とはじめて思ったのは、水上くんです。後にも先にもこの人だけ。
わかる人はもう名前だけですぐわかるよね。東大クイズ研で(当時)理3の学生、水上颯くんです。
この人には、
「きっと勝てないんだろうなあ」
(もちろん勝てないのだけど)そう思いながらいつも見ていたわけです。
○
テレ東のクイズ番組「Qさま」(東大クイズ研がよく出ていました)。その決勝ブロック、早押し問題でした。
『「はやくきてくたされ」と書かれた手紙を書いたのは誰でしょう』
もしかしたら、
『……という手紙の受け取り人は誰でしょう』
のどちらかだった。
もちろんぼくは瞬間にわかる、
「野口英世の母の手紙だね」
なのだが、ほぼぼくと同じタイミングで早押しした解答者がいた。水上くんだった。他には誰もいなかった。気分的にはマッチアップの気分で、水上くんの答えを待った。
○
結果は、もちろん二人(ぼくと水上くん)共に正解。うーん、そんなもんかなのだが、水上くんがひょんなことを言いはじめた
「あの、ぼく、この手紙、よく知っているんです」
「へぇー、どういう風に」
「どういうって………はやくきてくたされ
いしよのたのみて ありまする
にしさむいてわおかみ ひかしさむ
いてわおかみ しております
きたさむいてわおかみおります
みなみたむいてわおかんておりまする 」
と問題文の箇所を諳んじはじめたのですね。
ボー然、ぼくだってうろ覚えではあるのですが、諳んじてはいない。ぼくはゆるゆる感動したのですね。
○
野口シカは元々は無筆の人、文字が読めない人だった。
その人が45歳の時に産婆さんを志す。その試験のためにと、やっとおぼえたひらがな文字だった。たどたどしい手紙の文字面、そこには言葉以上のこころの声がする。
さわると文字がほどけ、声になって踊り出そうだ。
(野口シカは亡くなるまでに200人以上の子供を取り上げています)
○
ぼくは小学校の時、課題で野口英世を紙芝居に仕上げたことがある。その時にもシカさんの手紙には泣かされたし、だからクイズの答えはすぐ分かったのです。けれどね、その時の思いに重なるように、ぼくは違うことを思い出した。
それは、水上くんが理3の学生だったこと。
「あの手紙を諳んじている人が医者になるんだ」
「……野口英世の母親の気持ちがわかる理3の学生なんだ」
「それならいい、それならいい、東大の医学部は大したもんだ」
というあの手紙から受けた感動が、水上くんと一体になってユルユルになったわけです。
(手紙の続きです)
ついたちにわしをたち(塩絶ち)をしております。
ゐ少さま(和尚)に。ついたちにわおかんてもろておりまする。
なにおわすれても。これわすれません。さしん(写真)おみるト。
いただいておりまする。はやくきてくたされ。
いつくるトおせて(教えて)くたされ。
これのへんち(返事)ち まちてをりまする。
ねてもねむられません
これがわかる人なら、きっといい医者になると思ったのです。
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